Evergreen

和栗

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Happiness

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成瀬先生が花束持って歩いていた。

と生徒達が噂していたので、昼に公園に誘って聞いてみた。
「あぁ。持ってたが。何で?」
サラッと肯定されてびっくりした。
「ふ、普通花束って買います・・・?あ、仲直り、的な・・・?」
「んー・・・まぁ、それもあるけど」
「はい、けど・・・」
「単純に、渡したかったから?」
す、すっげぇえー・・・!
花束渡したいと思ったこと、一度もねぇー・・・!
買うのすら恥ずかしい。というか、買ったこともない。
やっぱかっこいい人は考えることもやることもかっこいいな。
頭の中に小さなブーケが浮かんだ。和多流くんにもらったピンクの薔薇とカーネーションのミニブーケ。
おれも、渡してみようかな。
「あの、どこで買ったんですか?」
「駅から少し外れたところにある、小さな花屋だ」
「へぇー・・・」
調べて、遠くないことを確認した。
めっちゃくちゃ恥ずかしいけど、おれも渡してみたいな。
どんな顔するんだろう。
寄るところがあるから1人で帰るとメッセージを送る。
すぐに、了解と返事が来た。
よし、今日買って帰ろう。


********************


お店にあるだけの薔薇で花束を作ってもらった。
棘が怖いから綺麗に取ってもらった。
大き過ぎず小さ過ぎず、いい大きさの花束になったので、おれは満足感でいっぱいだった。
どんな顔をするだろう。喜ぶかな。びっくりするかな。
少し浮き足立ったまま帰宅する。キッチンに向かうと、フライパンに火をつけたところだったようだ。
すぐに火を止めて振り返る。
「おかえり。わ、どうしたのそれ。貰ったの?」
「ただいま。んーん。これは、えーっとね・・・はい。あげる」
「・・・えっ?おれに?」
買ってきた花束を渡すと、和多流くんは驚いた顔をした。ちょっと満足。
「えっと、きれいだね・・・」
「えへへ。和多流くんて黄色のイメージなんだ。あったかくて明るい色。ぴったり。だから黄色の花束にしたんだー」
「そっか、おれ、黄色かぁ・・・」
あれ?
なんか、あんまり嬉しくなさそうな・・・。
やっぱ迷惑だったかな。
男が花なんかもらっても、持て余すかな。
自分が嬉しかったから、和多流くんも喜んでくれるって勝手に思ってたけど、ちょっと大き過ぎたかな。
「ありがとう」
「・・・ん。あの、迷惑じゃない?」
「どうして?嬉しいよ。ありがとう。・・・ごめん、黄色の薔薇って、父の日っぽいからなんか、こう・・・」
言いづらそうに、鼻の頭をかいた。
そういえば、友達に2人目の子供が産まれたとか言って、お祝い贈ってたな・・・。
話を聞いてると結婚して子供がいる友達も数人いるようだし、和多流くんの年齢的にも子供がいてもおかしくない。
そしておれは全く気にしていないけど、和多流くんはおれとの年齢差を結構気にしている。
懐かしいと思う音楽や映画、ドラマも世代が違うから、たまに落ち込んでいることもあった。
しかもおれは童顔で、飲み屋に行けば未だに年齢確認もされてしまうし、バーに行けば援交かとからかわれることもあるから、言いようのないショックが生まれたのかもしれない。
いや、正直そこまで考慮できないって。だっておれ全く気にならないし。
「和多流くん、おれのお父さんなの?」
「絶対嫌だ」
「じゃぁ、いいんじゃないの?ダメかな。おれ、恋人に花をプレゼントするって初めてで・・・。喜んでほしかったんだけど・・・」
「嬉しいよ。ありがとう。・・・ごめんね、変なこと言って。ね、黄色っておれに似合う?」
「うん。いつも元気で、明るいもん」
「・・・これ、永久保存する方法ってないのかな。勿体無いからこのまま保存できたらいいんだけど」
「ドライフラワーしか分かんないなぁ・・・」
「あ、シロくんに聞いてみようかな。今なら返事くるだろうし」
「今なら?」
「うん。今一緒に仕事してんの。後で聞いてみよっと。あ、ごめん。食事終わったらおれ仕事の続きするね」
「うん。あ、おれ作るからその間も少ししてきたら。簡単でいいかな」
「何作るの?」
「あんかけ焼きそば」
「へー。あんかけって家でも作れるんだね」
また言ってるし。
笑って、背中を押して部屋に押し込む。和多流くんも笑いながら、花束を抱えて部屋に入った。
よし、作ろっと。



