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笑顔1
しおりを挟む真喜雄が熱を出したらしい。朝連絡があった。
夕方お見舞いに行こうと思いメッセージを返したけど、返事はなかった。
大丈夫かな。熱、高いのかな。
お昼休みはぼんやりしながら過ごした。
本を引っ張り出して読んでいると、急に影ができた。
顔を上げると、坊主頭の男子。ぼんやり見上げてしまう。誰だっけ?クラスの人だっけ?
「ちょっと、いいか」
「・・・は、い・・・」
必死に名前を思い出す。
立ち上がり広い背中を追いかけて廊下に出る。
テクテク歩いてやってきたのは中庭だった。振り返ると、じーっと見つめてきた。
太い眉にくりくりした大きな瞳。意外なことに顔が小さくて、頰には少しニキビがある。すっと高い鼻筋と薄い唇はバランスが良かった。
うーん、僕のクラスは整った顔の人が多いみたいだ。
「あ・・・喋んの、初めてだよな」
「・・・うん。他の野球部の人と話したことはあるんだけど・・・」
「・・・おれ回りくどいこと苦手だからはっきり言うんだけど、宮田と同じ中学だったよな」
頭に浮かんだのはいつもニコニコしている生徒の顔。
耳が大きくて丸顔で、身長は僕よりも少しだけ低い幼い印象の彼は、モン吉とあだ名をつけられていた。
からかいではなく愛称で、本人も普通に返事をしていたし、男女ともに友達も多かった。
中学3年のころ確か同い年で、この高校へ来たのは僕と彼だけだ。多分。
彼は野球部じゃなかったはずだ。確か、文化部だったような。
「うん。同じクラスだったよ」
「・・・杖、ついてるよな」
「昔怪我をしたらしいよ」
詳しくは知らなかった。いつもニコニコしている彼は苦にしていないようだった。体育も基本的に見学していたが、ボールを拾ったりタイムを計ったり、先生のサポートを頑張っていた。
今もそうだと思うのだけど、何か変に感じることがあったのだろうか。
目の前の野球部の彼は、少し目を伏せた。
「・・・ありがとう」
「宮田くんに直接聞いたらいいのに」
「・・・多分おれのこと覚えてないから・・」
「・・・え、幼馴染なの?」
「・・・幼稚園と、小学校の少しの期間だけ・・・」
「・・・話したいなら、声かけておこうか?」
「え!?あ、いや、それは、いい!大丈夫だ!」
うわびっくりした。
いきなり音量が上がって肩が跳ねてしまった。
目が泳ぎ、唇を引き結んで拳を作る。
深呼吸すると、またお礼を言われた。
校舎に戻って、1人でこっそり宮田くんを探す。
教室を覗き込むと、ニコニコしながらクラスメイトと喋る姿を見つけた。相手はサッカー部のマネージャーで、真喜雄の幼馴染の皇くんだった。
「あれ!水出くんだ!どうしたの?」
ぱっとこちらに向いた笑顔に手を振る。
相変わらず幼い笑顔だった。笑うと顔がくしゃくしゃになるのだ。
細目だから、笑うと閉じているように見える。
杖をつきながら器用に机をすり抜けて僕の前に立つ。
なぜか皇くんまでやってきた。
「ミヤちゃん、水出っちと友達なの?」
「水出っち?あはははは!なにその呼び方!おかしいや!」
「あははははは!ミヤちゃんの笑い方の方がおかしいよ!つられて笑っちゃうよ!」
2人で突然ゲラゲラ笑い始めた。
落ち着くのを待ってから声をかけようとした時、皇くんがぱっと僕を見た。
「さっき山田くんといなかった?」
「・・・あ、うん。いた」
山田くん。そうだ、山田くんだ。
宮田くんだけ窓際に呼んで、尋ねてみる。
「山田くんと知り合いなの?」
「山田くん?いっぱいいるから分からないなー、どの山田くん?」
「野球部の・・・僕のクラスメイト」
「あぁ!背の高い人だ!水出くん仲良いの?」
「ううん。今日初めて喋った」
宮田くんの目が大きくなって、すぐに細くなった。相変わらずだなぁとのんびり言う。
彼とも同じクラスになって、席が近くなるまで話したことがなかった。
前後の席になって話しかけられて、受験勉強を一緒にするようになった。
時々一緒に本屋に行って好きな本のことについて話したり、 席が離れても時々談笑したり、付かず離れずの距離だった。
「水出くんのクラスは顔面偏差値が高いってうちのクラスの女子がはしゃいでるよ」
「へぇ。ちゃんと見たことないから分からないや」
「山田くんがどうかしたの?」
「・・・君が杖をついていることが気になったみたい。幼稚園と小学校の少しの期間、一緒だったの?」
「・・・あー!あの山田くんかぁ!えぇ、おっきくなったね!分からなかった!声かけてくれたら良かったのにね」
「声かけづらかったのかな」
