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人工むし
華麗な施術
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「前にさー、赤子を抱っこした人間のメスが僕の神社に迷い込んできたんだよねー。で、このキーホルダーをみくじ掛けに引っかけて、すっごく長い時間願掛けをして帰って行ったんだよ~」
碧ちゃんは、金色に透き通った蛹の形のキーホルダーを振りながら説明した。
ちりん、りん。と、小粒の鈴が音色を奏でる。
可愛らしくて優しい音。
まさしくほたるが子供の頃に見た、蛹の形のキーホルダーだった。
「見習いアルバイト、重要な仕事をやる。これ持っとけ」
「え?」
押し付けられ、つい掴んでしまったのは、人工むしを挟んでいる金色のピンセット。
「絶対に落とすなよ。落とせばそこの少年に何が起きるかわからないからな」
「ちょ、ちょっと向尸井さん……ぎゃあ~」
さっきまで優太君の方を向いていた24色の色鉛筆みたいにカラフルなにょろにょろが、何故か一斉に向きを変えて、ほたるの手首に絡まろうとしている。
菌糸のような気管まで伸びてきた。完全にロックオンされている。これ、どういうこと?
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと~」
とりあえず、腕を思いっきり伸ばして身体から離しながら「向尸井さん、はやくしてください!!」と、悲鳴の懇願。
「そうしたいのは山々だが、むし屋の仕事道具を誰かさんがバッグにしまったせいで、道具がない。他人のバッグを開けるのは、特級むしコンシェルジュのプライドが許さないしな」
「困ったな」と、全然困っていない顔で言いながら、口元に悪そうな笑みを浮かべ、ほたるを見ている。
さっき言ったことを、根に持っているのだ。
「もう~、あたしが悪かったです! ほんと、すみませんでした!! だから、ちゃっちゃとトートバッグ開けて、道具取り出してください!!」
ほたるの悲壮な懇願に、ニタリと笑みをこぼす性悪向尸井さん。
が、次の瞬間真顔に戻り、大股でほたるのトートバッグに歩み寄ってジッパーを開けた。
そこからは、目にもとまらぬ速さだった。
碧ちゃんからひったくった蛹の殻のキーホルダーを美麗の樹の年輪テーブルの中央に置き、黒い巻物に収まるピンセットの中から、燃えるような紅葉色の小ぶりなピンセットを取り出した。持ち手の先がくにゃくにゃと折れ曲がった不思議なピンセットだ。その先端をキーホルダーのホルダー部分に差し込んで、ぱちんと弾く。
ぴちゃんっと、池で魚が飛び跳ねるような透明な音を立てて、ホルダーが開くと、 すーっと、金色の蛹の殻に一筋の線が入った。
向尸井さんは紅葉色のくにゃくにゃピンセットを蛹の線に這わせるようにして、細心の注意を払いながら、少しずつ、少しずつ蛹の殻を開いていった。
チリチリと、蛹が割れる小さな音がする。
まるで、天才外科医の高度な外科手術を目の当たりにしているようだ。
優太君がごくりと生唾を飲んで、その様子に魅入っていた。
すごいことをしているというのは、むし屋の仕事を知らないほたるにもわかる。
わかるけれども。
「ひいっ」
人工むしの気管が、まさにほたるの身体に触れようとしていて、それどころじゃない。
「も、もう限界……」
ほたるが呟いて、あきらめかけた時、向尸井さんが詠った。
『大原や~、てふの出て舞う~、朧月~~~』
月の光のように、ひんやり静謐で、なのに、どこか温かい声。
ほたるの頭の中で、ひいじいじのショボショボの笑顔が浮かんだ。
ピンセットに込めていた手の力が、すうっと抜ける。
シュルシュルシュルルルルル。
「あ」
ほたるに絡まろうとしていた色鉛筆の糸のような人工むしが、ピンセットから離れて蛹の割れ目に吸い込まれていく。
ぱあ~~~~。
中身が収まった蛹から、水黄緑に淡く輝く光の粒子があふれ出し、むし屋の店内を満たしていった。
キラキラ幻想的な空間に、二匹のモンシロチョウが踊りながら、ほたるの目の前を飛んで行く。
『その子の体内から、むし糸が伸びとる。この方角は……神明山の辺りかのぉ』
それは、湯たんぽのようにホカホカとした、ひいじいじの声だった。
碧ちゃんは、金色に透き通った蛹の形のキーホルダーを振りながら説明した。
ちりん、りん。と、小粒の鈴が音色を奏でる。
可愛らしくて優しい音。
まさしくほたるが子供の頃に見た、蛹の形のキーホルダーだった。
「見習いアルバイト、重要な仕事をやる。これ持っとけ」
「え?」
押し付けられ、つい掴んでしまったのは、人工むしを挟んでいる金色のピンセット。
「絶対に落とすなよ。落とせばそこの少年に何が起きるかわからないからな」
「ちょ、ちょっと向尸井さん……ぎゃあ~」
さっきまで優太君の方を向いていた24色の色鉛筆みたいにカラフルなにょろにょろが、何故か一斉に向きを変えて、ほたるの手首に絡まろうとしている。
菌糸のような気管まで伸びてきた。完全にロックオンされている。これ、どういうこと?
