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四章
三十五話
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携帯の着信履歴に達也の番号が残されており、「連絡をくれ」というメールも届いていた。和義はすぐに電話しようとしたが、バイト中だったら迷惑になるかもしれないと思い至って、「心配するな」という旨のメールを送る。
それから数分と経たずに、電話が掛かってきた。
「和義か? 俺が悪かった。一人で帰らせるべきじゃなかった」
達也は、開口一番に謝罪した。和義の身に降り掛かった災難を、早紀から知らされたという。
「気にすんな。それより今日、会えない?」
「ああ。俺が、お前の家に行く」
この言葉を最後に、通話は切られた。
数十分後、遅めの夕食をとっていた和義は、家に近づく達也の気配を感知した。しかし同時に、買い物から帰ってきた恭子の気配もとらえる。二人は、家の前で出くわしたようだった。
彼らを迎え入れるため、和義が玄関の扉を開こうとした時、「あの子は、ちょっと疲れてるみたいだし…」という恭子の声が聞こえた。母親は、息子が思い悩んでいる事を、態度の端々から感じ取っていたのだ。
恭子を説得して達也を部屋に上げると、和義は焦りの色を隠しもせずに、こう言った。
「今から、霊能の使い方を教えてくれ」
「嫌だよ、夜だし。今日は、もう疲れた」
面倒臭そうに、達也が即答する。
それから持っていたレジ袋を床に置くと、和義が陥っている心理状態を分析し始めた。たった二日の間に衝撃的な出来事を何度も体験したため、高ぶった感情をうまく処理出来ないでいる。その結果、理性よりも感情が勝ってしまい、「何でもいいから行動したい」という欲求を抑え込めなくなった。死に掛けたのだから、それも仕方無いのかもしれないが…、というのだ。
「もう少し落ち着いてから、決めた方がいい」と口にして、達也はその話を締めくくった。
現在の心境をずばりと言い当てられたため、和義は反論出来なくなる。「面倒臭いし」という呟き声も耳に届いたが、あえて反応しない事にした。
達也の話を聞いてる内に、和義は段々と冷静さを取り戻していった。(言われた通り、神経が高ぶっていたのかな)と彼は納得する。だが、体の中に何だかよく分からない存在がいて、それから影響を受けているという状態は、どうしても気になった。そして、一馬の事も。
「じゃあ、いろいろと説明して」
(断られたら、ゴネるつもりだ)と感づいた達也は、「しょうがないなぁ」とぼやく。そして、袋から取り出した缶コーヒーを投げ渡すと、気だるそうに話始めた。
「ざっくり言うと、近くの山奥に化け狐が封印されてるんだと。んで、それが解けかかっている所為で、手下の化け狐共が暴れだした」
「で?」
「終わり」
和義が、ふざけているのかと言いたげな表情になった。
「いや、本当によく知らないんだって。あと知ってるのはは、離れた場所から異界に出入りしてるみたいで、山の近辺を見張ってても意味が無いってこと。それと、この辺りに棲んでる化け物達を掻き集めて、そろそろ退治しに行こうとしてる…ことぐらいか」
「ふぅん。じゃ、化け物の強さってさ。どう決まるのか、教えて」
自分を殺そうとした悪狐と、自分にとり憑いた怨霊の差が出た理由を、和義は知っておきたかった。化け物達との戦いを想定するために、どうしても必要になる情報だ。
思案顔になった達也は、取り出した板チョコを一欠片だけ胃に収める。だが、味が気に入らなかったらしく顔をしかめると、残りを全て和義に手渡した。
「化け物は、創作物の登場人物に似てる。個人で創作するのなら、どんな人物の設定でも自由に作れるわな。だけど、集団で創作活動をした場合、そうはいかなくなる。作家達が、それぞれ最強の登場人物の設定案を考えるとするだろ。その場合、どういう作家の案が採用されると思う?」
