その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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四章

三十四話

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 母親と鉢合わせないよう気配をさぐりながら、和義は自室に辿り着いた。
 所々破れた制服の処理に頭を悩ませたが、結局捨てる事にする。替えの制服は、親に買い直してもらうしかない。そのための言い訳を考えると、彼はうんざりとした気分になった。
 私服に着替え終わった後、ボロボロになったカッターシャツとインナーを、ゴミ箱の奥へと押し込んだ。ベッドに倒れ込むが、疲労の所為で動けなくなってしまう。
 ただ、戦いの光景がどうしても脳裏から離れず、意識だけは変にはっきりとしていた。
 胸を貫かれて死にかけた事を、鮮明に思い出す。刺された辺りに触れてみるが、傷跡すら残っていなかった。
 そして彼は、護衛の末路を思い出した。何の義理も無い人間のために死んでいった化け物達…。申し訳ないという感情がある一方で、(死んだのが自分ではなくて、本当に良かった)という安堵感も確かに存在していた。しかも、後者の気持ちの方が遙かに強いのだ。そういった心境を自覚すると、(自分は、こんなにも卑しい人間だったのか)と思えてくる。
 彼には、他にも気がかりな事があった。戦闘中、意志決定する際に強い圧力を受けて、普段ならば決して取らない行動を、躊躇なく選択していた事だ。というよりも、彼自身の意識と他の存在の意識が、混濁していたようだった。
 同情心、自己嫌悪、懸念が、堂々巡りをする。それは長い間続き、やがて何も考えられなくなるほど疲れきると、彼はようやく眠りについた。

 二十時過ぎに、和義は目を覚ました。即座に、自宅の周囲から、七つの気配を感じ取る。彼は、寝起きの頭で(これが新しい護衛か)と思いながら、念のために確認するメールを送った。
 しかし早紀からの返信が、大した間隔を置かずに届いので、少し驚いてしまう。返ってきたメールの主な内容は、「近くにいる化け物達は、新しい護衛役。あと、私も危険な目に遭わせないよう注意するけど、自分の方でも気を付けて」という内容だった。再度メールを送り、死なせた護衛役について詫びるが、やはり凄まじい早さで返信が届いた。送信してから応答するまでの時間があまりに短いので、彼は若干恐怖を覚えた。
 メールには、「それは、もう気にしなくていい。でも、霊能は当分使わないで」などと書いてある。とはいえ彼は、意識的に化けた訳ではないので、「力を使うな」といわれても困惑するだけだった。
 メールのやり取りをする中、和義の脳裏にある考えが浮かび、電話をかけた。
「自衛のために、霊能の使い方を教えてくれ」
 軽い雑談の後で、和義はこう切り出した。加えて、「また何かあった時のために、力を制御できる様にしておきたい」と伝える。
 しかし早紀の返答は、「そんな事は、しなくても良い」の一点張りだった。
「時間をかけて教えるよ。今は、じっくり休んで」
 それからは、「教えろ」「教えない」といった押し問答が繰り返された。五分ほど言い合いを続けた後で、早紀が「当てにならないだろうけど、精々信じて」等と口にして、拗ねたような態度を取り始めた。こうなったら、もう何を言ってもダメだという事を、和義は経験上知っている。
 それでも彼が悪狐達の情報をせがむと、「山に棲む化け弧の手下」という不貞腐れた声が返ってきた。以降彼女は、体調に異常はないかという様な、健康状態を案じる話題しか口にしなくなる。
 埒が明かないので、和義はおやすみと言って電話を切った。携帯をベットの上に放り投げてから、「お前は、オカンか」と呟く。続けて、「心配してくれるのは有り難いけど、自衛出来た方が安全だろ」と愚痴をこぼした。
 ただ、そういった態度に出るのは、仕方が無い事だとも思う。

(親友がリンチ殺人事件の被害者となったため、幼なじみは精神的に参っていた)
(ようやく落ち着いてきたと思ったら、突然霊能に目覚めて、世界観の大きな変更を余儀なくされる)
(更には化け物に襲われて、死ぬような目に合ってしまった…)

 彼女の視座に立てば、こう見えるのだ。心配性の早紀が、超自然の世界から和義を遠ざけようとするのも、無理からぬ事だった。
 しかしながら、何もしないでいるのも落ち着かない。いつまた化け物が、自身の眼前に現れるか分からないのだから。
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