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第二章 わたし、めりーさん
盤面の表裏
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「まず、仮定から始める。何故、お前が樋脇に相談したのか。それは初日占いがあったからだ」
「……初日占いって、皆で話し合いを始める前夜に占えることよね」
唇に指を押し当てて、沢村が一考する。
「そうだ。俺も昨日まで知らなかったが、人狼ゲームの解説を簡潔に見た。そこに初日占いという話があったんだ」
言葉を一度、切る。
「俺は三日間、つまり三回だけ回答権を得られる。メリーの襲撃も三回、それを止める狩人も三回守護できる。だが、お前は違う」
立川は俺を睨んだ。その反応だけで充分が、敢えて気付かない振りをした。
「お前が夜に強制占いをさせられるとして、その占いは俺たちの最終日には間に合わない。何故なら、占いも回答もメリーの襲撃も何もかも、夜に行われるからだ。俺たちが一箇所に集まらない限り、最終日の占い結果を聞かずに回答する羽目になる。まあ、今のようにお前が黙ったままの状況と変わりないがな」
「そうですか?」
俺もとぼけようとする立川を睨みつけた。
「フェアじゃないだろ。怪異と言うのは、メリットとデメリットが存在する。メリーの怪異は人狼ゲームに基づいているだろう? これも俺の推論に過ぎないが、発動条件を誰かが例の携帯を拾ったとする。つまり、怪異が発動する機会が異常に少ないんだ。千堂みたいにほいほい見るにも怪しい携帯を拾うやつは他にいるか? 新品のスマホだったら、落とし物だと思って拾う人もいるだろうがな。兎も角、それがデメリットであるなら、たった三回だけのチャンスを与えない――最低でも一人は確実に命は貰えるだろうが、俺たちがメリーを探し出せる確率の方が異常にも低い」
「私たちがメリーさんと遭う機会も異常に低くて、メリーさんが私たちに勝てる割合も高いってこと?」
沢村がうんうんと唸りながら、訊いた。
「そう言い換えた方が分かりやすいだろうな。つまり、この怪異はバランスが釣り合っているんだ。ゲーム性での平等を約束している。その意味が分かるだろ? 要は、占いの回数だけ、二回で終わってしまうのはおかしな話だということだ」
「……黒川くんが何を言っているのか理解できませんね。そもそも怪異にメリットとデメリットがあるんだとか、本当に正しいんでしょうかね」
「後でも構わない質問だな。時間稼ぎをするつもりか」
立川に怪異の話をしても無駄だ。これからも怪異に関わるか微妙なところだしな。
「そんなつもりは毛頭ないですよ。何を言っても無駄ですね」
「こっちの台詞だが。ともあれ、話を続けるぞ。占いが三回可能だとして、それならどのタイミングか?」
沢村が小さく「――あのメールが届いた後とか?」と言った。俺は沢村と視線を交わし、頷いた。
「あの時の空気は異様だっただろ? 怪異が発動したからだとは言え、メリーの気配が色濃く現れていたからな。強制的に占いをさせていたとしても不思議ではない」
立川は黙ったままだ。
「占い結果は、お前の不安を的中させた。そこでお前は樋脇に身の振り方を相談したんだ。だが疑い深いお前は、樋脇を信じ切れなかった――と言うよりは、何もできない自分が歯痒かったのだろうな。その日から、お前は焦りと不安、そして苛立ちに苛まれ続けたんじゃないのか?」
「それは貴方の想像でしかないでしょう? 仮に僕が不安だったとして、先ほども言ったように、何が不満なんですか?」
俺は立川へと距離を詰めた。挟まれた形でフローリングに座る月島と、ソファに座ったままの沢村が、俺たちを交互に見やる。
「沢村、月島。お前たちはクラスメイトから話を聞いてきたんだろ。クラスメイトの様子はどうだった?」
「……え」
突然、話を振られた沢村が、呆けるような声を出す。
「まっ、あんまり心配してなかったみてえだな。そりゃ全員にメールが行き渡ったんだし、斎藤みてえに動揺していた奴もいたけどよお。でも徐々に落ち着きを取り戻した訳だし、不登校になるぐらい不安がってはない印象だな」
沢村の代わりに月島が答える。
「――そこなんだ。俺たちは昨日まで気付けなかった。情報を聞きまわっても、あまり情報が落ちてこなかった理由をな」
「情報が何にも落ちてこないほど、みんながあまり心配していなかったってこと?」
「そうだ。お前たちの見立ては良い線までいっていた。実際正しかっただろうが、先に上塗りされてしまったんだ。二日目の朝の時点で、おそらく誰かが結界を張ったんだ」
「……結界?」
沢村が首を傾げた。その向こうで、突然意味不明なことを言い出した俺に対し、立川が顔を歪めた。
「誰が行ったのか不明だが、明らかに嫌な気配は浄化されている。それも程々にな。完全に浄化してしまうと、メリーが出現してしまう恐れもあるからだろう。更に、俺や沢村、月島を除いた生徒全員へと、個人個人に結界を張ったようだな」
立川の隣にいる千堂は、途中から目を回していた。
「つまり、この浄化と結界のおかげで、クラスメイトはみな落ち着いていたんだ。恐怖や不安、そういったマイナス感情に踊らされない程にな」
「……なるほど?」
曖昧に頷く沢村も、あまり理解出来ていないようだ。
