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森の魔女を殺した理由(完結編)
第3話 森の魔女を殺す理由
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「さて……森の魔女の件だが、流石に住民を抑えるのも限界が来ているぞ」
「私の息子は奴に殺されたんだ! 今すぐ討伐に向かうべきだ!」
「おい、魔女を相手にするとなると兵の損害が馬鹿にならんぞ! さらに多くの者が死ぬ!」
「それに、魔女から仕入れている薬はどうなる? あれが無くなるのは困るぞ」
「いっそ、住民に説明してはどうか?」
「説明だと? 魔女の助けを借りて街をコントロールしていると? ユリウス達の名誉を傷付ける気か!?」
街の議会では、まとまらない議論が繰り広げられていた。
外には、魔女への憎しみに瞳を燃やした住民達が押し寄せている。
「おい、あれを見ろ。教会の……司教殿じゃないか!?」
外を見ていた議員が叫ぶ。
他の議員達も窓へ駆け寄り、外を覗く。
「まずいな……ついに教会が動きおったわ」
「教会の介入を受けてから動いたのでは、議会としての示しがつかん。また教会の犬と囁かれるぞ!」
「司教殿が門をくぐる前に議論を終えねば! これ以上、教会の権力を強める訳にはいかん!」
議会は、住民の支持を得ている教会を危険視していた。
表向きは協力関係にあるが、水面下では壮絶な権力闘争が繰り広げられているのだ。
ここで魔女討伐を渋ったとしても、教会と住民、さらにユリウスら若手騎士を相手にすれば議会も討伐を承認せざるを得なくなるだろう。
そうなれば、議会の権威は地に墜ちてしまう。
今後、何か揉め事がある度に、住民は教会の権威を頼るようになるだろう。
「魔女討伐隊を編成する……異議のある者は?」
「「異議無し!」」
ついに議会は魔女討伐を決意した。
議長は警備隊長に伝えると、警備隊長は外へ走って行った。
「魔女の討伐が議決された!」
議事堂の前で、警備隊長は住民へ向けて声を張り上げる。
呼応するように、住民達から歓喜の叫び声が上がる。
一体と化した街には、もはや冷静な判断も、制止も有り得なかった。
「リエース殿ー! クリロ君ー! 大変ですぞー!」
ヴィーノの予定外の訪問に、リエースとクリロは驚く。
「一体どうしたんですか? ヴィーノさん、らしくなく慌てて」
「それが大変なんです! 街の奴ら、この森に火を点ける気ですよ!」
「馬鹿な! この森の資源が無くなれば、あの街は滅びますよ!?」
驚いた顔をするクリロの横で、リエースは神妙な面持ちで呟いた。
「先日の……若い騎士達か」
「えぇ、ユリウスという有力貴族の馬鹿息子です。住民共を焚き付けたばかりか、教会まで味方につけて議会に討伐隊を編成させました。リエース殿に正面から挑むのは無謀と思ったようで、森ごと消す気です」
「議会とは上手くやっているつもりだったが……敵を作り過ぎたか」
「教会は魔女を許さない、そして議会は教会の権力増長を怖れていますからね……住民の支持を一方的に集めさせる訳にはいかないのでしょう」
「そんな……愚かだ! 冬を越せなくなりますよ!」
「奴らはもう、そこまで考えられないのですよ。目先の問題しか見えちゃいない。さ、馬車で逃げましょう。早く荷造りを! 奴ら、街中の油を集めてやがる。もう何日も持ちませんよ!」
しかし、リエースは動かなかった。
「すまない、私は森を離れられない……この森とは、そういう契約なんだ」
「そんな……」
「なんと……」
クリロとヴィーノの顔が絶望に染まる。
三人は、もはや逃げることはできないと悟った。
「クリロ、君だけでも逃げてくれ」
「できないよ! 僕も森に残る!」
「森を離れられないのなら、徹底抗戦といきますか? 火を点けられる前に奇襲すれば何とか……」
「……だめだ。これ以上、人は殺しちゃいけない」
クリロは首を横に振り、ヴィーノの提案に答える。
「しかし、このままではリエース殿が!」
「でも、もうリエースに罪は重ねさせられない。ねぇリエース、やっぱり殺しは罪だ。例え相手がクズの騎士でも、僕を守る為でも……」
「クリロ君、急にどうしたんだ。リエース殿は君を守ろうとしたんですぞ! いくらなんでも……」
「いや、いいんだ。私は、私の罪を背負わなきゃいけない。それでクリロ、私はどうしたら良い? どうしたら君と、森を守れる?」
穏やかな表情のリエースは、落ち着いた口調でクリロに聞いた。
「君が死ぬしか、無いと思う」
涙を浮かべながら、クリロは答える。
「やはり、そうか」
「君が死ねば、森に火を点ける理由は無くなる。説得の通じない奴らの目を覚まさせるには、それしか無い。今回の騒動は、君が騎士を殺したからだ……だから、森が燃やされる。君は……森を守って、償わなきゃいけない……」
「あぁ、そうだな」
「でも……! 君が罪を犯したのは、僕のせいだ。だから僕も……罪を背負うよ。僕は、君を殺す。もう、誰の手も罪に染めさせない。君の手も、奴らの手も。ごめんリエース、ヴィーノさん。僕は守りたいものを、全然守れなかった。僕は、もうこの森しか守れない。リエースと僕が愛した、森しか。ごめんなさいヴィーノさん、最後にまた少しだけ助けて欲しいです」
クリロの話を黙って聞いてから、リエースとヴィーノは悲しそうに笑った。
「悪いな、ヴィーノ。最後まで付き合わせて」
「私は……リエース殿の死を街に告げる役目ですね? このヴィーノ、最後までお伴させていただきますよ」
