49 / 97
夜のむし屋
夜のむし屋
しおりを挟む
錆色の煤竹で囲われた和モダンなお店。
高級料亭を思わせるようなしっくりと落ち着いた佇まい。
チョコレート色のモダンドア。
掲げられた看板には『人』の文字が入った『虫』の漢字で、むし屋と書かれていた。
辺りはひっそりと夜の帳が降りている。
神明神社の夏の蒸した夜とは違い、ほんのり秋を漂わせた涼しい夜だ。
しとしとと、線のような小雨が降り注いでいる。
読書が似合う、しっとり落ち着いた夜。
そのせいで、むし屋の外観も、いつもよりひっそりして見えた。
「虫の中に人が二つ……ダメほたるとオオミズアオが言ってたむしだ」
水黄緑の君に包まったまま優太君が顎をつんと上げて、看板を仰いだ。
「あたし、むし屋に来れた……」
ほたるは、感動に身体を震わせていた。
「むし屋に来れたー!! 水黄緑の君、ありがとう~」
「え、なになにぃ? よくわかんないけど、僕、ほたるちゃんに感謝されてるー? くるしゅーない、くるしゅーない」
ぎゅっと水黄緑の君の腕に力がこもって「ぐぇ」とほたるは潰れたカエルのような悲鳴を上げた。
「ぐ、ぐるじーです」
「あっはっは。くるしゅーないにかけてるのー? ほたるちゃんってば面白ーい」
「い、いや、本当にくるしー」
「うぉりゃ」
すぽん、と、優太君が水黄緑の君から脱出。わくわくと目を輝かせてむし屋を仰ぎ見ている。
「なんか不思議な雰囲気の店だなー。怪しいオーラ全開? あやかしが出てくる物語みたいだぜ! なあなあ、早く入ろうぜ」
優太君がほたると水黄緑の君の腕を引っ張って急かしてくる。
「ほんっと人間の子どもは騒がしいなー。食われても知らないよー」
「え? 食われることが、あるのか?」
ドキリと優太君が水黄緑の君を見た。
「さあ、どーだろねー」
水黄緑の君がニヤッと笑う。
(優太君をおちょくって楽しんでる)
やっぱり中身は碧ちゃんだな、と、ほたるは苦笑する。
ちょっぴり怖気づいた優太君を通り過ぎ、水黄緑の君は、衣擦れの音をさせながら、ずかずかチョコレート色の自動ドアへと進んで行った。
「むし屋、いるー?」
まるで知り合いの家に上がり込むみたいに、躊躇も気兼ねもなく、自動ドアをガーとくぐっていく。
「あ、おい、待てよ!! ずりぃぞ!」
慌てて追いかける優太君に「べぇ~だ」と、水黄緑の君が子供みたいに舌を出した。
ガー、ガー。と、自動ドアが、二人を吸い込んで閉まる。
はっと、ほたるは我に返った。
(また、置いてかれた)
「ちょっと、二人とも待ってよ~」
慌ててほたるも自動ドアに走る。
「ん?」
ドアに、なにか、張り紙が貼られていた。
けれど、読む前に、ガーと開いて見えなくなった。
「ま、いっか」
ほたるは、「こんにちはー」と、二人に続いてドアを潜り抜けたのだった。
高級料亭を思わせるようなしっくりと落ち着いた佇まい。
チョコレート色のモダンドア。
掲げられた看板には『人』の文字が入った『虫』の漢字で、むし屋と書かれていた。
辺りはひっそりと夜の帳が降りている。
神明神社の夏の蒸した夜とは違い、ほんのり秋を漂わせた涼しい夜だ。
しとしとと、線のような小雨が降り注いでいる。
読書が似合う、しっとり落ち着いた夜。
そのせいで、むし屋の外観も、いつもよりひっそりして見えた。
「虫の中に人が二つ……ダメほたるとオオミズアオが言ってたむしだ」
水黄緑の君に包まったまま優太君が顎をつんと上げて、看板を仰いだ。
「あたし、むし屋に来れた……」
ほたるは、感動に身体を震わせていた。
「むし屋に来れたー!! 水黄緑の君、ありがとう~」
「え、なになにぃ? よくわかんないけど、僕、ほたるちゃんに感謝されてるー? くるしゅーない、くるしゅーない」
ぎゅっと水黄緑の君の腕に力がこもって「ぐぇ」とほたるは潰れたカエルのような悲鳴を上げた。
「ぐ、ぐるじーです」
「あっはっは。くるしゅーないにかけてるのー? ほたるちゃんってば面白ーい」
「い、いや、本当にくるしー」
「うぉりゃ」
すぽん、と、優太君が水黄緑の君から脱出。わくわくと目を輝かせてむし屋を仰ぎ見ている。
「なんか不思議な雰囲気の店だなー。怪しいオーラ全開? あやかしが出てくる物語みたいだぜ! なあなあ、早く入ろうぜ」
優太君がほたると水黄緑の君の腕を引っ張って急かしてくる。
「ほんっと人間の子どもは騒がしいなー。食われても知らないよー」
「え? 食われることが、あるのか?」
ドキリと優太君が水黄緑の君を見た。
「さあ、どーだろねー」
水黄緑の君がニヤッと笑う。
(優太君をおちょくって楽しんでる)
やっぱり中身は碧ちゃんだな、と、ほたるは苦笑する。
ちょっぴり怖気づいた優太君を通り過ぎ、水黄緑の君は、衣擦れの音をさせながら、ずかずかチョコレート色の自動ドアへと進んで行った。
「むし屋、いるー?」
まるで知り合いの家に上がり込むみたいに、躊躇も気兼ねもなく、自動ドアをガーとくぐっていく。
「あ、おい、待てよ!! ずりぃぞ!」
慌てて追いかける優太君に「べぇ~だ」と、水黄緑の君が子供みたいに舌を出した。
ガー、ガー。と、自動ドアが、二人を吸い込んで閉まる。
はっと、ほたるは我に返った。
(また、置いてかれた)
「ちょっと、二人とも待ってよ~」
慌ててほたるも自動ドアに走る。
「ん?」
ドアに、なにか、張り紙が貼られていた。
けれど、読む前に、ガーと開いて見えなくなった。
「ま、いっか」
ほたるは、「こんにちはー」と、二人に続いてドアを潜り抜けたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)
ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
たったひとつの願いごと
りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。
その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。
少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。
それは…
こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜
おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。
とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。
最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。
先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?
推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕!
※じれじれ?
※ヒーローは第2話から登場。
※5万字前後で完結予定。
※1日1話更新。
※noichigoさんに転載。
※ブザービートからはじまる恋
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる