審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

消えた使者

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「使者って、怪異が生み出したものなんでしょ。ってことは普通、物理的じゃなくない?」
『なるほど? 沢村はこう考えてるんだな。――幽霊がまず人には触れることなく怪奇現象で脅かすのと同義に、怪異も人に触れることなく脅かす存在であるか否か』
「うん、そんな感じ。月島くんは現に触れたらしいし、私も蹴り上げたし。物理的であるなら、鏡の怪異だって鏡に移動する前にどうにか捕まえられないかなって思って」

 それなら鏡を割っても平気なんじゃないかな、なんて。

『それは飛躍してるぜ。そもそも怪異が現実に干渉してくる時点で非物理的だろ。たとえ怪異が物理的であっても、鏡に潜んでいる怪異は鏡の中の何処にいるのか。どう存在しているのか。あらゆることがオレたちには分からない。確かにオレは殴って使者を倒したけど、水銀みたいに銀色に溶けて消えちまったんだぜ。あれは危険だ。まだ手出しするべきじゃねえよ』
「そっか……」

 私は肩を落とした。

『家の近くの図書館にも行ってみたが、何にもなかったしなあ』
「そうなんだ。私も進展ゼロ。家に帰ったら使者が出待ちしてただけ」
『オレもだ。あとは黒川に掛けるしかねえかな』

 私もそれがベストな判断だと思う。全てを黒川に委ねて、もう眠りたい。昨日から一睡もしていないのだ。

『着いたわ』

 その言葉と共に階下から硝子が割れた音が聞こえてきた。肩が飛び跳ねる。
 まさかとは思うんだけど、月島が窓硝子でも割って家に入って来たのかしら。そりゃ扉を抑えているから、玄関の扉を開けに行くことは出来ないけどさ。せめて一言だけでも言ってくれれば良いのに。

「あ、うん。ありがとう」

 それでもこの緊急時に来てくれたのは感謝でしかない。不満が喉先まで出掛かったのを我慢する。
 すると元気よく『おう!』と返されて、思わず脱力してしまった。一瞬父の顔が過り、なんて言い訳をしたら良いのか悩んだが、階段を上ってくる音が聞こえてきて雑念を払う。
 月島がひょいっと顔をのぞかせた。

「お早い到着をありがとう」
「無事だな」
「ええ、私は無事よ」
「よし、そこをどいてろ」

 月島に従って自室の扉から離れた。いつの間にか私の部屋からは何も聞こえなくなっていた。その代わり自分の呼吸音がやけに聞こえてくる。心臓も激しく波立つ。
 月島にはそんな緊張もないらしく、豪快に扉を開けた。電気を点けることなく迷わず足を踏み入れる。こんなに無警戒に動く人間は初めて見たんだけど。
 呆れと心配で私も部屋の中を覗き込んだが、そこは空っぽであった。……誰もいなかったのだ。




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