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しおりを挟む「んー・・・」
「高いね」
「ねー。中古でもこれかぁ」
中古車ショップでウロウロしながら車を見る。和多流くんが望むような車は見つからないみたいだ。
大きくて、広くて、フルフラットに出来て、かっこよくて・・・車の中で、満足いくようにできる、内装の、ものがいい、らしい。
大真面目に言われた時は脱力したけど、まぁ、その、嫌いでは、ないし・・・。
和多流くんがしたいなら、断る理由もないし・・・。
「んー、やっぱ厳しいかなぁ」
「おれ、コンパクトカーでも大丈夫だよ」
「うーん・・・」
「あ、これいいじゃん。色も、お値段も」
「んー・・・!」
「・・・別のところ行こうよ。納得いくもの、ほしいもんね」
「うん。そうする」
「あ、前に行ったところ、行こうよ。品揃え良かったところ。いいなーって思った車が売約済みになってたところ」
「あー、あそこかぁ。うん。もう一回行ってみようか」
先週行ったお店に和多流くんが一目惚れした車があったけど、残念なことに売約済みだった。中を見せてもらったけど広くて、シートは茶色の革張り。お値段は少し予算オーバーだったけど許容範囲内だし、真っ黒でかっこいい車だった。
「前の車買った時、あの車も候補にあったんだよねー。でもスライドドアじゃないから外したの」
「・・・あの、実はおれ、その話あんまり記憶になくて・・・」
「あはは!だよねぇ?いいんだ。だって嬉しそうに乗ってくれたし、思い出もたくさん出来たし。お別れの仕方が残念だったけどね・・・」
「おれなんてお別れしてないもん」
「次の車は壊れるまで乗りたいなぁ」
「ねー。だからさ、後悔しないもの、買おうね」
「大きい買い物、涼くんとできると思ってなかったなぁ。しみじみしちゃう」
「え?」
「嬉しいってこと。さてさて、いい車と出会えますかねぇ」
バイクに跨って、お店へ向かう。
途中お昼を食べて、少し遠回りをした。
お店に着くと、店員さんが近づいてきた。
買うのが和多流くんだと分かっているのだろう。和多流くんに真剣に接客しているので、おれは勝手に見て回ることにした。
どうしても軽自動車に目がいってしまう。
おれは体も大きくないし、妙に収まりがいいんだよね。今の軽って広いし、背も高いし。
手当たり次第座り心地を確かめていると、ミラー越しに和多流くんが走ってくるのが見えた。
車から降りてここ、と手を振るとさらにスピードを上げておれの元へ来た。息を切らしながらおれの肩を掴み、叫ぶように言う。
「あった!」
「え?何が?」
「あの車!!」
「え?どれ?」
「こっち来て!」
腕を引かれ、小走りで店舗に向かう。
なんと、前に見たあの黒い車が置いてあった。
驚いて和多流くんを見ると、目を輝かせて車を見つめていた。
「昨日、キャンセルになったんだって」
「えぇ!?すごい偶然だね」
「・・・中、もう一回見てさ、やっぱこれ、いいなーって・・・」
「おれも見ていい?」
「うん、見よう」
ドアを開けて乗ってみる。うーん、広い。天井も高いし、前に乗ってた車より車高が高い気がする。
見晴らしがいいな。
革のシートもかっこいいし。
「かっこいいねぇ」
「・・・これに決めたいんだけど、いいかな」
「え!?もちろんだよ!早く契約しようよ!」
「でも予算がさ、」
「2人で頑張って働けばいいんだよ!」
「・・・そ、そか。うん。じゃあ、一緒に行こう」
嬉しそうに笑って、店舗の中へ入っていく。おれもいていいのかな、と思ったけどお茶を出されたので遠慮なく飲んだ。
契約のことは分からないので時折相槌を打ちながら外に置いてある車を見る。うん、かつこいい。
和多流くんが運転したらかっこいいだろうなぁ。
サングラスかけて・・・ふふっ。海とか、行くんだ。
「涼くん、もう少しかかりそうだからもう一杯お茶もらう?」
「へ!あ、はい!」
「どうかした?」
「う、ううん!」
危ない危ない、妄想に浸っちゃった。
今、車ですごくきれいな夜景が見られる場所に行く妄想までしちゃったよ。
ヤバいな。落ち着かないと。
1人で盛り上がってて恥ずかしいや。
「ローンの金額、毎月これくらいなんだけど・・・」
「うん。大丈夫。おれそんなに趣味もないし、こういう時のために貯めておいてよかった。ローンは借り換えするんでしょ?」
「え?あ、うーん・・・」
「リフォームローン組んだところに借り換えれば金利下がるよね?あ、定期預金作ったらって前に話したよね。まだ作ってないなら一緒に作ればもっと金利も下がるよ?」
「・・・そうします」
面倒くさくて絶対に手続きしなさそうだったから、ここで畳み掛けておいてよかった。
ネットで仮審査したら、と声をかけると、逃げられないと思ったのか入力し始めた。
色んなところに支払うより絶対一箇所にまとめた方がいいもん。
契約が終わって外に出ると、和多流くんは車を見てまた目尻を下げた。
その顔を見てまた嬉しくなる。本当に気に入ったんだなって、分かるもん。
「よかったね」
「うん。涼くんも気に入った?」
「うん!内装もかっこいいし、少し距離が近くなったね」
「え?」
「前のより車幅が少し狭いでしょ?だから、近くなるね」
「・・・ほんと、君って子は、悪い子だね」
「え?」
