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夜のむし屋
むし屋開店
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(つまり、ひいじいじの言ってた本物って……本物の、虫ってこと~?)
青ざめるほたるとは正反対にきらっきらの笑顔の優太君が「めっちゃうまいです、これ!」とアキアカネさんに尊敬のまなざしを送っていた。
「オレが前に買ったカレー味のコオロギスナックは、ちょっと干からびた感じがして、マズくはないけどうまくもなかったんですよね。昆虫食ってこんなもんかって思ってたオレの常識を覆すウマさです、これ!!甘じょっぱい味付けとサクサクの食感がサイコー。コンビニのスナック菓子コーナーとかに置いてくんねーかなぁ」
(昆虫食……)
ほたるは、手のひらのものをぶちまけたくなる衝動を何とか抑え、深呼吸を繰り返した。
「……優太君、これもどうぞ」
「いいの?」
持っていたかりんとうを優太君に押し付けたほたるは、そそそと、年輪テーブルから離れ、碧ちゃんの元へ戻った。
「ごめん、碧ちゃん。あたしが間違ってました」
「もう~、だから言ったのにぃ~。僕は、い~っつもほたるちゃんのためを思ってるんだからねー」
(それはちょっと重いけど)
「とにかく未遂ですんで良かったよー。これに懲りて、アホメガネの手料理はぜ~ったい食べちゃダメだよ~。ついでに、アホメガネには近づいちゃダメ~」
「僕がどうしたって?」
「いえ、なんでもないです!」
「そうかい? それより、ほたるちゃん、遠慮してると無くなってしまうよ」
「え? あ、えと……。あたし、よく考えたらダイエット中でした。あははは」
「おや、そうなのかい? 残念だなぁ。でも、ヒトがダイエットをするのは繁殖行動のひとつのようだし、無理強いはできないか」
(繁殖行動……)
微妙な受け取られ方をされている。
「それにしても残念だよ。蜻蛉の子孫のほたるちゃんなら、絶対に気に入ると思うんだけど」
酷く残念がってこっちをチラチラ見てくるアキアカネさん。でも、イモムシかりんとうは断固拒否!
「ほたるちゃんは、そんな野蛮なモノは食べないよーだ。べぇ~」
碧ちゃんがアキアカネさんに向かって、悪意丸出しのあっかんべぇ。
「相変わらず品がないね、オオミズアオ君は。それに良質なタンパク質を取らないから、君の顔はいつでも青白い。可哀そうに」
「きぃ~、ムカつく~。むし屋、そろそろコイツとつるむのやめなよー」
「別につるんでない。コイツが勝手に店に来るだけだ。それよりも」
ピンセットを持つ手を止めて、向尸井さんが、ふと優太君を見た。
「お前たち、ここに遊びに来たわけじゃないんだろ」
「ピンポーン! さっすが、むし屋~!」
はあ。と、向尸井さんがため息を吐いた。
「せっかくの休業日だが、客が来てしまったのなら仕方がないな」
どこからともなく取り出した真っ白なレースの刺繍ハンカチで箸代わりにしていたピンセットを丁寧に吹き上げてから、向尸井さんは、ぱちん、と、右手の指を鳴らした。
途端、店内の空気が、キリリと引き締まる。
無音だった店内に、おしゃれなジャズが薄く流れだす。
童謡『ちょうちょう』のジャズバージョン。
シャラララ、と、ジャズドラムのブラシ奏法が心地よく響く中、いつの間に着替えたのか、ピシッと糊のきいたネイビーのスーツ姿の向尸井さんが、かつかつと小気味よい靴音で優太君の前まで歩いていくと、右手を胸の前に添えて、紳士的にお辞儀をした。
「ボンジュール、ビアンブニュ。ようこそ、むし屋へ」
青ざめるほたるとは正反対にきらっきらの笑顔の優太君が「めっちゃうまいです、これ!」とアキアカネさんに尊敬のまなざしを送っていた。
「オレが前に買ったカレー味のコオロギスナックは、ちょっと干からびた感じがして、マズくはないけどうまくもなかったんですよね。昆虫食ってこんなもんかって思ってたオレの常識を覆すウマさです、これ!!甘じょっぱい味付けとサクサクの食感がサイコー。コンビニのスナック菓子コーナーとかに置いてくんねーかなぁ」
(昆虫食……)
ほたるは、手のひらのものをぶちまけたくなる衝動を何とか抑え、深呼吸を繰り返した。
「……優太君、これもどうぞ」
「いいの?」
持っていたかりんとうを優太君に押し付けたほたるは、そそそと、年輪テーブルから離れ、碧ちゃんの元へ戻った。
「ごめん、碧ちゃん。あたしが間違ってました」
「もう~、だから言ったのにぃ~。僕は、い~っつもほたるちゃんのためを思ってるんだからねー」
(それはちょっと重いけど)
「とにかく未遂ですんで良かったよー。これに懲りて、アホメガネの手料理はぜ~ったい食べちゃダメだよ~。ついでに、アホメガネには近づいちゃダメ~」
「僕がどうしたって?」
「いえ、なんでもないです!」
「そうかい? それより、ほたるちゃん、遠慮してると無くなってしまうよ」
「え? あ、えと……。あたし、よく考えたらダイエット中でした。あははは」
「おや、そうなのかい? 残念だなぁ。でも、ヒトがダイエットをするのは繁殖行動のひとつのようだし、無理強いはできないか」
(繁殖行動……)
微妙な受け取られ方をされている。
「それにしても残念だよ。蜻蛉の子孫のほたるちゃんなら、絶対に気に入ると思うんだけど」
酷く残念がってこっちをチラチラ見てくるアキアカネさん。でも、イモムシかりんとうは断固拒否!
「ほたるちゃんは、そんな野蛮なモノは食べないよーだ。べぇ~」
碧ちゃんがアキアカネさんに向かって、悪意丸出しのあっかんべぇ。
「相変わらず品がないね、オオミズアオ君は。それに良質なタンパク質を取らないから、君の顔はいつでも青白い。可哀そうに」
「きぃ~、ムカつく~。むし屋、そろそろコイツとつるむのやめなよー」
「別につるんでない。コイツが勝手に店に来るだけだ。それよりも」
ピンセットを持つ手を止めて、向尸井さんが、ふと優太君を見た。
「お前たち、ここに遊びに来たわけじゃないんだろ」
「ピンポーン! さっすが、むし屋~!」
はあ。と、向尸井さんがため息を吐いた。
「せっかくの休業日だが、客が来てしまったのなら仕方がないな」
どこからともなく取り出した真っ白なレースの刺繍ハンカチで箸代わりにしていたピンセットを丁寧に吹き上げてから、向尸井さんは、ぱちん、と、右手の指を鳴らした。
途端、店内の空気が、キリリと引き締まる。
無音だった店内に、おしゃれなジャズが薄く流れだす。
童謡『ちょうちょう』のジャズバージョン。
シャラララ、と、ジャズドラムのブラシ奏法が心地よく響く中、いつの間に着替えたのか、ピシッと糊のきいたネイビーのスーツ姿の向尸井さんが、かつかつと小気味よい靴音で優太君の前まで歩いていくと、右手を胸の前に添えて、紳士的にお辞儀をした。
「ボンジュール、ビアンブニュ。ようこそ、むし屋へ」
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