35 / 111
第一章 七不思議の欠片
消えた使者
しおりを挟む「使者って、怪異が生み出したものなんでしょ。ってことは普通、物理的じゃなくない?」
『なるほど? 沢村はこう考えてるんだな。――幽霊がまず人には触れることなく怪奇現象で脅かすのと同義に、怪異も人に触れることなく脅かす存在であるか否か』
「うん、そんな感じ。月島くんは現に触れたらしいし、私も蹴り上げたし。物理的であるなら、鏡の怪異だって鏡に移動する前にどうにか捕まえられないかなって思って」
それなら鏡を割っても平気なんじゃないかな、なんて。
『それは飛躍してるぜ。そもそも怪異が現実に干渉してくる時点で非物理的だろ。たとえ怪異が物理的であっても、鏡に潜んでいる怪異は鏡の中の何処にいるのか。どう存在しているのか。あらゆることがオレたちには分からない。確かにオレは殴って使者を倒したけど、水銀みたいに銀色に溶けて消えちまったんだぜ。あれは危険だ。まだ手出しするべきじゃねえよ』
「そっか……」
私は肩を落とした。
『家の近くの図書館にも行ってみたが、何にもなかったしなあ』
「そうなんだ。私も進展ゼロ。家に帰ったら使者が出待ちしてただけ」
『オレもだ。あとは黒川に掛けるしかねえかな』
私もそれがベストな判断だと思う。全てを黒川に委ねて、もう眠りたい。昨日から一睡もしていないのだ。
『着いたわ』
その言葉と共に階下から硝子が割れた音が聞こえてきた。肩が飛び跳ねる。
まさかとは思うんだけど、月島が窓硝子でも割って家に入って来たのかしら。そりゃ扉を抑えているから、玄関の扉を開けに行くことは出来ないけどさ。せめて一言だけでも言ってくれれば良いのに。
「あ、うん。ありがとう」
それでもこの緊急時に来てくれたのは感謝でしかない。不満が喉先まで出掛かったのを我慢する。
すると元気よく『おう!』と返されて、思わず脱力してしまった。一瞬父の顔が過り、なんて言い訳をしたら良いのか悩んだが、階段を上ってくる音が聞こえてきて雑念を払う。
月島がひょいっと顔をのぞかせた。
「お早い到着をありがとう」
「無事だな」
「ええ、私は無事よ」
「よし、そこをどいてろ」
月島に従って自室の扉から離れた。いつの間にか私の部屋からは何も聞こえなくなっていた。その代わり自分の呼吸音がやけに聞こえてくる。心臓も激しく波立つ。
月島にはそんな緊張もないらしく、豪快に扉を開けた。電気を点けることなく迷わず足を踏み入れる。こんなに無警戒に動く人間は初めて見たんだけど。
呆れと心配で私も部屋の中を覗き込んだが、そこは空っぽであった。……誰もいなかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる