その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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二章

十五話

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 化け物云々という話をする雰囲気ではなくなり、二人は下校することにした。同じ帰り道を、途中まで連れ立って歩く。(小学生の頃は、たわい無い会話をしながら、こうして帰ったな)と、和義はたかが数年前の生活を懐かしんだ。
 記憶の中で、赤いランドセルが楽しそうに揺れる。その時も早紀は、オカルトめいた話をしていた。当時は、彼もその手の話題に抵抗が無く、喜んで付き合ったものだった。
 これまで彼は、彼女とあまり口を交わさなくなった理由について、性差を意識する様になったからだと考えてきた。だが今は、(渡瀬家に関する悪い噂の煽りを受けたく無い、という理由もあったんじゃないか)と思い始めている。
 早紀が学校でも陰口を叩かれていた事を、彼は知っていた。意識的にではなくても、無意識の内に避けてきた可能性はある。
 また先程の度を超えた説明は、昔を思い出して童心に帰ったのかもしれない。そんな風に考えていると、胸中に罪悪感が広がっていった。
 もう一度謝ろうかと思い、彼は少し前を歩いている早紀に目を向ける。彼女は、歩道の脇にいる犬の亡霊を見つめていた。それがふわふわと漂う鬼火に食らいつくと、直ぐ様走り去っていく。
 犬の亡霊が生前にどんな生き方をして、どんな死に様だったのかを、彼は想像した。そして、食われた霊魂のことも。
 更に数分ほど歩いた後、岐路で別れる事となった。
 早紀が振り返って、「さようなら」と挨拶をする。それに和義が「また明日」と返すと、彼女は懐かしい笑顔で笑った。
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