********************



朝起きたら、和多流くんはいなかった。
先に寝ていてと言われて素直に先に寝たけど、後から来るもんだと思っていたので驚いた。
まさか完徹だったのかな。
部屋で寝てるのかな?
静かに身支度を整えて、朝ごはんを作る。
ちゃちゃっと食べて和多流くんの仕事部屋のドアをノックするけど、返事がなかった。寝てるんだ。
起こさないように鞄を担いで靴を履いていると、ドアの開く音がした。
振り返ると、なんだか少し元気のない姿があった。
「あ、おはよう」
「はよ・・・。早くない?」
「うん、今日予備校の方も入るんだ。帰りは早いよ」
「そ・・・」
「・・・どうしたの?」
「・・・ん、とさ?・・・おれのこと好き?」
「・・・え!?」
え!?どうしたのそんな弱気な聞き方!?
靴を脱いで近づいて、頬を両手で包む。
少し驚いたような顔をして、目を逸らした。
「どうしたの?何か嫌なことあった?シロさんとなんかあったの?それともお客さん?」
「・・・いや、違うんだけどさ」
「じゃぁどうしたの?好きに決まってるじゃん。大好きだよ。なんか心配だった?ごめんね、今日早出で・・・帰ってきたらもっとちゃんと、聞くから。ちゃんと話してね。ね?」
「・・・花束」
「え?」
「・・・あの本数って、その、・・・」
「本数?」
「や、いや!やっぱいい!疑ってごめん!おれも好き!ごめん引き止めて!」
「・・・疑ってたの?」
「・・・え!?あ、いや、違う!今のは間違い!」
「・・・何それ。疑うようなことした?花束、嫌だったの?」
「嬉しかったよ。嬉しかったんだけど、」
「何かの罪滅ぼしで渡したと思ったの?」
「違う。違います。えっと、・・・あー、ごめん、もうやだおれ女々しい・・・」
「・・・分かんないけど、帰ってきたら話そう。ちょっと腹立つけど」
ちくっと攻撃すると、和多流くんはショックを受けた顔をした。
後ろ手でドアを閉めて、職場へ向かう。
もー、なんだよ・・・。疑ってたんだ・・・。
・・・・・・なんでだ?
だって毎日ほぼ定時で上がってるし、お迎え来てもらってるし、休みの日もデートしてるし、夜だって仕事が詰まってなければ結構ガッツリ、和多流くんの好みで致してるし・・・恥ずかしいけど。
とにかく和多流くんと一緒にいて、なんか依存しちゃってないかなって心配になるレベルだと思うんだけど・・・。
やっぱり仕事で嫌なことあったのかな。
シロさんに何か言われたのかな。仲がいいから言いたいことも言えちゃうだろうし、言われちゃうだろうし。
うーん・・・。
考えても結論なんて出ないので、とりあえず仕事に集中することにした。