「だから、お前だけが不自然なんだ」
「……その結界とやらに僕も包まれている上で、不安がっているからでしょうか?」
「その通りだ」
「――莫迦莫迦しい」
立川は体を大きく揺らし、俺を否定する。
「理解してます? 君の、その話には矛盾がある」
「……初日占いって、皆で話し合いを始める前夜に占えることよね」
唇に指を押し当てて、沢村が一考する。
「そうだ。俺も昨日まで知らなかったが、人狼ゲームの解説を簡潔に見た。そこに初日占いという話があったんだ」
言葉を一度、切る。
「俺は三日間、つまり三回だけ回答権を得られる。メリーの襲撃も三回、それを止める狩人も三回守護できる。だが、お前は違う」
立川は俺を睨んだ。その反応だけで充分が、敢えて気付かない振りをした。
「お前が夜に強制占いをさせられるとして、その占いは俺たちの最終日には間に合わない。何故なら、占いも回答もメリーの襲撃も何もかも、夜に行われるからだ。俺たちが一箇所に集まらない限り、最終日の占い結果を聞かずに回答する羽目になる。まあ、今のようにお前が黙ったままの状況と変わりないがな」
「そうですか?」
俺もとぼけようとする立川を睨みつけた。
「フェアじゃないだろ。怪異と言うのは、メリットとデメリットが存在する。メリーの怪異は人狼ゲームに基づいているだろう? これも俺の推論に過ぎないが、発動条件を誰かが例の携帯を拾ったとする。つまり、怪異が発動する機会が異常に少ないんだ。千堂みたいにほいほい見るにも怪しい携帯を拾うやつは他にいるか? 新品のスマホだったら、落とし物だと思って拾う人もいるだろうがな。兎も角、それがデメリットであるなら、たった三回だけのチャンスを与えない――最低でも一人は確実に命は貰えるだろうが、俺たちがメリーを探し出せる確率の方が異常にも低い」
「私たちがメリーさんと遭う機会も異常に低くて、メリーさんが私たちに勝てる割合も高いってこと?」
沢村がうんうんと唸りながら、訊いた。
「そう言い換えた方が分かりやすいだろうな。つまり、この怪異はバランスが釣り合っているんだ。ゲーム性での平等を約束している。その意味が分かるだろ? 要は、占いの回数だけ、二回で終わってしまうのはおかしな話だということだ」
「……黒川くんが何を言っているのか理解できませんね。そもそも怪異にメリットとデメリットがあるんだとか、本当に正しいんでしょうかね」
「後でも構わない質問だな。時間稼ぎをするつもりか」
立川に怪異の話をしても無駄だ。これからも怪異に関わるか微妙なところだしな。
「そんなつもりは毛頭ないですよ。何を言っても無駄ですね」
「こっちの台詞だが。ともあれ、話を続けるぞ。占いが三回可能だとして、それならどのタイミングか?」
沢村が小さく「――あのメールが届いた後とか?」と言った。俺は沢村と視線を交わし、頷いた。
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「それは貴方の想像でしかないでしょう? 仮に僕が不安だったとして、先ほども言ったように、何が不満なんですか?」
俺は立川へと距離を詰めた。挟まれた形でフローリングに座る月島と、ソファに座ったままの沢村が、俺たちを交互に見やる。
「沢村、月島。お前たちはクラスメイトから話を聞いてきたんだろ。クラスメイトの様子はどうだった?」
「……え」
突然、話を振られた沢村が、呆けるような声を出す。
「まっ、あんまり心配してなかったみてえだな。そりゃ全員にメールが行き渡ったんだし、斎藤みてえに動揺していた奴もいたけどよお。でも徐々に落ち着きを取り戻した訳だし、不登校になるぐらい不安がってはない印象だな」
沢村の代わりに月島が答える。
「――そこなんだ。俺たちは昨日まで気付けなかった。情報を聞きまわっても、あまり情報が落ちてこなかった理由をな」
「情報が何にも落ちてこないほど、みんながあまり心配していなかったってこと?」
「そうだ。お前たちの見立ては良い線までいっていた。実際正しかっただろうが、先に上塗りされてしまったんだ。二日目の朝の時点で、おそらく誰かが結界を張ったんだ」
「……結界?」
沢村が首を傾げた。その向こうで、突然意味不明なことを言い出した俺に対し、立川が顔を歪めた。
「誰が行ったのか不明だが、明らかに嫌な気配は浄化されている。それも程々にな。完全に浄化してしまうと、メリーが出現してしまう恐れもあるからだろう。更に、俺や沢村、月島を除いた生徒全員へと、個人個人に結界を張ったようだな」
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「つまり、この浄化と結界のおかげで、クラスメイトはみな落ち着いていたんだ。恐怖や不安、そういったマイナス感情に踊らされない程にな」
「……なるほど?」
曖昧に頷く沢村も、あまり理解出来ていないようだ。
「だから、お前だけが不自然なんだ」
「……その結界とやらに僕も包まれている上で、不安がっているからでしょうか?」
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「――莫迦莫迦しい」
立川は体を大きく揺らし、俺を否定する。
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