審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第二章 わたし、めりーさん

15.三夜

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「これは一体どういうことなの」

 呑気にソファで眠って、悪夢にでも魘されていた沢村の鼻を小突いていた月島が、やっと目覚めた沢村に突き飛ばされた。至極真っ当な反応だと俺も思う。
 体幹のある月島は、沢村の矜持を尊重するように、一歩だけ下がった。それを見た沢村が、眉を吊り上げた。

「お邪魔してまーす!」

 元気よく月島が片手を上げる。

「いやいやいや、お邪魔してますとかじゃないから!」

 身を起こした沢村が激高する。

「大体ここは私の家! 私のリビング! あんたたち、寛ぎすぎじゃない!?」
「いやあ、呼び鈴鳴らしても出ねえからさ」
「そもそも鍵、掛けてたでしょ? どうやって侵入したのよ」
「こいつの手口でな」

 俺が月島を顎で示す。

「ピッキングが得意でさ」
「ちょっと、勘弁してよ。ピッキング後って鍵穴、変形してない? 破壊されても困るんだから」
「大丈夫大丈夫」
「全然大丈夫とは思えない言い方なんだけど……って、ちょっと待って!? どうしてロミジュリまで見てるの!?」

 月島は沢村が深く眠っていた間に、テレビの前に置かれていた現代版ロミオとジュリエットのパッケージを取り出し、勝手にDVDプレイヤーをつけたのだ。丁度ロミオとジュリエットが初めての邂逅を終えるところだ。

「沢村の趣味嗜好が気になってな」
「それ気持ち悪い。ストーカーとか最低」
「オレが沢村をストーキングしてるとでも?」
「胸に手を置いて考えてごらん」

 沢村の言う通り、月島は自身の胸に手を置いて、一拍おいて考える。

「まだ何も出来てないな」
「何がだよっ!」

 吠える沢村に、月島が大笑いした。眉を八の字にさせて、沢村が俺を見る。俺でも月島を統制するのは無理だ。肩を竦めて、体ごと背ける。

「あ~~、腹減ったわ! 飯でも食っていいか?」

 月島がコンビニのロゴが入ったビニール袋を持ち上げ、呑気にアピールする。

「ええ……」

 沢村は引いた目で月島を見てから、時計を確認した。もう十九時を過ぎていた。

「別に良いけど……言っておくけど、染みには気を付けてよ」
「おうよ、任せとけ」
「任せられる気がしないんですけど」
「それで、沢村。今日は家の人はいないのか?」

 話が進まないので割り込む。

「今日は仕事で帰って来ないと思う。このまま泊っても良いけど、朝までちゃんと二人とも居るなら許すから」
「おっけえ。黒川、勝手に帰るなよ」

 沢村の家でお泊りするのに大賛成な月島が、俺に鋭い視線を向ける。

「お前もだろ」

 あまり月島に構っていると面倒だ。

「人気者の二人を泊めたなんてクラスメイトにバレたら、どれだけ大騒ぎになることか……」

 沢村は俺たちの傍で頭を抱えている。そんな様子の沢村が目に入らないのか、いや確実に入っている。そして愉しんでいやがる。月島は鼻唄を歌いながら、ソファのすぐ傍にある机に弁当を広げ、食べ始めた。

「それでどうするのよ?」

 足元で食べている月島を一瞥し、沢村が話を切り出した。

「まあ、手掛かりは前回同様、あまりないな」
「だよねー」
「この中の誰かが相当の悪運持ちじゃないのか?」

 そう言いながら、俺は沢村を見た。同時に、ブロッコリーを頬張りながら月島も沢村を見る。

「ちょっと、ちょっと。言いがかりはよしてよ。私が悪運持ち? 私のせいとは限らないじゃない? 運の無さは確かに壊滅的だけどさ」

 その時点で答えが出ているだろ。
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