********************


「春日部、ちょっと」
仕事が終わったので帰り支度をしていると、前の席の成瀬さんが立ち上がって手招きをした。
ドキドキしながらついていくと、なぜか非常階段まで連れて行かれた。いつも注意される時は資材置き場だったので、ホッとする。
「ん。飲め」
渡されたのは缶コーヒーだった。お礼をして受け取る。
「単刀直入に言うんだが、シロが余計なことを言ったみたいだ」
「へ?」
「昨日、花を買っていったんだろ?」
カーッと顔が熱くなった。
和多流くん、シロさんに話したんだ。でも、なんで、成瀬さんが聞いてくるんだろ。余計なことってなんだろ。
「藤堂さんから写真が送られてきたみたいで、シロが、本数に意味があるんだって教えたらしい。で、そのあと連絡が途絶えたみたいだ」
「・・・本数に意味?」
「で、写真をあらためて見てシロが数えたらしいんだが、13本で合ってるか?」
「あ、はい。ちょうどそれしかなくて。でも豪華になったからいっかーって」
「あー・・・」
言いづらそうな顔をした。
こんな顔見たことなくて、少し困ってしまう。
なんだろうと言葉を待っていると、ゆっくり口が動いた。
「13本の意味はな、」
「・・・え」
次の言葉で、おれはサーっと血の気が引いた。
そして、色の意味を聞いてさらに絶句した。
多分、背中に汗をかいてる。
いても立ってもいられず、挨拶もそこそこに非常口から飛び出した。
走って走って昨日の花屋に飛び込む。
ネットで調べてバラを買った。ラッピングしている最中もソワソワしてしまう。
和多流くんからメッセージが来たので公園にいてと返し、慌てて店を出た。
公園に着くと、駐車場に車があって、寄りかかってぼんやりと立つ和多流くんがいた。
「和多流くん!」
「あっ。りょ、」
「車乗って!乗って!」
後部座席を開けて体を押し込む。シートに押し倒すと、驚いた顔で見上げてきた。
ポタポタと汗が垂れて、和多流くんの頬を濡らす。
「和多流くん、」
「・・・ど、どうしたの?」
「大好きだよっ。心配させてごめん!勘違いさせて、ごめんね!朝も、ごめん!」
「あ、え?」
「これ!これ!」
昨日より小さなピンクの薔薇の花束を押し付ける。和多流くんは体を起こすと、じーっと見つめた。
本数を数えているようだった。やっぱり、昨日シロさんに言われて調べたんだ。
「昨日の薔薇と合わせて」
「・・・あ、24本」
「うん。24時間、あなたを想ってますって意味だよ」
息を整えてジャケットを脱ぐ。暑い。汗が引かない。
和多流くんを見ると、泣きそうな顔で笑っていた。
「あははっ、・・・やべっ、嬉しー・・・」
「ごめんね。おれ、花の色とか本数に意味があるなんて知らなくて・・・まさか黄色の薔薇と、13本っていうのが友情って意味なんて思わなくて・・・なんか、よく見たら棘がないやつも、友情って意味なんだね・・・怪我、してほしくなくてしっかり取ってもらったのに裏目に出ちゃった」
「・・・ごめんね。ちょっと、仕事も立て込んでていっぱいいっぱいだったから、気持ちが弱くなってて、花も嬉しかったんだけど、なんか、・・・意味、調べたら止まらなくなっちゃってどんどん落ち込んじゃって・・・情けないね。おれ年上なのに」
「年齢なんか関係ないよ。話してくれて嬉しい。仕事、いつもお疲れ様。あのね、家事とか残っててもそのままでいいんだから。おれ、いるんだから。頼ってよ」
「うん。・・・ありがと。花ってもらうと嬉しいんだね」
「・・・11本の意味も、伝わった?」
「・・11本、」
「最愛、宝物って、意味なんだって」
「・・・も、涼くん・・・かっこよすぎ・・・」
照れたように笑って、和多流くんはおれを引き寄せた。
耳や頬に口付けが落ちていく。
気持ちよかった。
しばらく抱き合って、頬を撫でたりキスをしたり、くすぐったいことを繰り返した。
「涼くんに腹が立つって言われてさ、すごいびっくりしたんだけど、なんか、よくよく考えたらすごいなって思ったんだ」
「何が?」
「・・・あんなにさ、喧嘩とか言い争いとか避けて必死にいい子でいたのに、おれには怒ってくれるんだって・・・怒るくらい好きでいてくれるんだって・・・嬉しい半分、ショック半分になっちゃってさ」
「・・・ほんとだ。おれ、怒ってたんだあの時。でも結構すぐに冷静になって、ちゃんと話、しなくちゃって思ったんだ」
「ありがとう。嬉しいよ」
「・・・あのね、不安になったらおれのこと起こしていいんだよ。和多流くんだって起こしてって言ってくれるじゃん。おれだって、眠れないくらい悩ませるの、嫌だよ」
「うん。これからはすぐ起こす」
「・・・その、不安なら、・・・おれ、めっちゃ頑張るし・・・うん、」
「・・・じゃぁさ、今日、頑張ってくれる?」
下半身に硬いものが当たった。
わ、すごいな・・・。もう勃ってる・・・。
黙って頷くと、首筋に舌が伝った。
くすぐったくて目を閉じると、ボタンを外された。慌てておさえる。
「ちょ、ここ、公園だから!」
「あ、バレた」
「帰ってから!・・・あのさ、もう一個、気づかない?」
「え?何?」
不思議そうにおれを見てから、ピンクの薔薇を見つめる。
わからないようで、首を傾げた。
「じゃぁ、内緒」
「えっ。何?ひどいな・・・教えてよ」
「ダメ。内緒!帰ろ。ご飯食べて、一緒にベッド入ろ。今朝隣にいなくてちょっとびっくりしたんだ」
髭を撫でて起き上がり、運転席へ移動する。
和多流くんは素直に助手席に座ると、すぐさまタブレットを開いた。
運転していると、あ!!と大きな声を出して顔を赤く染めて、夜覚悟してよ、と小さく言った。
なんだか異常に可愛くて、くすくす笑ってしまった。



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