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四章
三十八話
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また悪狐は、過去において自身より格下だった化け物達が、強い霊力を手にしている事も知った。相手の心を読めるサトリは、電脳空間で人々を扇動して対立させたり、劣等感を見抜き激しく責めたてている。その結果、大量に生まれてくる悪感情を集めるのだ。
他にも、幾多の廃棄物を従者に加えている付喪神や、政治家に取り憑く鵺などの多種多様な化け物達が、好みの念を思う存分貪っている。時代に取り残されてしまった悪狐とは違い、それぞれが自分なりの方法で、現代社会に適応したのだ。
化け物達の在り方は、人々の精神の在り方と深い繋がりを持つため、その変化から大きな影響を受ける。「非科学的な存在は、創作物の中にしかいない」というのが現代人の常識だ。従って、古い世代の化け物達は、虚構の世界に登場する化け物達と同化していき、来歴とは全く関係のない属性や能力を獲得していた。
「歴史や背景を無視する化け物観になった方が、むしろ都合がいい」と捉える化け物も多い。彼らが喜んで現在の状況を受け入れていると知り、悪狐は憤った。「犬畜生と同程度の人間如きに、見下される状況を認めるとは、化け物としての矜持を失ったのか」と。
人間達が高度な物質文明を手に入れた事も、化け物の性質を変化させた原因の一つだった。昔は、巨岩を軽々と持ち上げられれば、畏怖の対象となれた。だが今や、数百年前まで人力では到底不可能だった作業を、機械を扱って難無くこなす事が出来る。軍事演習の動画を見た後では、岩を持ち上げるという逸話を、地味だと感じてしまうだろう。
当初悪狐は、昔ながらの方法で悪事を働いていた。だが、負の感情を集めるには効率が悪く、力が一向に溜まっていかない。
多くの化け物達が、現代社会の中で着実に力を増大させていた。そんな彼らとの差が開いていく日々に、悪狐は段々と耐えられなくなる。特に、下等と見ていたサトリやヌエの後塵を排する事だけは、間違ってもあってはならないと考えた。
人間達の科学的・合理的認識を侵せば、神仏に亡ぼされてしまうため、殺人で得られる魂の数にも限度がある。[常識的に考えて、おかしくはない死亡者数]を著しく超えないように、細心の注意を払わなければならなかった。
打開策の必要性を感じて、悪狐は仕方なく現代人を観察し始める。
ところが直ぐに、合理主義者を気取る人間達が、意外なほど流言に惑わされていると気付いた。人は、自分に都合がいい情報を信じようとする傾向があった。流言や陰謀論、都市伝説の類まで真に受ける者もいる。
(噂話に対する人々の心性は、今も昔もさほど変わっていないのではないか?)
悪狐がそう推察してから間もなく、街で事件が起こり始めた。それが原因となって、数々の噂が生み出されていく。悪狐の手下達が人に取り憑き、凶行を起こし始めたのだ。山から放たれた狐達は、時に[復讐サイトの管理人]を演じて報復したり、時に[逮捕をまのがれたリンチ殺人事件の犯人]となりきった。
凶悪性が、特段高かった訳ではない。実際、街に住む人々は事件の内容を知っても、(一年前のリンチ殺人事件よりは、遙かにマシ)という感想を抱いた。
しかし街の空気は、確かに変わってしまった。
頻度も決して高くはなかったが、流言や都市伝説の内容が模倣されると、人間達は幾らでも負の感情を吐き出した。
根拠の乏しい噂が、次々と流れていく。人々の心境は、一年前のリンチ殺人事件の記憶に引きずられて、流言を受け入れやすい状態になっていたのだ。
こうして古の化け物は、人間社会の中に再び居場所を見つけた。
他にも、幾多の廃棄物を従者に加えている付喪神や、政治家に取り憑く鵺などの多種多様な化け物達が、好みの念を思う存分貪っている。時代に取り残されてしまった悪狐とは違い、それぞれが自分なりの方法で、現代社会に適応したのだ。
化け物達の在り方は、人々の精神の在り方と深い繋がりを持つため、その変化から大きな影響を受ける。「非科学的な存在は、創作物の中にしかいない」というのが現代人の常識だ。従って、古い世代の化け物達は、虚構の世界に登場する化け物達と同化していき、来歴とは全く関係のない属性や能力を獲得していた。
「歴史や背景を無視する化け物観になった方が、むしろ都合がいい」と捉える化け物も多い。彼らが喜んで現在の状況を受け入れていると知り、悪狐は憤った。「犬畜生と同程度の人間如きに、見下される状況を認めるとは、化け物としての矜持を失ったのか」と。
人間達が高度な物質文明を手に入れた事も、化け物の性質を変化させた原因の一つだった。昔は、巨岩を軽々と持ち上げられれば、畏怖の対象となれた。だが今や、数百年前まで人力では到底不可能だった作業を、機械を扱って難無くこなす事が出来る。軍事演習の動画を見た後では、岩を持ち上げるという逸話を、地味だと感じてしまうだろう。
当初悪狐は、昔ながらの方法で悪事を働いていた。だが、負の感情を集めるには効率が悪く、力が一向に溜まっていかない。
多くの化け物達が、現代社会の中で着実に力を増大させていた。そんな彼らとの差が開いていく日々に、悪狐は段々と耐えられなくなる。特に、下等と見ていたサトリやヌエの後塵を排する事だけは、間違ってもあってはならないと考えた。
人間達の科学的・合理的認識を侵せば、神仏に亡ぼされてしまうため、殺人で得られる魂の数にも限度がある。[常識的に考えて、おかしくはない死亡者数]を著しく超えないように、細心の注意を払わなければならなかった。
打開策の必要性を感じて、悪狐は仕方なく現代人を観察し始める。
ところが直ぐに、合理主義者を気取る人間達が、意外なほど流言に惑わされていると気付いた。人は、自分に都合がいい情報を信じようとする傾向があった。流言や陰謀論、都市伝説の類まで真に受ける者もいる。
(噂話に対する人々の心性は、今も昔もさほど変わっていないのではないか?)
悪狐がそう推察してから間もなく、街で事件が起こり始めた。それが原因となって、数々の噂が生み出されていく。悪狐の手下達が人に取り憑き、凶行を起こし始めたのだ。山から放たれた狐達は、時に[復讐サイトの管理人]を演じて報復したり、時に[逮捕をまのがれたリンチ殺人事件の犯人]となりきった。
凶悪性が、特段高かった訳ではない。実際、街に住む人々は事件の内容を知っても、(一年前のリンチ殺人事件よりは、遙かにマシ)という感想を抱いた。
しかし街の空気は、確かに変わってしまった。
頻度も決して高くはなかったが、流言や都市伝説の内容が模倣されると、人間達は幾らでも負の感情を吐き出した。
根拠の乏しい噂が、次々と流れていく。人々の心境は、一年前のリンチ殺人事件の記憶に引きずられて、流言を受け入れやすい状態になっていたのだ。
こうして古の化け物は、人間社会の中に再び居場所を見つけた。
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