その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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二章

十話

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 屋上に続く階段室の扉は、安全対策のため施錠されていた。和義は早紀の携帯の番号を知らないので、立ち尽くしたまま途方にくれてしまう。
 達也が電話番号を知っているかどうかを確認するために、スマホを取りだそうとした時、ガチャリと音が聞こえた。
 僅かな間、鍵穴を見つめたまま硬直する。それから、(屋上の扉の鍵を、外側から開錠できるものなのか)と首を捻った。
 少し気味悪く思うも、一呼吸置いてからドアノブを回す。
 扉を開けると、頬を撫でるような風が吹き抜けていった。外気の流れや穏やかな西日のおかげで、彼は心地のいい開放感を得る。
 だが、その感覚はすぐに失われてしまった。外側からは鍵の開閉が出来ない扉だと、気付いたためだ。一転して、朱い陽の光や生暖かい風の流れを怪しいもののように感じ始め、それらが恐怖を彩る背景としか思えなくなった。
 彼は、不安げな面持ちで視線を彷徨わせると、安全柵の近くに渡瀬早紀の姿を捉えた。
 ブレザーの制服を着た長い黒髪の少女と、目が合う。
 色白で細やかな肢体、女性にしては高い身長。控えめに笑って、ゆっくりと歩き出す。中庭で出会った少女と違って、恐ろしい印象は微塵もない。
 開錠された扉と安全柵との間には、長い距離があった。彼は疑問を口に出そうとしたが、それを遮るかのように少女が話し掛けてきた。
「びっくりしたでしょう? 突然、色々なものが見えるようになって」
 口を閉じると、相手の反応を伺うように返事を待つ。高校二年生の割には、大人びた仕草だった。
「驚いたよ。ほんと」
 そう答えて、ぎこちなく笑う。オカルト趣味に没入していく早紀を、和義は内心で非難してきた。今日は、その非難してきた内容について、教えを乞わねばならない。
 ばつが悪くなった彼は、話をどう切り出そうかと逡巡した。
 まずは、中庭で出会った少女との関係を訊くことにする。幼なじみとしては、二人の少女の接点が気に掛かっていた。
(けど、あの女子が早紀本人だったとしたら、訊いた途端に態度が豹変するかもしれない…)
 懸念を抱きながらも、彼は人形に似た少女の情報を恐る恐る伝えた。
「絵美に会ったんだね」
 物憂い表情になってそう呟くと、彼女は黙り込んでしまった。
 和義は、物心がついた時から早紀を知っている。けれども、姉や妹の存在など聞いたことがない。そっくりな二人の関係を尋ねていいものかどうか迷っていると、ある憶測に辿り着いた。
「あの子はね、私の妹だよ。一つ下の。藤村君は、会った事なかったね」
(ヤベェ、地雷踏んだ)
 心の中でそう吐き棄てた後、和義は直ぐに話題を変えようとした。(隠し子か何か。そうでなくても、無闇に踏み入って欲しくない事情があるんだろう)と考えたのだ。ところが早紀は、予想外の方向へ話を進め出す。
「私達にしか見えない子なんだ。霊能がない人には、見えない」
「それは」
 咄嗟に声を出したが、次に何を言おうか迷う。
(昨日から、言葉に詰まってばかりだな…)
 数日前までの彼がこんな話を聞いたら、「マジかよ!! スゲェな!! じゃあな!!」と言って、そのまま帰ってしまっただろう。だが中庭に佇んでいた少女は、明らかに普通の人間ではなかった。少なくとも、瞬く間に消え去った事だけは確かだ。
 和義の困惑した顔を見て、早紀は妹の話を打ち切った。
「ごめん。自分の事だけで大変な時に」
 彼女が、申し訳なさそうな面持ちになって言う。
「いいよ、別に」
 早紀の顔に緊張の色が表れているのを、和義は見て取った。長年の付き合いがある彼には、感情の機微がよく分かる。
 ただ、「自分の事だけで大変」という言い方に、少し引っ掛かりを覚えた。彼は、何か相談に乗って欲しいのだと感づいたが、絵美の話は改めてすることにして、身の安全の確認を優先しようと決めた。
 この後、和義は超常世界の話を聞きつつも、渡瀬早紀と[オカルト]との関わりを思い出していった。
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