その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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三章

二十九話

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 怨霊の片方の瞼だけが、僅かに震える。深い創傷が体内の肉を晒すように、右瞼が段々と開かれていき、紅く美しい瞳が現れた。
 両手に握られた道化共の魂を、見せつけるように食らいながら、横目で巨躯の悪狐に視線を送る。

 狐と怨霊の目が合った。

 瞬間、黒い像が掻き消える。これまでの緩慢な動きとは打って変わり、怨霊が残像を作る程の速さで襲い掛かったのだ。走りながら右手に多くの人魂をかき集めて、黒い炎の剣を作り出す。接触する数歩前で飛び上がり、勢いにまかせて袈裟がけに得物を振り降ろした。
 悪狐は、咄嗟に姿勢を低くしたので、浅い傷しか負わずに済んだ。間を置かずに、攻撃しやすいよう体勢を変化させると、負傷したままの左手で迅速に反撃する。
 四度ほど剣と爪を打ち合わせられたが、五度目に怨霊が力負けしてしまい隙を作った。剣を持った右腕が、強い衝撃のせいで上方に弾かれたのだ。すかさず悪狐が大振りの攻撃を放とうとしたが、怨霊は反射的に木の幹を蹴り、その反動を利用して飛び退いた。
 空振りした悪狐が、体勢を崩した相手に畳みかけようと突進する。ところが、顔面に向かって剣を投げつけられたため、自身の勢いを殺すしかなくなった。すんでの所で首を捻り、何とか直撃は免れる。
 怨霊の手には、既に新しく作り出された剣が握られていた。
 悪狐の動きが止まる。
 両者共に体勢を立て直した。攻め口を見出そうと睨み合いながら、相手の一挙手一投足に気を配る。

 再び目が合った。

 怨霊が、一歩前に踏み出す。それを切っ掛けにして両者とも距離を詰めると、一定の距離を保ったまま、再び斬り合い始めた。
 面前に迫る炎の一閃をいなしながら、巨躯の悪狐は内心でほくそ笑む。相手の体から発せられている霊力の総量は、自身が発っしている量よりも少ないと感じたからだ。 身に纏う力の量は、残量の範囲内で自由に決められるため、自身の強さを隠しながら戦う事が出来る。わざと少なく見せかけて、駆け引きの材料に使う化け物もいた。ただ、今向かい合っている相手はそういった知識だけでなく、飛行できる事すら知らない可能性が高いと、巨躯の悪狐は推察した。
 剣撃は速いが、力任せの低い技量。無闇やたらに飛び跳ねて、多くの隙を作る。リスクを取って接近したにも拘わらず、効果的な攻撃をする前に自ら距離を置く。怨霊の戦い方は、あまりに素人然としていて、場数を踏んでいないと強く思えるものだった。
 また、怨霊が付けた傷口から、体内に毒が流れ込んでいる事にも気づいていた。
(馬鹿め。この程度の毒は、即座に解毒できるんだよ)
 死んだニ体と巨躯の悪狐では、霊力の差が非常に大きい。化け物の使う能力や術は、それを受ける側の力が高ければ高いほど、効き辛くなっていく。
(相手は毒が悪化するように持久戦を狙ってくるだろうから、霊力を徐々に下げていって、自分が弱ったと勘違いさせる。そうして敵が油断したところを、全力で不意打ちしよう)
 このように、悪狐は大まかな段取りを立てた。
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