その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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四章

三十七話

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 市街地から十数キロほど離れた低山に、悪狐達の首領が封印されている。だが今や、その化け物を隔離するための戒めは千切れかかっていた。
 僅かに制限を解いた悪狐は、直ぐさま人間社会へ手下を放ったが、人々を取り巻く環境の変化に愕然としてしまう。
 悪狐は、負の感情を好む。山中の異界に捕らわれる前は、人を化かして怯えさせたり、取り憑いて病気にさえすれば、[食事]が摂れた。そうすると、人間達は負の感情を大量に発したので、好きなだけ力を蓄える事が出来たのだ。
 ところが現代人は、化け物の存在を全く信じないため、昔ながらの方法では人を化かせなくなっていた。
 化け物の起こす現象や存在は、それを必要としている人間にしか感じ取れない。大抵の人間に、存在するものとして認識されないのだから、脅かす以前の問題だった。
 まれに化かせる事があっても、現代人は科学的・合理的に解釈してしまう。霊能を手に入れた人間ですら、自分は精神を病んでいるか、生理的な原因から幻覚を見たと考える。彼らは、医師の説明に納得して治療を受けると、勝手に霊能を失っていった。
 治療法がよく分からない未知の病になっても、「化け物の所為だ」等と思う者はいない。この状態では、余程苦しめないと、大して負の感情は集まらなかった。手下が病気にした人間の中では、取り憑かれる以前から癌に冒されていた男が、一番多くの感情を吐き出す始末だった。
 悪狐が自由に暴れ回っていた数百年前まで、人々は病気や幻覚の原因を化け物に求めていた。ところが、現代人は理に適った説明を求めるだけだ。
(もはや我々──旧世代の化け物達──は、人間社会に必要とされていない……)
 悪弧にとってそれは、衝撃的な事実だった。
 しかも、多くの人間が科学的・合理的な理解が出来ない程の、甚大な影響を与えようと画策した化け物は、その場で跡形もなく消えてしまう事を知る。そうなれば、二度と現れることはない。悪狐が片っ端から害を与えていかないのには、そういった理由があった。
 逆の見方をすれば、大多数の人間の科学的・合理的認識を、揺るがさない被害規模・方法ならば、消滅をまのがれるのだが。
 とはいえ、(世界そのものが、私達の存在自体を否定しようとしている……)という風に悪狐が考え始めたのも、無理からぬ事だった。

 非科学的存在の象徴のような化け狐には、現実世界のどこにも居場所が無いのだ。
 超自然的な現象・存在が、信じられなくなった原因を問われれば、「教育水準の向上や迷信撲滅運動などが、功を奏したから」などと、常識人は言うだろう。
 しかし、霊能者達の解釈は違う。彼らは、超自然の世界を重要視しながらも、科学的合理主義がもてはやされる現代社会に生きている。だから彼らは、理由を必要としていた。自分達を肯定する理由を。
「現況に陥っている原因は、超自然的な解釈が出来るのではないか?」
「我々も、納得出来る訳があるに違いない」 
 多くの霊能者達はこう考え、自身らが信じる主義や宗教に基づいた理解をする。
 それらの中には、共通項があった。
 「比類なき強大な存在がいて、現在の状況を容認、もしくは作り出している」というものだ。その──神仏とよばれる──存在は、人によって神であったり、仏であったり、化け物であったりする。
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