「うーん、昔は杖、ついてなかったからね。気を遣われてるのかな」
チャイムが鳴った。
宮田くんは笑顔で軽く手を振り、教室へ入っていった。
僕も自分の教室へ戻る。携帯を確認すると、来る時に連絡が欲しいとメッセージが来ていた。よかった、起きられるんだ。
カバンへしまい顔を上げると、斜め前の席から山田くんが振り返ってこちらを見ていた。すぐに前を向き、少し顔を伏せる。一体何なんだろう。
***************
「・・・山田?・・・山田・・・」
もぐもぐとおにぎりを食べながら、真喜雄は眠たげに目を閉じる。
熱が少し下がり、お腹が空いてしまったらしい。
何か欲しいものある?とメッセージを送ると、おにぎりやらパンやらお菓子やら、本当に風邪引いてる?と思うような返事が来た。
とりあえず一通り持っていくと、いつもより瞳を潤ませた真喜雄が出迎えてくれたのだ。ちなみに僕が来る前までに冷蔵庫にあったおかゆとコロッケを食べたらしい。
「僕の中学の頃の同級生が気になったみたい」
「・・・え、透吾と同じ学校のやつ、いるんだ」
「1人だけね。宮田くんっていうんだけど」
「・・・あ、杖のやつか」
知っていることに驚いた。
おにぎりを食べ終えると、パンに手を伸ばした。
ぱくりとかぶり付いてじーっとこちらを見る。
「中学同じだって知らなかった」
「なんか、特に話題に上がらなかったから言ったことなかったかも」
「・・・宮田、いつも笑ってるよな」
「うん」
「・・・山田、なにが聞きたかったのかな。杖ついてるなんて、見りゃわかるのに」
「杖をつく理由が知りたかったんだと思うよ」
「事故だっけ」
「知ってるの?」
「アデルが言ってた。体育の授業でいつも先生のサポートをしてる奴がいて、すげー気が利くしフォローもうまいからマネージャーに誘ってた時期がある」
「へえ。仲良さそうだったよ、2人」
「2人ともいつもニコニコしてるから気があうんじゃないか」
ビニールをゴミ箱へ捨てると、ベッドから立ち上がり伸びをした。
窓を開けて空気を入れ替える。
ぐびぐび音を立ててスポーツドリンクを飲むと、僕の隣に腰掛けた。
「身体平気?」
「うん。多分疲れて熱出たんだと思う。去年もそうだった・・・というか、大きい大会の後大体熱出す」
「そうなの?風邪じゃないんだ?というか、僕結構連れまわしちゃったよね。ごめん」
「ううん。いつもこうなんだ。しばらくしてから熱出す。スローテンポ」
ぎゅーっと抱き寄せられて頰をすり寄せられた。汗の匂いがするけど、それに混じって石鹸の香りもした。
すん、と首筋の匂いを嗅ぐ。ぱっと体が離れた。
「・・・くさい?」
「石鹸の匂いがしたから。・・・シャワー浴びたんだね」
「・・・だって、透吾、くるから・・・いい匂いのほうがいいじゃん・・・」
「・・・あー、すっごくいじめたい。真喜雄、熱下がったらたっぷり触らせてね。約束だからね」
「な、なんで、急に、・・・いい、けど、おれが触りたい・・・」
「ダメ。僕だよ。僕が先」
「えー・・・透吾に触られると力入らなくなるんだよな・・・」
「あ。煽ってるね?」
「煽ってないよ。本当のこと言ってるだけ」
「あーあ、タチ悪いなぁ。今すぐしたいよ」
手を取って下半身に当てると、熱とは違う赤みが顔を覆った。耳がピクリと動く。さわさわと優しく撫でてくれた。
早く触りたいな。今手を出したらまた熱が出てしまうかもしれないから、我慢我慢。
手の甲にキスをし、数回噛み付くと、むーっと唇を突き出した。
「噛ませてくれないのに」
「真喜雄、本気で噛むんだもん」
「・・・本気じゃないし」
「えー、あれ本気じゃないの?すっごく痛いんだよ」
「・・・ごめん」
「加減覚えてね」
唇を撫でると、ぱくりと咥えられた。ちゅーっと吸われる。
「明日は学校行く」
「うん。・・・舌熱いね」
舌を撫でると、驚いた顔になった。ぐっと顎を掴んで口を開かせる。
「あ、くっ・・・」
「かわいい。もっとあーんしてごらん」
「ん、・・・あっ、とぉご、くぅしい・・・」
指を抜いて手を離すと、恥ずかしそうに顔をこすって目をそらした。
ジロッと睨まれ、手を引っ張られた。倒れこむとぐっと後頭部を押さえられ唇が重なった。
ぐちゃぐちゃと乱暴に口の中を犯される。
「はっ、んっ!ぅんっ、ん、」
「ん。とぉご・・・しゅき、ん、好きだぁ・・・」
「ぷぁっ、は・・・僕も・・・ねぇ明日しよう?我慢できそうにもない」
「うん・・・そのあと、おれだからな」
ふふ、と笑って額を合わせる。
もう一度キスをして、僕は真喜雄の部屋を後にした。
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