桜旅 ~たぶん歴女の花見~

佳純

文字の大きさ
5 / 10
関ケ原

三成の陣跡

しおりを挟む
 そして、三成陣跡のある笹塚山に登った。山というには低かったけれど、ここを攻めると考えると大変なような気がした。戦ったことないからわからないけれど、これを登って攻めると考えると嫌だ。攻める方が不利かも?

 登り切ると関ケ原が見渡せた。
 のどかな景色が広がっている。
 山があって畑があって。

 かつてはここで天下分け目の戦があった。
 今はそんな形跡けいせきはない。

 草が風に揺れて、緑豊かな景色が広がる。
 遠くまで観ることができた。

 静かで居心地がよくて、いいところだった。

 三成の気分になったつもりになって関ケ原を見る。
 400年前の戦がどんなだったか想像してみる。

 ここから戦の様子がわかったのかもしれない。
 見えている緑の原が、炎や煙に包まれていたのだろうか。

 情報戦もあったのだろうが、少しずつ押されていく西軍。
 負け戦になる様子も、この場所で見たのだろうか?

 人々の声がしていたのだろうか。
 怒号と最期の悲鳴と。武器が当たる音、矢が飛んでくる音、鉄砲の音も聞こえたかもしれない。

 それを見て、どんな気持ちになるだろう。

 諦めの境地?
 それとも、まだ行けるという気持ち?

 太閤秀吉が亡くなった後の、天下の行方を決めた戦い。
 西軍が豊臣秀吉の息子の秀頼の味方で、秀頼の後見人のはずの家康が、東軍を率いて戦った。

 秀吉は誰が敵だと考えていたのか。最も危険だと思ったから家康を後見人にしたのだろうか? それが敵の大将になってしまったのなら狸面《たぬきづら》にもされるだろう。
 正義は三成側にあるような気もする。

 そのあたりはもやっとしている。勝った側は自分に都合のいいように歴史を描くことも多い。
 勝った方が正義になってしまうから。

 数の上では西軍が有利だったと聞いたことがある。
 西軍にいた小早川秀秋が裏切って東軍が勝利したと授業では習った。

 淀《よど》の君が息子の秀頼を大阪城から出さず、さらに西軍の総大将の毛利輝元をも大阪城に引き止めたとか。小早川秀秋は毛利元就の息子だから、元就の孫の輝元がいたら裏切ってなかったのかもしれない。ただ、わざと親族で敵味方に別れてどちらが勝っても身内の誰かが残るようにするらしいから、輝元がいたとしても裏切ったのかもしれない。

 秀吉の側室の淀君が悪役になっているけど、冷静に考えれば息子を戦場に出したい母親などいないはず。そのわがままが通ってしまっただけだろう。弱いという前評判で実は強かった武将もいたし、秀頼が戦に出ていたら結果は違っていたのかもしれないけれど。

 負け戦が濃厚になれば、逃げ出す武士も出てくるだろう。それともそんな武士はおらず、みなで迎え撃ったのだろうか。

 博物館では三成は、秀吉に忠義を尽くし潔くてカッコよく描《えが》かれていた。
 参謀向きの性格のように思えた。

 本来は表に出るタイプではない、秀吉に重用された優秀な参謀。それが前面に置かれてしまった。もしかして、カリスマを持つ暴走人間を諫《いさ》めて止めるブレーキ役が似合う人だったのではないか。資料館で見た感じだと、止めた後に、修正を加えて実現可能なルートを作る人に見えた。

 頭がよくて、口やかましくて鬱陶しいから煙たがれる。でも、人がしたがらないことをする人だったのかもしれない。

 三成が考えた多くのシステムは、江戸時代にも用いられたそうだ。三成がアイディアマンだったのか、敵方だろうとその考え方を重用する家康の懐が深いのか、その両方だったのか。

 静かでのどかな景色を眺め、そんなことを思った。


 日本にはかつて、戦国時代があった。
 人々が戦乱に明け暮れた時代。

 東軍が勝って当たり前だと思っていた。
 私はその歴史しか知らない。黄門様も暴れん坊将軍も、居て当たり前と思っている。ここで東軍が負けていたら、私が大好きな時代劇がなくなっていたかもしれない。でも、代わりに石田三成がカッコよく世直しをする時代劇があったかもしれない。三成の子孫がそんなことをする未来もあったかもしれない。

 家康は関ケ原の戦いの後、天下統一を果たし、200年続く平和な江戸時代を築いた。
 ここで起きた戦は、そのために必要だったのかもしれない。

 西軍が勝っていたら、戦国時代は終わらなかったのだろうか。三成が負けなければ、平和な江戸時代は訪れなかったのだろうか。

 家康が力をつけていき、他の大名も秀頼から離れていき、淀君を説得することもできず、三成はどんな気持ちでここから関ヶ原の戦いを見ていたのだろう。

 恨んでいたのか、悔やんでいたのか、それとも大役から解放された安堵だったか。

 戦わずに、たくさんの命を失わずに、平和な世界は得られないものなのだろうか。それとも人間は平和な世界など望んでいないのだろうか。


 ただ、笹尾山から関ケ原を見つめていると、そんなことはどうでもよくなった。
 美しい夕陽が辺りを薄紅《うすべに》色に染めていた。

 江戸時代のことは見てきたわけではない。
 私が見ていた平成の関ケ原は、自然が豊かな景色が広がっているだけだった。

 戦う音など聞こえない。
 静かで美しい世界。

 当たり前すぎて、見落としがちな物。
 この景色が彼らの癒しになればいい。

 彼らの苦しみがこの未来に繋がったのなら、それはきっと、無駄なことではなかったのだと。敵も味方も、この地を護ってきた人たちも。

 そんなかけがえのない空間を、当たり前のように見せてもらい、満足して駅に向かった。二時間の予定だったが、四時間ほど観光していた。
 楽しかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

処理中です...