水色と恋

和栗

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笑顔2

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「水出くん」
声をかけられてドアの方を見ると、宮田くんが立っていた。杖を片手に、ニコニコ笑っている。
あぁ、と返事をして立ち上がると、前方のドアから素早く教室から出て行く姿が視界に入った。
山田くんだった。
宮田くんがその姿を追って、少し表情を曇らせた。
「・・・山田くんに会いに来たの?」
「うん。声かけようとしてるんだけど、避けられちゃうんだ。追いかけたいんだけどね・・・」
寂しそうに笑った。
宮田くんは走れない。歩くことも、杖がないと難しい。山田くんはそれを知っていて逃げるんだ。何故だろう。
「僕から声をかけておく?」
「ううん。水出くん、そういうの好きじゃないでしょ。面倒くさいと思うでしょう?あはははは!」
つられて少し笑ってしまう。
じゃあねー、と手を振られる。振り返しくるりと教室側に体を向けると、真喜雄が横目でジロリと睨んできた。
気に入らなかったのだろうか。
田所くんが真喜雄に話しかけてるのと同じだと思うんだけど・・・。
席に座ると田所くんが振り返り、真喜雄に声をかけた。
ぼんやり聞きながら、眠たげに頷いている。山田くんが戻ってきた。チラリと僕を見る。
少しイラっとした。だけど僕には関係ない。すぐに心を穏やかにする。早く昼休みにならないかな。


************


「ねぇ、なんでおへそ曲がりなの」
「・・・曲がってない」
お昼を食べて真喜雄に触れようとすると、手を掴まれ阻止された。
これは今日は無理だろうなぁ。残念。
 でも、たくさんたくさん甘やかしてあげよう。
「じゃぁ機嫌が悪いの?」
「悪くない」
「嫌なの?」
「・・・そういう気分じゃない」
「そう・・・。じゃぁ、寄りかかってもいい?」
「嫌だ」
ちくっと胸が痛む。
真喜雄は窓の外を見ていた。僕は、教室に立てかけられた絵を見るしかなかった。
嫌なんて、はっきりと言われたのは初めてだった。
僕が宮田くんと喋ったからだろうか。でも、仕方ないじゃないか。彼は僕と少なからず仲良くしてくれる1人だ。
僕の性格を考慮して付かず離れずを守ってくれる。心地よい関係だ。
真喜雄にとって、田所くんのような人だと思う。
ぼんやりしていると、ぐっと肩を寄せられた。ぶつかるように真喜雄の胸に飛び込む。そっぽを向いたまま、小さく、ごめん、と言われた。
「・・・宮田と、仲良さそうで、嫉妬した」
「・・・そか」
「・・・キス、していいか」
顔がこちらに向く。目を合わせると、少し気まずそうな顔があった。頰に触れて唇を寄せると、勢いよく重なった。
首に腕を回し、甘えるように抱きつく。腰に手を添えられた。
「真喜雄・・・気持ちいい」
「おれも・・・もっとしていい?」
「うん。・・・少し噛んでいい?」
「おれもいい?」
「・・・痛くしないでね。んわっ、」
ホックを外し、首に噛みつかれた。ぢゅっと強めに吸われる。
「痛くない?」
「くすぐったい」
「あーんして」
「・・・嫌だよ。僕にさせて」
「だめ」
「・・・ん」
「むっ、」
頰に甘く噛み付くと、押し倒された。机の上に倒れて手を握る。
整った顔が僕を見下ろし、厚い唇が少し開いた。
「好きだ」
「・・・あ、ありがとう・・・」
顔が熱くなるのが分かった。
真喜雄は満足げに笑う。
「透吾白いから、赤くなるともっと可愛いくなる」
「君だって可愛くなるよ」
「透吾には負ける」
俗にいう、イチャイチャというやつなんだろうか。
手を握ってキスをして、時々抱き合ってまた離れて指先で肌に触れる。時間はあっという間に過ぎた。
教室へ戻ると、山田くんがじーっと僕を見てきた。後から入ってきた真喜雄がそれに気づいたのか、ちらりと山田くんを見てから、いきなり僕の机と自分の机をくっつけた。
「水出、教科書忘れた。見せて」
「うん」
「・・・あれ山田?」
ボソッと聞かれた。やっぱり知らなかったか。そう、と口の中で返事をすると、分かったと言われた。何が分かったのかは分からないけど。


**************


「水出、頼みがある」
図書室で真喜雄と勉強をしていたら、突然ドアが勢いよく開いた。
びっくりして振り返ると山田くんがユニフォームを着て歩いてくるところだった。
真喜雄もぼんやりと振り返る。山田くんは驚いた顔をすると、足を止めた。
「・・・なんで成瀬がいるんだ?」
「・・・部活ないから?」
「あぁ、そうか。悪かったな」
「いや・・・」
随分と棘のある謝罪だ。そういえば明日、野球部は練習試合があってグランドを広く使いたいから貸してくれとサッカー部に交渉しにきたと言っていた。サッカー部も大会前になるとたまに無理を言って借りることがあることがあるので、持ちつ持たれつだ、と今さっき聞いたばかりだ。
「頼みって・・・宮田くんのこと?」
「うん」
「・・・無理なことはできないけど」
「明日、うちの学校で練習試合があるんだ。来てくれないか」
真剣な瞳だった。緊張しているようで、少しだけ唇を噛んでいた。
構わないけど、宮田くんは長時間立っていられるのだろうか。
不安がよぎったのが分かったのか、椅子はあるからと言われた。ぼんやりしていた真喜雄が言う。
「おれも行く」
「え!?成瀬、野球に興味あったのか!?」
山田くんが驚いたことに驚いてしまう。真喜雄もそうだったようで、目をパチクリさせていた。
「スポーツは、基本的に好きだから・・・」
「そうなのかー、知らなかった。てっきりサッカーしか興味がないのかと思ってたんだ。いつも体育の授業でつまんなそうにしてて、ちょっとムカついてたんだ。チンタラ走ってるし。なんだ、そっか、好きなのか」
「・・・バットにボール当たらないし、慣れてないからいろんなこと余計に考えて走ってるからだと思う」
「そういう時は聞けよ。少しはマシにしてやるからさ」
さっきまで強張っていた顔がぱっと明るくなってほぐれた。
ムカついてた、と言われた割に真喜雄も少し表情が和らいで、じゃぁ次の体育よろしく、と珍しいことを言った。
試合の日程を聞いて、各々図書室を後にする。駅で真喜雄と合流する。すると、おれ山田に嫌われてるなぁと思っていた、と言われた。
「・・・なんで?」
「体育の時睨まれるし、たまに舌打ちされてたから。あんまり気にしてなかったんだけど、他のサッカー部の奴がよく悪口言っててさ。サッカー部に難癖つけてくるとか、いろいろ」
「・・・話してみないと分からないことがあるんだね」
「な。話せてよかった。次の体育楽しみだ。おれバットいくら振っても当たらないんだよな」
「確かにそうかもね。いつも空振りして不思議そうな顔してる」
「透吾はよく当たってるよな」
「多分手加減されてるからかな」
声を殺して笑う。
少しゆっくり走る電車から見る景色は、やっぱりゆっくり進んでいく。
今日乗ったのは各駅停車。次の急行を待ってもよかったけど、真喜雄と電車に乗るのは貴重なので長く楽しみたかった。同じことを思ってくれていたらいいなと思う。
「・・・あのさ、宮田、おれいても平気かな・・・」
「聞いてみたら、楽しみにしてるって返ってきたよ。彼、基本的に人が好きだから、きっと本当に楽しみにしてると思う」
なら良かった、と安心したように笑った。





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