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと~」
とりあえず、腕を思いっきり伸ばして身体から離しながら「向尸井さん、はやくしてください!!」と、悲鳴の懇願。
「そうしたいのは山々だが、むし屋の仕事道具を誰かさんがバッグにしまったせいで、道具がない。他人のバッグを開けるのは、特級むしコンシェルジュのプライドが許さないしな」
「困ったな」と、全然困っていない顔で言いながら、口元に悪そうな笑みを浮かべ、ほたるを見ている。
さっき言ったことを、根に持っているのだ。
「もう~、あたしが悪かったです! ほんと、すみませんでした!! だから、ちゃっちゃとトートバッグ開けて、道具取り出してください!!」
ほたるの悲壮な懇願に、ニタリと笑みをこぼす性悪向尸井さん。
が、次の瞬間真顔に戻り、大股でほたるのトートバッグに歩み寄ってジッパーを開けた。
そこからは、目にもとまらぬ速さだった。
碧ちゃんからひったくった蛹の殻のキーホルダーを美麗の樹の年輪テーブルの中央に置き、黒い巻物に収まるピンセットの中から、燃えるような紅葉色の小ぶりなピンセットを取り出した。持ち手の先がくにゃくにゃと折れ曲がった不思議なピンセットだ。その先端をキーホルダーのホルダー部分に差し込んで、ぱちんと弾く。
ぴちゃんっと、池で魚が飛び跳ねるような透明な音を立てて、ホルダーが開くと、 すーっと、金色の蛹の殻に一筋の線が入った。
向尸井さんは紅葉色のくにゃくにゃピンセットを蛹の線に這わせるようにして、細心の注意を払いながら、少しずつ、少しずつ蛹の殻を開いていった。
チリチリと、蛹が割れる小さな音がする。
まるで、天才外科医の高度な外科手術を目の当たりにしているようだ。
優太君がごくりと生唾を飲んで、その様子に魅入っていた。
すごいことをしているというのは、むし屋の仕事を知らないほたるにもわかる。
わかるけれども。
「ひいっ」
人工むしの気管が、まさにほたるの身体に触れようとしていて、それどころじゃない。
「も、もう限界……」
ほたるが呟いて、あきらめかけた時、向尸井さんが詠った。
『大原や~、てふの出て舞う~、朧月~~~』
月の光のように、ひんやり静謐で、なのに、どこか温かい声。
ほたるの頭の中で、ひいじいじのショボショボの笑顔が浮かんだ。
ピンセットに込めていた手の力が、すうっと抜ける。
シュルシュルシュルルルルル。
「あ」
ほたるに絡まろうとしていた色鉛筆の糸のような人工むしが、ピンセットから離れて蛹の割れ目に吸い込まれていく。
ぱあ~~~~。
中身が収まった蛹から、水黄緑に淡く輝く光の粒子があふれ出し、むし屋の店内を満たしていった。
キラキラ幻想的な空間に、二匹のモンシロチョウが踊りながら、ほたるの目の前を飛んで行く。
『その子の体内から、むし糸が伸びとる。この方角は……神明山の辺りかのぉ』
それは、湯たんぽのようにホカホカとした、ひいじいじの声だった。
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