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「桜祭り?」
「・・・うん」
ちらちらとこちらを伺いながら、真喜雄は僕に携帯の画面を差し出した。そこにあったのはポスターの写真だった。東側の桜通りで開催されるらしい。
西側にも桜通りがあるけれど、そちらは規模が小さくてあまり花見のお客さんも来ないのだ。
日付を見ると、ちょうど模試とかぶっていた。考えていると、察したのかさっと携帯を手から取ってポケットにしまった。
「ん、サッカー部のやつと行くから、大丈夫」
「僕まだ何も言ってないよ」
「・・・だって、塾だろ。無理すんな」
「・・確かに模試だけど、夕方には終わるよ。そのあとは?」
「・・・いや、いいよ」
また自己完結。ムッとし、じゃあ別の人と行くからいい、と、ついつっけんどんに言うと、少し困った顔をされた。
ごめん、と小さく謝られたけど、無視した。
************
塾が終わったのと同時に電話がかかってきた。真喜雄からだった。出てみると、少し戸惑いながら下にいると言われた。
階段を下りて扉を開けると、フードをかぶった姿があった。
「ランニング?」
「・・・うん」
「・・・どうしたの?」
「・・・公園、いい?」
頷いていつもの公園へ入ると、あたりをきょろきょろ見渡して、がっかりしたように息を吐いた。
暖かくなってきたので、夜に散歩をする人が多いのだ。暑すぎた夏と寒すぎた冬から比べたら、人が多い。くっつきたかったのかなと思ったら、可愛かった。そっと手の甲に指先を乗せる。
「これで我慢だね、お互い」
「・・・ん」
「何かあったの」
「・・・いや、その・・・さっき、また、自己完結して・・ごめん・・・」
お昼の話だろうか。意地悪してやろうと手をどけると、はじかれたように顔が上がった。
ぷいっとそっぽを向く。
「透吾、ごめん」
「・・・」
「ごめんな。あの、・・んっと・・・もう絶対しないから。約束する」
「・・・自分で誘っておいて、僕は何も答える間もなく断られたんだよ。すごく悲しいよ」
「・・・うん・・。あの、・・い、行きたくて、誘ったんだけど・・断られるのが嫌で、・・忙しいって分かってるし、本当は遊園地で最後にしようと思ってたけど、その、我慢できない自分も恥ずかしくて・・・」
「ほら、それだって自己完結」
「う・・・」
遊園地で最後なんて初耳だった。つい感情をこめて強く言葉を投げかけてしまう。フードをかぶったまま項垂れて、指をこねこねと絡めて、ごめん、とか細く言った。
何で勝手にそうやって考えるのかな。僕の気持ちも考えも置いてけぼりだ。受験生だし、真喜雄は最後の年だから、会えなくなる日は確かに必然的に増えていくけれど、何も最後だのなんだの考えることないじゃないか。
「・・・そうやって考えないと、我慢できなくなる・・・」
「・・・うん」
「受験終わるまで我慢って、思ってるのに・・・できない・・。ごめん・・・こんなこと言って、ごめん・・」
「我慢なんかしなくていいんじゃないかな」
「・・・でも、もっともっとって、」
「楽しいことを共有したり、寂しい気持ちを埋めたかったり、ただただ会いたかったり、そういう感情に我慢って蓋をかぶせたら、何もできなくなっちゃうよ」
ゆっくりと顔が上がった。首をかしげて不思議そうにしている。少しだけ近寄ると、ぎゅっと手を握られた。
「我慢はしない方がいいと思う。何でも言ってほしいなって僕は思うんだ。無理なら無理って言うし、都合がつきそうなら時間の指定をするし、何もなかったらすぐに迎えに行くよ」
「・・・うん」
「不安なんだよね。寂しいんだよね」
「・・・うん。だって、ずっと一緒にいたから、・・練習も1人じゃ寂しい時、ある・・・」
「塾が終わったら連絡するよ。時々自習室を使うこともあって、10時くらいまでかかる時もあるけど、そういう日はちゃんと前もって連絡するよ」
「・・・透吾、つらくない?」
「うーん、辛かったら言うよ。まだ大丈夫」
「・・・そか」
「君は?」
「おれは、去年と何も変わらない。ここにきて練習するか、家で筋トレ。それか学校で練習してるから」
「うん。じゃあ、会える時は会おう。我慢しないで、自己完結しないで、ちゃんと言おう。あとね、僕だってすごく会いたくなることがあるんだよ。励ましてほしい時だってある。知らなかったでしょ」
こくんと小さくうなずいた。いつの間にか人の気配がなくなっていて、ちらっとあたりを見渡してから少し厚い唇にキスをする。
真喜雄は一気に顔を赤らめると、フードで顔を隠した。覗き込むと、そっぽを向く。
「おれがしたかった」
「ふふ。じゃあ、して?」
「・・・今のはずるい。可愛い。・・だから、我慢できないんだ」
笑おうとしたとき、乱暴に唇が重なった。くっと首元を押さえられて逃げられない。こんなキスもたまにはいいななんて、ふやけた頭の片隅で思ってしまった。