三人は笑顔で涙を流すと、家に入った。
クリロの作った、スープを飲む為に。
「私の息子は奴に殺されたんだ! 今すぐ討伐に向かうべきだ!」
「おい、魔女を相手にするとなると兵の損害が馬鹿にならんぞ! さらに多くの者が死ぬ!」
「それに、魔女から仕入れている薬はどうなる? あれが無くなるのは困るぞ」
「いっそ、住民に説明してはどうか?」
「説明だと? 魔女の助けを借りて街をコントロールしていると? ユリウス達の名誉を傷付ける気か!?」
街の議会では、まとまらない議論が繰り広げられていた。
外には、魔女への憎しみに瞳を燃やした住民達が押し寄せている。
「おい、あれを見ろ。教会の……司教殿じゃないか!?」
外を見ていた議員が叫ぶ。
他の議員達も窓へ駆け寄り、外を覗く。
「まずいな……ついに教会が動きおったわ」
「教会の介入を受けてから動いたのでは、議会としての示しがつかん。また教会の犬と囁かれるぞ!」
「司教殿が門をくぐる前に議論を終えねば! これ以上、教会の権力を強める訳にはいかん!」
議会は、住民の支持を得ている教会を危険視していた。
表向きは協力関係にあるが、水面下では壮絶な権力闘争が繰り広げられているのだ。
ここで魔女討伐を渋ったとしても、教会と住民、さらにユリウスら若手騎士を相手にすれば議会も討伐を承認せざるを得なくなるだろう。
そうなれば、議会の権威は地に墜ちてしまう。
今後、何か揉め事がある度に、住民は教会の権威を頼るようになるだろう。
「魔女討伐隊を編成する……異議のある者は?」
「「異議無し!」」
ついに議会は魔女討伐を決意した。
議長は警備隊長に伝えると、警備隊長は外へ走って行った。
「魔女の討伐が議決された!」
議事堂の前で、警備隊長は住民へ向けて声を張り上げる。
呼応するように、住民達から歓喜の叫び声が上がる。
一体と化した街には、もはや冷静な判断も、制止も有り得なかった。
「リエース殿ー! クリロ君ー! 大変ですぞー!」
ヴィーノの予定外の訪問に、リエースとクリロは驚く。
「一体どうしたんですか? ヴィーノさん、らしくなく慌てて」
「それが大変なんです! 街の奴ら、この森に火を点ける気ですよ!」
「馬鹿な! この森の資源が無くなれば、あの街は滅びますよ!?」
驚いた顔をするクリロの横で、リエースは神妙な面持ちで呟いた。
「先日の……若い騎士達か」
「えぇ、ユリウスという有力貴族の馬鹿息子です。住民共を焚き付けたばかりか、教会まで味方につけて議会に討伐隊を編成させました。リエース殿に正面から挑むのは無謀と思ったようで、森ごと消す気です」
「議会とは上手くやっているつもりだったが……敵を作り過ぎたか」
「教会は魔女を許さない、そして議会は教会の権力増長を怖れていますからね……住民の支持を一方的に集めさせる訳にはいかないのでしょう」
「そんな……愚かだ! 冬を越せなくなりますよ!」
「奴らはもう、そこまで考えられないのですよ。目先の問題しか見えちゃいない。さ、馬車で逃げましょう。早く荷造りを! 奴ら、街中の油を集めてやがる。もう何日も持ちませんよ!」
しかし、リエースは動かなかった。
「すまない、私は森を離れられない……この森とは、そういう契約なんだ」
「そんな……」
「なんと……」
クリロとヴィーノの顔が絶望に染まる。
三人は、もはや逃げることはできないと悟った。
「クリロ、君だけでも逃げてくれ」
「できないよ! 僕も森に残る!」
「森を離れられないのなら、徹底抗戦といきますか? 火を点けられる前に奇襲すれば何とか……」
「……だめだ。これ以上、人は殺しちゃいけない」
クリロは首を横に振り、ヴィーノの提案に答える。
「しかし、このままではリエース殿が!」
「でも、もうリエースに罪は重ねさせられない。ねぇリエース、やっぱり殺しは罪だ。例え相手がクズの騎士でも、僕を守る為でも……」
「クリロ君、急にどうしたんだ。リエース殿は君を守ろうとしたんですぞ! いくらなんでも……」
「いや、いいんだ。私は、私の罪を背負わなきゃいけない。それでクリロ、私はどうしたら良い? どうしたら君と、森を守れる?」
穏やかな表情のリエースは、落ち着いた口調でクリロに聞いた。
「君が死ぬしか、無いと思う」
涙を浮かべながら、クリロは答える。
「やはり、そうか」
「君が死ねば、森に火を点ける理由は無くなる。説得の通じない奴らの目を覚まさせるには、それしか無い。今回の騒動は、君が騎士を殺したからだ……だから、森が燃やされる。君は……森を守って、償わなきゃいけない……」
「あぁ、そうだな」
「でも……! 君が罪を犯したのは、僕のせいだ。だから僕も……罪を背負うよ。僕は、君を殺す。もう、誰の手も罪に染めさせない。君の手も、奴らの手も。ごめんリエース、ヴィーノさん。僕は守りたいものを、全然守れなかった。僕は、もうこの森しか守れない。リエースと僕が愛した、森しか。ごめんなさいヴィーノさん、最後にまた少しだけ助けて欲しいです」
クリロの話を黙って聞いてから、リエースとヴィーノは悲しそうに笑った。
「悪いな、ヴィーノ。最後まで付き合わせて」
「私は……リエース殿の死を街に告げる役目ですね? このヴィーノ、最後までお伴させていただきますよ」
三人は笑顔で涙を流すと、家に入った。
クリロの作った、スープを飲む為に。
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