ようこそ、むし屋へ2 ~麗しの碧ちゃん&むしコンシェルジュの卵編~

箕面四季

文字の大きさ
54 / 97
夜のむし屋

むし屋開店

しおりを挟む
(つまり、ひいじいじの言ってた本物って……本物の、虫ってこと~?)


 青ざめるほたるとは正反対にきらっきらの笑顔の優太君が「めっちゃうまいです、これ!」とアキアカネさんに尊敬のまなざしを送っていた。
「オレが前に買ったカレー味のコオロギスナックは、ちょっと干からびた感じがして、マズくはないけどうまくもなかったんですよね。昆虫食ってこんなもんかって思ってたオレの常識を覆すウマさです、これ!!甘じょっぱい味付けとサクサクの食感がサイコー。コンビニのスナック菓子コーナーとかに置いてくんねーかなぁ」

(昆虫食……) 
 ほたるは、手のひらのものをぶちまけたくなる衝動を何とか抑え、深呼吸を繰り返した。
「……優太君、これもどうぞ」
「いいの?」
 持っていたかりんとうを優太君に押し付けたほたるは、そそそと、年輪テーブルから離れ、碧ちゃんの元へ戻った。

「ごめん、碧ちゃん。あたしが間違ってました」
「もう~、だから言ったのにぃ~。僕は、い~っつもほたるちゃんのためを思ってるんだからねー」
(それはちょっと重いけど)

「とにかく未遂ですんで良かったよー。これに懲りて、アホメガネの手料理はぜ~ったい食べちゃダメだよ~。ついでに、アホメガネには近づいちゃダメ~」
「僕がどうしたって?」

「いえ、なんでもないです!」
「そうかい? それより、ほたるちゃん、遠慮してると無くなってしまうよ」
「え? あ、えと……。あたし、よく考えたらダイエット中でした。あははは」
「おや、そうなのかい? 残念だなぁ。でも、ヒトがダイエットをするのは繁殖行動のひとつのようだし、無理強いはできないか」
(繁殖行動……)
 微妙な受け取られ方をされている。

「それにしても残念だよ。蜻蛉の子孫のほたるちゃんなら、絶対に気に入ると思うんだけど」
 酷く残念がってこっちをチラチラ見てくるアキアカネさん。でも、イモムシかりんとうは断固拒否!

「ほたるちゃんは、そんな野蛮なモノは食べないよーだ。べぇ~」
 碧ちゃんがアキアカネさんに向かって、悪意丸出しのあっかんべぇ。

「相変わらず品がないね、オオミズアオ君は。それに良質なタンパク質を取らないから、君の顔はいつでも青白い。可哀そうに」
「きぃ~、ムカつく~。むし屋、そろそろコイツとつるむのやめなよー」

「別につるんでない。コイツが勝手に店に来るだけだ。それよりも」
 ピンセットを持つ手を止めて、向尸井さんが、ふと優太君を見た。

「お前たち、ここに遊びに来たわけじゃないんだろ」
「ピンポーン! さっすが、むし屋~!」
 はあ。と、向尸井さんがため息を吐いた。

「せっかくの休業日だが、客が来てしまったのなら仕方がないな」
 どこからともなく取り出した真っ白なレースの刺繍ハンカチで箸代わりにしていたピンセットを丁寧に吹き上げてから、向尸井さんは、ぱちん、と、右手の指を鳴らした。

 途端、店内の空気が、キリリと引き締まる。
 
 無音だった店内に、おしゃれなジャズが薄く流れだす。

 童謡『ちょうちょう』のジャズバージョン。

 シャラララ、と、ジャズドラムのブラシ奏法が心地よく響く中、いつの間に着替えたのか、ピシッと糊のきいたネイビーのスーツ姿の向尸井さんが、かつかつと小気味よい靴音で優太君の前まで歩いていくと、右手を胸の前に添えて、紳士的にお辞儀をした。

「ボンジュール、ビアンブニュ。ようこそ、むし屋へ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

エリちゃんの翼

恋下うらら
児童書・童話
高校生女子、杉田エリ。周りの女子はたくさん背中に翼がはえた人がいるのに!! なぜ?私だけ翼がない❢ どうして…❢

たったひとつの願いごと

りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。 その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。 少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。 それは…

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

処理中です...