「・・・うん」
ちらちらとこちらを伺いながら、真喜雄は僕に携帯の画面を差し出した。そこにあったのはポスターの写真だった。東側の桜通りで開催されるらしい。
西側にも桜通りがあるけれど、そちらは規模が小さくてあまり花見のお客さんも来ないのだ。
日付を見ると、ちょうど模試とかぶっていた。考えていると、察したのかさっと携帯を手から取ってポケットにしまった。
「ん、サッカー部のやつと行くから、大丈夫」
「僕まだ何も言ってないよ」
「・・・だって、塾だろ。無理すんな」
「・・確かに模試だけど、夕方には終わるよ。そのあとは?」
「・・・いや、いいよ」
また自己完結。ムッとし、じゃあ別の人と行くからいい、と、ついつっけんどんに言うと、少し困った顔をされた。
ごめん、と小さく謝られたけど、無視した。
************
塾が終わったのと同時に電話がかかってきた。真喜雄からだった。出てみると、少し戸惑いながら下にいると言われた。
階段を下りて扉を開けると、フードをかぶった姿があった。
「ランニング?」
「・・・うん」
「・・・どうしたの?」
「・・・公園、いい?」
頷いていつもの公園へ入ると、あたりをきょろきょろ見渡して、がっかりしたように息を吐いた。
暖かくなってきたので、夜に散歩をする人が多いのだ。暑すぎた夏と寒すぎた冬から比べたら、人が多い。くっつきたかったのかなと思ったら、可愛かった。そっと手の甲に指先を乗せる。
「これで我慢だね、お互い」
「・・・ん」
「何かあったの」
「・・・いや、その・・・さっき、また、自己完結して・・ごめん・・・」
お昼の話だろうか。意地悪してやろうと手をどけると、はじかれたように顔が上がった。
ぷいっとそっぽを向く。
「透吾、ごめん」
「・・・」
「ごめんな。あの、・・んっと・・・もう絶対しないから。約束する」
「・・・自分で誘っておいて、僕は何も答える間もなく断られたんだよ。すごく悲しいよ」
「・・・うん・・。あの、・・い、行きたくて、誘ったんだけど・・断られるのが嫌で、・・忙しいって分かってるし、本当は遊園地で最後にしようと思ってたけど、その、我慢できない自分も恥ずかしくて・・・」
「ほら、それだって自己完結」
「う・・・」
遊園地で最後なんて初耳だった。つい感情をこめて強く言葉を投げかけてしまう。フードをかぶったまま項垂れて、指をこねこねと絡めて、ごめん、とか細く言った。
何で勝手にそうやって考えるのかな。僕の気持ちも考えも置いてけぼりだ。受験生だし、真喜雄は最後の年だから、会えなくなる日は確かに必然的に増えていくけれど、何も最後だのなんだの考えることないじゃないか。
「・・・そうやって考えないと、我慢できなくなる・・・」
「・・・うん」
「受験終わるまで我慢って、思ってるのに・・・できない・・。ごめん・・・こんなこと言って、ごめん・・」
「我慢なんかしなくていいんじゃないかな」
「・・・でも、もっともっとって、」
「楽しいことを共有したり、寂しい気持ちを埋めたかったり、ただただ会いたかったり、そういう感情に我慢って蓋をかぶせたら、何もできなくなっちゃうよ」
ゆっくりと顔が上がった。首をかしげて不思議そうにしている。少しだけ近寄ると、ぎゅっと手を握られた。
「我慢はしない方がいいと思う。何でも言ってほしいなって僕は思うんだ。無理なら無理って言うし、都合がつきそうなら時間の指定をするし、何もなかったらすぐに迎えに行くよ」
「・・・うん」
「不安なんだよね。寂しいんだよね」
「・・・うん。だって、ずっと一緒にいたから、・・練習も1人じゃ寂しい時、ある・・・」
「塾が終わったら連絡するよ。時々自習室を使うこともあって、10時くらいまでかかる時もあるけど、そういう日はちゃんと前もって連絡するよ」
「・・・透吾、つらくない?」
「うーん、辛かったら言うよ。まだ大丈夫」
「・・・そか」
「君は?」
「おれは、去年と何も変わらない。ここにきて練習するか、家で筋トレ。それか学校で練習してるから」
「うん。じゃあ、会える時は会おう。我慢しないで、自己完結しないで、ちゃんと言おう。あとね、僕だってすごく会いたくなることがあるんだよ。励ましてほしい時だってある。知らなかったでしょ」
こくんと小さくうなずいた。いつの間にか人の気配がなくなっていて、ちらっとあたりを見渡してから少し厚い唇にキスをする。
真喜雄は一気に顔を赤らめると、フードで顔を隠した。覗き込むと、そっぽを向く。
「おれがしたかった」
「ふふ。じゃあ、して?」
「・・・今のはずるい。可愛い。・・だから、我慢できないんだ」
笑おうとしたとき、乱暴に唇が重なった。くっと首元を押さえられて逃げられない。こんなキスもたまにはいいななんて、ふやけた頭の片隅で思ってしまった。
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