「どういう作家の? 理屈で考えたら最強の設定とか、最強だと思わせる設定を考えた作家の案、とかじゃねぇの?」
「違う。争いに強い作家だよ。その設定を広める上でのな。仲間を多く持っているとか、著名であるとか、コネがあるとかだ」
「良い設定を考えた作家、とかじゃないんだ」
達也は、開いたスナック菓子の袋を二人の間に置いた後、寝っ転がってマンガを読み出した。
「手加減をしたら、そうなるかもな。本気で争えば勝つ作家が、譲歩すれば。というか『良い設定』って、人によっても違うし。何にしろ、『どんな設定を考えたのか』は重要じゃない。これは、化け物の能力にもいえる。見たら死ぬだの、不死身だの、そんな能力をもった化け物共が世界中にゴロゴロいる。能力の詳細よりも、単純な力の大きさの方が重要なんだわ」
「無敵の防御能力を持った化け物がいたら、誰も勝てないだろ?」
和義が言い出す事を予想していたようで、達也は余裕のある笑みを浮かべた。
「さっきも言ったけど、化け物は創作物に登場する存在と似た様なもんだからな。能力の性質で勝てそうにないのなら、後付けすればいい。『無敵バリアを貫通するビームを、実は打てた』とかな」
「子供かよ!! いや、子供の頃、それよくやったな。でもそれさ、『無敵バリアを貫通するビームを防ぐ無敵バリア!!』とか言い出して、切りが無くなるんだよな。お互い意固地になってさ」
予想通りの答えが返ってきたので、達也は嬉しそうに同意した。
「そう。子供の場合は、大抵何らかの争いになって、強い方が勝つ。お前も昔やったろ? ムキになって、無敵を連呼するうるせぇ奴を、一発ぶん殴って黙らせたりさ」
「い、いやしないよ。お前そんな事やってたのか?」
若干引きながら和義が問う。達也は、それを無視して説明を続けた。
「まぁ、とにかくな。化け物にとって、強い感情や魂なんかが力の源泉になる。人間の肉体や魂・精力を、化け物が食おうとする昔話あるだろ。あれは、自身の力を強くするためにやってる。それらを沢山集めて強くなった分だけ、敵の設定を無視できるのよ」
それから数分と経たずに、電話が掛かってきた。
「和義か? 俺が悪かった。一人で帰らせるべきじゃなかった」
達也は、開口一番に謝罪した。和義の身に降り掛かった災難を、早紀から知らされたという。
「気にすんな。それより今日、会えない?」
「ああ。俺が、お前の家に行く」
この言葉を最後に、通話は切られた。
数十分後、遅めの夕食をとっていた和義は、家に近づく達也の気配を感知した。しかし同時に、買い物から帰ってきた恭子の気配もとらえる。二人は、家の前で出くわしたようだった。
彼らを迎え入れるため、和義が玄関の扉を開こうとした時、「あの子は、ちょっと疲れてるみたいだし…」という恭子の声が聞こえた。母親は、息子が思い悩んでいる事を、態度の端々から感じ取っていたのだ。
恭子を説得して達也を部屋に上げると、和義は焦りの色を隠しもせずに、こう言った。
「今から、霊能の使い方を教えてくれ」
「嫌だよ、夜だし。今日は、もう疲れた」
面倒臭そうに、達也が即答する。
それから持っていたレジ袋を床に置くと、和義が陥っている心理状態を分析し始めた。たった二日の間に衝撃的な出来事を何度も体験したため、高ぶった感情をうまく処理出来ないでいる。その結果、理性よりも感情が勝ってしまい、「何でもいいから行動したい」という欲求を抑え込めなくなった。死に掛けたのだから、それも仕方無いのかもしれないが…、というのだ。
「もう少し落ち着いてから、決めた方がいい」と口にして、達也はその話を締めくくった。
現在の心境をずばりと言い当てられたため、和義は反論出来なくなる。「面倒臭いし」という呟き声も耳に届いたが、あえて反応しない事にした。
