森の魔女と小さな幸せ

棚丘えりん

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森の魔女を殺した理由(完結編)

第4話 魔女と少年の森

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 スープを飲んだリエースは、ふっと脱力すると匙を落とした。

「クリロ君……これは一体」

「『森の雫』ですよ……植物に対して使われる栄養剤ですが、人間に対しては毒になる。低精度のものなら体調を崩す程度ですが……高精度のものは、命を奪う」」

 瞳から光を失っていくリエースの手を握り、クリロは言った。

「リエース、君に最初に教えてもらった調合だよ。はじめは上手くできなかったけれど……君のお陰で、こんなにも高精度の精製ができるようになったんだ。君を苦しませずに殺す方法を考えたけれど、これがぼくの出した一番の答えだったよ……」
「あぁクリロ、雑味も無く、素晴らしい精度だった……君の素晴らしいスープの味を損なわなかった、上出来だよ。こんな魔女の最期を、人間のように温かく包んでくれて、本当にありがとう……」

 そう言って微笑むリエースの手を握ったまま、クリロは涙を流す。

「リエース、まだ気付かないのかい? 『森の雫』は人間にのみ毒になるんだ。君は立派な人間……一人の女の子だったんだよ。僕が愛したたった一人の……」
「ありがとうクリロ、ヴィーノ、幸せだったよ。私は」

 クリロの言葉を聞き、リエースはにっこりと笑うと息を引き取った。


 それからのことは文献に書かれている通りである。
 行商人ヴィーノがリエースの杖を携え現れ、魔女は死んだと告げた。
 そして誰が魔女を殺したのか。魔女を愛した少年ではなく、弱い心を持った街の人間達が殺したのだと諭した。
 それでも、魔女と少年が罪を重ねることなく森を守ったことを知り、人々は初めて大いに恥じることとなった。
 その後ヴィーノは街の商工会を取り仕切り、後に顔役となった。
 彼は誰かを排除するようなことはせず、ただゆるやかに世界は優しくなった。
 
 それから百年の後、森は変わらず緑に満ちていた。
 百年の中で起きた多くの災害にも負けず森が街を守り続けたのは、一説によれば、魔女の弟子クリロの魔法だという。
 自らの肉体と引き換えにする大魔術の儀式を成せるほど、少年の魔法は熟達していた。
 それは優秀な師のお陰であると同時に、愛する者の意思を継ごうという強い想いの表れでもあった。

 今となっては真相は分からないが、人々は今も森に感謝を捧げている。
 いつしか魔女リエースは森の女神リエースと呼ばれるようになり、吟遊詩人が物語を語り継いだ。
 魔女の弟子クリロは愛と勇気を持った少年として語られ、子供達の理想像として枕元で語られている。
 当時のことを知れば、人間は都合のいいことばかりだと思うかもしれない。
 しかし、森と、彼らがそれを許したのだ。
 今も森と街は静かに、平和に生命を紡いでいる。
 魔女と少年の願った世界がそこにようやくできたのだ。
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