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第一章 七不思議の欠片
1.逢瀬は視線だけ
しおりを挟む何時ぞや。登校していた時だった。ふと視線を前に滑らせると、会話を弾ませて歩く男女の二人を視掛けた。その時はどちらに惹かれたのか分からなかった。
だが、二人の横顔が目に入った途端、胸が締め付けられた。理由はさっぱりだ。それでも例えるとしたら春うららであり、陽だまりのような、何かだ。
俺には分からない。――その正体が。
眩しくて目を細めると、男が視線に気づいたのか振り返った。目が合う。すると、あいつは口の端を上げたのだ。
1.
「退屈」
隣の席からそんな音が漏れだした。
顔は動かさずに視線だけ向けると、沢村という少女が死んだ目で黒板を眺めていた。おそらくセミロングぐらいの長さの髪束を一つに纏め、あまりクラスの中では目立たない平凡な少女だ。
今は自習時間だからこそ許される怠惰。だがまだ新学期早々だぞ。見下げ果てたものだ。
「はあ」
その上、溜息まで吐くとは恐れ入る。俺は思わず「お前、暇なのかよ」と声を掛けてしまった。らしくない言動を取ってしまうのは、以前に見掛けた二人の男女の片割れだったからだろうか。
「へ?」
沢村が大きく口を開いたまま、顔をこちらに向かせる。掌に乗せた顎がずり落ちそうだ。
「あーー……、そうね。やる気も出ないし、暇なんじゃない?」
顔を顰めると、沢村がチベットスナギツネみたいな表情を向けてくる。
こいつ、百面相でも鍛えてるのか?
「随分と投げやりなんだな」
すると彼女の後ろの席から、
「いやあ、やる気がないとさあ。気分も投げやりになるっしょ」
振り返ると、月島と言う少年が機嫌よく笑っていた。こいつは初めて見た時から、いけすかない奴だと感じていた。
月島はこのクラスの中心人物の一人である。女子にも男子にも人気が高く、その理由が顔、イケメン、分け隔てなく接してくれる、優しい、頼りになるエトセトラエトセトラ。諸々の理由があるものの、特に顔が良いとの話だ。
そんな人気者が自ら声を掛けてきたのだから、普通は嬉しそうにするんじゃないのか? だが沢村は嫌そうな顔をしている。それから俺を見て、更に目が死んだ。何でだよ。今度は突然天を仰いだかと思えば、「薄汚れた天井しか見えない……」と言い出す始末。
俺は沢村の奇行を無視し、月島へと問うことにした。
「そういうものなのか?」
「そういうものです」
腕を組みながら、うんうんと頷く月島に軽く殺意が沸いた。
「実はさ、オレも飽きちまってよ」
月島が内緒話をするかのように声を潜ませる。
「何か怖い話でもしようぜ」
「いや、何で怖い話をチョイスしたの」
沢村が首を傾げるので、内心同意をしておく。このタイミングで怖い話とは酔狂なことだ。
「良くね? だって怖い話って盛り上がるじゃん。オレは好きだぜ」
肩を竦めてオーバーリアクションを取る月島を見るに、冗談半分真面目半分といったところか。
「俺も嫌いじゃない」
「おお、黒川もか! 沢村は?」
「私も嫌いじゃないよ。むしろ大好き。でも幽霊が実在してるなんて信じてないけど」
「別にいいじゃん。怖い話ってさ、実在しなくても良いんだぜ。身の毛もよだつような話が、俺達を楽しませてくれるってやつなんだからさ。一種のエンターテインメントだろ! だからこそのチョイスなんだぜ。いいだろ?」
「それは確かに……。存在するかどうかーーなんて、個人の自由だもんね」
沢村が渋々と頷く。これは完璧に怖い話をする流れになってしまった。
周囲の視線を確認すると、自らの勉学に集中している者もいるが、こちらの会話を気にしている者も一定数いた。その中でも好意的な視線が多い気がする。原因はやはり月島なんだろう。
そう思った瞬間、ちりっと項にざわつくものを感じた。全身が危険信号を発しているような心地だ。危険を感じた……? それにしては、少し違うような。どうも気になって教室内に視線を向けると、『彼』がこちらを見ていた。自習中に私語を慎まない俺たちを非難する目かと言われると、そうではない。
ーーーそれなら何故だ? その内、『彼』はふいっと視線を机上へと戻した。視線による圧迫感が急激に消え去り、自然と詰めていた息を漏らす。
その間にも月島と沢村は怪談について話している。良いよな、平和な奴って。
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