達也の話を聞いてる内に、和義は段々と冷静さを取り戻していった。(言われた通り、神経が高ぶっていたのかな)と彼は納得する。だが、体の中に何だかよく分からない存在がいて、それから影響を受けているという状態は、どうしても気になった。そして、一馬の事も。
「じゃあ、いろいろと説明して」
(断られたら、ゴネるつもりだ)と感づいた達也は、「しょうがないなぁ」とぼやく。そして、袋から取り出した缶コーヒーを投げ渡すと、気だるそうに話始めた。
「ざっくり言うと、近くの山奥に化け狐が封印されてるんだと。んで、それが解けかかっている所為で、手下の化け狐共が暴れだした」
「で?」
「終わり」
和義が、ふざけているのかと言いたげな表情になった。
「いや、本当によく知らないんだって。あと知ってるのはは、離れた場所から異界に出入りしてるみたいで、山の近辺を見張ってても意味が無いってこと。それと、この辺りに棲んでる化け物達を掻き集めて、そろそろ退治しに行こうとしてる…ことぐらいか」
「ふぅん。じゃ、化け物の強さってさ。どう決まるのか、教えて」
自分を殺そうとした悪狐と、自分にとり憑いた怨霊の差が出た理由を、和義は知っておきたかった。化け物達との戦いを想定するために、どうしても必要になる情報だ。
思案顔になった達也は、取り出した板チョコを一欠片だけ胃に収める。だが、味が気に入らなかったらしく顔をしかめると、残りを全て和義に手渡した。
「化け物は、創作物の登場人物に似てる。個人で創作するのなら、どんな人物の設定でも自由に作れるわな。だけど、集団で創作活動をした場合、そうはいかなくなる。作家達が、それぞれ最強の登場人物の設定案を考えるとするだろ。その場合、どういう作家の案が採用されると思う?」
「どういう作家の? 理屈で考えたら最強の設定とか、最強だと思わせる設定を考えた作家の案、とかじゃねぇの?」
「違う。争いに強い作家だよ。その設定を広める上でのな。仲間を多く持っているとか、著名であるとか、コネがあるとかだ」
「良い設定を考えた作家、とかじゃないんだ」
達也は、開いたスナック菓子の袋を二人の間に置いた後、寝っ転がってマンガを読み出した。
「手加減をしたら、そうなるかもな。本気で争えば勝つ作家が、譲歩すれば。というか『良い設定』って、人によっても違うし。何にしろ、『どんな設定を考えたのか』は重要じゃない。これは、化け物の能力にもいえる。見たら死ぬだの、不死身だの、そんな能力をもった化け物共が世界中にゴロゴロいる。能力の詳細よりも、単純な力の大きさの方が重要なんだわ」
「無敵の防御能力を持った化け物がいたら、誰も勝てないだろ?」
和義が言い出す事を予想していたようで、達也は余裕のある笑みを浮かべた。
「さっきも言ったけど、化け物は創作物に登場する存在と似た様なもんだからな。能力の性質で勝てそうにないのなら、後付けすればいい。『無敵バリアを貫通するビームを、実は打てた』とかな」
「子供かよ!! いや、子供の頃、それよくやったな。でもそれさ、『無敵バリアを貫通するビームを防ぐ無敵バリア!!』とか言い出して、切りが無くなるんだよな。お互い意固地になってさ」
予想通りの答えが返ってきたので、達也は嬉しそうに同意した。
「そう。子供の場合は、大抵何らかの争いになって、強い方が勝つ。お前も昔やったろ? ムキになって、無敵を連呼するうるせぇ奴を、一発ぶん殴って黙らせたりさ」
「い、いやしないよ。お前そんな事やってたのか?」
若干引きながら和義が問う。達也は、それを無視して説明を続けた。
「まぁ、とにかくな。化け物にとって、強い感情や魂なんかが力の源泉になる。人間の肉体や魂・精力を、化け物が食おうとする昔話あるだろ。あれは、自身の力を強くするためにやってる。それらを沢山集めて強くなった分だけ、敵の設定を無視できるのよ」
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