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しおりを挟む生きていれば仕事で嫌なことがあるのは当たり前。
そんなことは分かっている。分かっているけど、どうしても腹の虫がおさまらないこともある。
少しイライラしながら車を走らせて公園の駐車場に入ると、すでに街頭の下に涼くんがちょこんと立っていた。
前に、暗いところじゃなくて明るいところで待っていてとお願いしたら、ちゃんと待っていてくれるようになった。素直で可愛いなと癒されつつ、また黒い感情が沸き上がって苛立った。
そりゃーね、可愛い彼氏の顔を見たらどうでもよくなることばかりだけど、そうもいかないこともある。今回は後者だ。
「ただいまぁー」
ニコニコしながらドアを開けた涼くんは、すぐに笑顔を引っ込めて静かに助手席に座った。本当に勘がいいというか、察知能力が高いよなー。
それがまたちょっと、癇に障ってしまう。
おれの機嫌が悪いと涼くんはしゃべらなくなる。様子をうかがってじっと見つめてくる。気を使わせてしまったという罪悪感が生まれて、素直にイライラすることができなくなる。そうなると、悪循環。
「・・・・あの、晩御飯、お豆腐食べたいんだけど・・・」
「ん・・・?うん、何でもいい」
「・・・お肉、食べたい?」
「いや・・・別に・・・」
あれ?なんか、話しかけてきてくれる・・・。
でも、つっけんどんに返してしまう。
涼くんは携帯を出すと、タップしてまたすぐにしまった。おれのポケットに入れていた携帯が震える。
「今ね、あの・・・かわいい猫の画像、送ったから。後で見てね」
「え?・・・あぁ、うん」
「休憩中に見つけたんだ。癒されるんだ」
ぎこちなく笑う。
うん、と頷いて運転をして家に帰る。
涼くんはエプロンをつけて手早く料理した。肉豆腐だった。
マメだよなー。おれだったらレトルトにしちゃうよ。
腹は立っても腹は減るようで、パクパクと食べ進めて息をつく。
様子をうかがうように盗み見ていた涼くんと目が合う。すぐにそらされた。
この子の、こういうところ、いまだに慣れないんだよな・・・。
嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、もっと、普通に放っておいてほしい。
無言で立ち上がってお風呂に向かう。
追いかけてくる気配がした。振り返ると、何か言いたげに立っていた。
1人で入る、と言ってドアを閉める。
長めにつかってからダイニングに戻ると、紅茶の香りがした。
無言でカップを差し出された。受け取って寝室に入る。食器を洗う音がした。いつもなら一緒に洗って片づけをしているけど、そんな気になれなかった。
ぼんやりと寝転がっていると、部屋着姿の涼くんが現れた。
ベッドの脇にちょこんと腰を下ろすと、ちょんっと袖を引っ張られた。
「和多流くん」
「何?」
少しきつめに返事をする。一人になりたいなら自分の部屋に戻ればよかったのに、おれってあほだな。心の奥底じゃ構ってもらいたかったのかも。ガキくさっ。
「・・・朝、キスしなかったから怒ってるの・・・・?」
「・・・は?」
「・・・・え?違う?」
予想だにしない一言に面食らっていると、涼くんは一気に顔も首も真っ赤にして俯いた。そして勢い良く立ち上がると寝室から出ていった。
・・・・確かに、朝、バタバタしていて行ってらっしゃいのキスをしそこねた。
もちろんお帰りのキスもしていない。
え、それで機嫌が悪いと思われてるの?おれって普段、そんなことで機嫌が悪くなってるの?
ていうか・・・・え、涼くん、勘、悪くなってる・・・?もしかして、頭の中おれでいっぱい・・・?
ぱーっと目の前が明るくなって、なんかもうどうでも良くなって、涼くんの部屋に飛び込んだ。
「涼くん!ごめん!可愛い!もう、食べちゃいたいくらい可愛い!」
「わぁ!」
ベッドでおまんじゅう星人になった涼くんに飛び掛かる。
布団の波をかき分けて顔を掴み、むちゃくちゃにキスをする。
満足した頃に顔を離すと、涼くんはくたーっと力が抜けていた。
「わ、わたぅくん、」
「ごめんね。仕事でイライラしてた。でもキスもしたかった。今のは朝の分ね。で、これが夜の、」
「ちょ、や、休憩!」
「もー、かわいかった・・・。すげーかわいかった・・・。涼くん・・・」
「んむっ、むっ!」
「癒された・・・。ご飯、おいしかったよ。態度悪くてごめんね」
「・・・」
「涼くん、」
「・・・一緒に寝ても、大丈夫なの?」
「うん。お願いします」
「・・・じゃあ、キス・・・」
何度も何度もキスをする。
涼くんの手が背中に回って抱きしめてくれた。
あぁ、本当に癒される。
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