「そんなこと言われたらエッチなことたくさんしちゃうよ?」
「な、なんでそうなるのさっ」
「近いの、嬉しいんでしょ?」
「嬉しいけど、そんなつもりじゃないもん。変なことしたら怒るよ」
「怒れる?」
答えに詰まる。和多流くんはニヤニヤ笑った。
******************************
「へぇ。よかったな」
「はい。事故にあった時はびっくりしたけど・・・」
「こっちの心臓が冷えるよな」
「そうなんですよね・・・」
「でも、また車に乗るって考えができてタフだよな。シロもだけど」
「あはは・・・おれなら嫌になっちゃうかもしれません」
「あいつ、修理にしたからな」
「結構ボコボコになってましたよね?」
「意地と執念だな。新車だったし。こだわりも強いし」
あ、なんか、そんな感じする。
和多流くんのは全損だったから修理もできなくて、レッカーされちゃったけど。
「何に乗るんだ?」
「あ、これです」
写真を見せると、フッと笑った。これ、バカにしてるんじゃなくて純粋に笑ってるだけって知ったのは仕事に慣れてきたころ。最初はバカにされてるのかと思って悔しかったけど、どうやら違うらしい。
「好きそうだな」
「そうですか?」
「むしろあのでかいファミリーカーが意外だった」
「あー、うー、あははっ」
笑って誤魔化すしかなかった。
おれがポツリと呟いた言葉を真に受けて買ったものだとは、もちろん言えない。
納車日を聞かれたので今日だと答えると、なるほど、と頷いた。
明日はおれが休みだから、そのままドライブに行くと思ったのだろう。多分そうなるから、少し恥ずかしい。
今朝、すごく嬉しそうだったな。
本当は前に乗ってた車よりも欲しかったんだろうな。スライドドアじゃないから外したんだろうな。今回、あってよかった。
仕事終わりに公園へ向かうと、あの車がいた。
和多流くんが窓を開けて顔を出す。
「おかえり」
「ただいま。やっぱり、かっこいいね」
「ね。乗って乗って。ドライブしよ」
助手席に乗り込むと、動き出した。エンジンの音が大きい。
「すごーい」
「ね、高速走らない?」
「うん。スピード出したいよね」
「それもあるけど、長く乗ってたい」
「よかったねぇ、この車が売ってて。本当はこれに乗りたかったんでしょ?スライドドアのは、おれが言ったから・・・」
「あれも乗りたくて買ったから。ていうか、これが欲しくなったのは涼くんと付き合い始めてからだよ」
「え?そうなの?」
「うん。さ、行こ」
高速に乗り、夜のドライブを楽しむ。
加速がスムーズで気持ちよかった。
夜景がキラキラと輝いて、夜を照らす。
「かっこいいね!速い!」
「サービスエリアで交代する?」
「いいの!?」
「もちろんだよ。・・・この車はさ、もう少し歳くってから乗りたいなって、思ってたんだよね」
「え?」
「この車がもし買えたら、涼くんとさ、車中泊とかしながらいろんなところ行きたいなーって勝手に考えててね。ふふっ」
「・・・楽しそう!まだ長い休みって取りづらいけど、もう少し勤めたら、取れるのかなぁ。さすがに1ヶ月とかは厳しいけどさ、1週間くらいなら・・・」
「違うよ」
「え?」
「もっと爺さんになってから。2人でリタイアして、そしたらさ、時間なんか無限にあるもん」
カーッと顔が、体が、熱くなる。
そんな未来まで一緒にいてくれるんだ。
一緒にいるって、思ってくれてるんだ。
嬉しいのと恥ずかしいのと、やっぱり嬉しいのと・・・感情がとっ散らかって、ぶへ、と変なむせ方をした。
「えぇっ!?なに、大丈夫!?」
「げほ、えほっ、大丈夫・・・ごめ、」
「え、照れただけ?」
「そ、そう、でふ、」
「あはははは!なんだそりゃ!可愛いなぁ!」
顔をくしゃくしゃにして笑ってくれる。
ぺち、と肩を叩くと指を絡めてキュッと握られた。
この車で、2人で、旅に出るって、すごく理想的だなぁ。いろんな景色を見に行きたいな。
何気なく振り返り、後部座席を見る。目を疑った。
驚きすぎて声を失う。
「あ、バレちゃった」
「い、いつの間に買ったの!?」
後部座席がフルフラットになり、マットが敷かれていた。ついでに掛け布団らしきものも隅に寄せてあり、トートバッグと一緒に置かれていた。
「車買って即買ったよ?当たり前じゃん」
「いやいやいやいや、」
「温泉行こ?着替え、持ってきたから」
「ちょっと待って、温泉??」
「道の駅に併設されてるの。車中泊もできるところだし、今の時期なら寒くないし暑くもないし、ちょうどいいよね」
キラキラ光る笑顔で言われて、拒否なんてできなかった。というかする意味もないのだけど、でも、いきなりすぎない?今日納車だったんだよ?
「・・・朝ごはんはどーするの?」
なんとか絞り出した言葉はトンチンカンな質問。和多流くんはさらりと答える。
「道の駅にモーニングをやってるカフェがあるんだ。綺麗な景色を見ながらモーニング、楽しみだね」
「へぇ・・・」
「前に旅行に行った時、温泉すごく楽しんでたもんね。好きだよね」
「うん・・・」
「そんなに遠くないよ。あ、サービスエリアで晩ごはんにしよう」
ハンドルを切ってサービスエリアへ入る。
和多流くんって・・・サプライズは好きじゃないとか言ってたけど、本当は大好きなんじゃないの・・・??
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