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三章
二十八話
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悪狐達の和義に対する関心は、瞬く間に失われてしまった。先程殺した人間よりも、それをネタにした冗談の方が大切なのだ。もう少しすれば、「あぁ、そういえば忘れていた」と言わんばかりに、打ち捨てられた肉体や魂をおどけながら食い出すのだろう。ただし、今この瞬間、人一人の生死については無関心なのだ。それは、殺された人間にとって、最大の侮辱だった。
やはり白い悪狐が、「獲物を喰い忘れた」と笑いながら悪ふざけを始めた。にや付きながら、和義が放り投げられた藪の方へ近寄っていく。
まだおどけ足りないようで、「死体の顔に、小便でも引っかけてやろうか」と言い出した。そうして、下卑さが滲み出ている顔を、何気なく藪の中に突っ込む。
刹那、黒い炎が噴火したように轟々と吹き上がり、悪狐の頭部に纏わりついた。時を移さず、異界の全景に変化が起こる。地面に傾斜がついて陽は沈み、瞳のような満月が天上から化け物達を見下ろす。麓には湖が出来上がり、水面に月を写していた。日が暮れかけている鬱蒼とした森から、深夜の山腹といった景色に様変わりしていく。
白い悪狐の顔面が、焼き爛れてしまった。首の上に炎が張り付いて藻掻き苦しむ姿は、まるでおどけている様だ。
巨躯の悪狐は、既に臨戦態勢をとっていた。異変に感づいた直後、焼かれ始めた仲間を無視して、後方に飛び退いたのだ。
しかし逃げ遅れた黒い悪狐は、投げつけられた黒い剣に口から後頭部を貫かれていた。刀身も、鍔も、柄も、全てが歪つな形をしていて、薄気味悪い炎で出来ている剣を、必死に抜こうとしている。その姿は、一種滑稽でもあった。
更に笑いを取ろうというのか、口から火を噴いて道化の様な素振りを見せると、黒い悪狐はピクピクと前後に体を揺らす。ゆっくり、ゆっくりと振り返って、巨躯の悪狐と目があったところで、落ちをつけるかのように顔面を爆散させた。その後、破裂した頭部を何度も再生させようとしたが、何故か失敗して死に至る。
白い悪狐も、既に鬼火となっていた。
滑稽にも残酷にも思える死に様は、先程の和義の姿を彷彿とさせた。
最後の一体となった悪狐が、疑問を抱く。同族を葬った攻撃が、体を再生させないほど強力だったとは思えない。負傷箇所を再生させないためには、対象の全霊力と同じくらいの力が必要になるのだ。
(それに殺した筈の獲物からは、先程まで何も感じなかった)
巨躯の悪狐は、和義が特殊な力を隠し持ち、道化を演じていたのだと結論づけた。
黒い怪火が、火勢を衰えさせずに燃え残っていた。それらは、蛇の様に地面を這いながら、藪に入り込んでいく。
その炎を見ていると、巨躯の悪狐は例えようの無い嫌な気分になる。(目を背けてきたもの)という言葉が、何故か脳裏に響いた。
炎が辿り着いた場所で、黒い人影がゆらりと立ち上がった。体の輪郭や顔の造形を隠すように、どす黒い炎を纏っている。たなびく火先は無数の人魂の尾であり、消えた側から次々と立ち現れた。
(敵が自分に見向きもせず棒立ちとなっている今、勢いに任せ圧殺してしまおうか)
巨躯の悪狐はそう考える一方で、葬られた仲間の死因が気に掛かり、中々行動出来ずにいた。
黒い怨霊もまた考えていた。自身の体から溢れ出る負の感情を、どう発すればいいのか、を。
やはり白い悪狐が、「獲物を喰い忘れた」と笑いながら悪ふざけを始めた。にや付きながら、和義が放り投げられた藪の方へ近寄っていく。
まだおどけ足りないようで、「死体の顔に、小便でも引っかけてやろうか」と言い出した。そうして、下卑さが滲み出ている顔を、何気なく藪の中に突っ込む。
刹那、黒い炎が噴火したように轟々と吹き上がり、悪狐の頭部に纏わりついた。時を移さず、異界の全景に変化が起こる。地面に傾斜がついて陽は沈み、瞳のような満月が天上から化け物達を見下ろす。麓には湖が出来上がり、水面に月を写していた。日が暮れかけている鬱蒼とした森から、深夜の山腹といった景色に様変わりしていく。
白い悪狐の顔面が、焼き爛れてしまった。首の上に炎が張り付いて藻掻き苦しむ姿は、まるでおどけている様だ。
巨躯の悪狐は、既に臨戦態勢をとっていた。異変に感づいた直後、焼かれ始めた仲間を無視して、後方に飛び退いたのだ。
しかし逃げ遅れた黒い悪狐は、投げつけられた黒い剣に口から後頭部を貫かれていた。刀身も、鍔も、柄も、全てが歪つな形をしていて、薄気味悪い炎で出来ている剣を、必死に抜こうとしている。その姿は、一種滑稽でもあった。
更に笑いを取ろうというのか、口から火を噴いて道化の様な素振りを見せると、黒い悪狐はピクピクと前後に体を揺らす。ゆっくり、ゆっくりと振り返って、巨躯の悪狐と目があったところで、落ちをつけるかのように顔面を爆散させた。その後、破裂した頭部を何度も再生させようとしたが、何故か失敗して死に至る。
白い悪狐も、既に鬼火となっていた。
滑稽にも残酷にも思える死に様は、先程の和義の姿を彷彿とさせた。
最後の一体となった悪狐が、疑問を抱く。同族を葬った攻撃が、体を再生させないほど強力だったとは思えない。負傷箇所を再生させないためには、対象の全霊力と同じくらいの力が必要になるのだ。
(それに殺した筈の獲物からは、先程まで何も感じなかった)
巨躯の悪狐は、和義が特殊な力を隠し持ち、道化を演じていたのだと結論づけた。
黒い怪火が、火勢を衰えさせずに燃え残っていた。それらは、蛇の様に地面を這いながら、藪に入り込んでいく。
その炎を見ていると、巨躯の悪狐は例えようの無い嫌な気分になる。(目を背けてきたもの)という言葉が、何故か脳裏に響いた。
炎が辿り着いた場所で、黒い人影がゆらりと立ち上がった。体の輪郭や顔の造形を隠すように、どす黒い炎を纏っている。たなびく火先は無数の人魂の尾であり、消えた側から次々と立ち現れた。
(敵が自分に見向きもせず棒立ちとなっている今、勢いに任せ圧殺してしまおうか)
巨躯の悪狐はそう考える一方で、葬られた仲間の死因が気に掛かり、中々行動出来ずにいた。
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