Evergreen

和栗

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飲み会。
そう。仲間内の飲み会。
クマと犀川と、他数名。ほぼゲイ。
でもそんな、そんな、仲間内だし、ほぼみんなお相手さんがいて、だから、そんな雰囲気には絶対にならないしなびかないし涼くんの待つ家に帰るのが楽しみで、お土産を買って、駅で別れようとした時、1人の友達が冗談でみんなにキスをし始めて、おれは絶対に嫌だから抵抗したけど結局頬にされて、それを、まさかまさか、まさか、迎えにきてくれた涼くんにバッチリ見られるなんて、思ってもなくて。
駅のロータリーで、ポツンと立つ涼くんは小さくて。
流石にクマも犀川も青ざめて、何故かおれの代わりに必死に弁解してくれた。
涼くんは不安そうな顔で2人を見つめた後、おれを見てから目を逸らして車を指差した。
本当はクマも犀川も乗る予定だったけど、2人は遠慮して駅へ戻り、おれは酔いも覚めて心臓バクバクのまま車に乗り込み、ゆっくりと走る涼くんの横顔を盗み見た。
怒ってる、かな。悲しいのかも・・・いや、むしろ、感情がない、の、かも。
どれもこれも嫌だ。
家に着いてすぐに顔を洗って涼くんの元へ急ぐと、お揃いのパジャマに着替えてベッドに寝転がるところだった。
「涼くん。あの、ごめんなさい。嫌なもの見せて・・・」
「・・・んーん。嫌がってるの、見えてたから・・・」
「殴ってでも止めるべきだった。ごめんなさい」
「いいよぉ。友達のこと、殴っちゃダメだもん。・・・まぁ、うん、酔った勢いだし、こんなことで一々ヘソ曲げてたらキリ、ないもんね。あはは」
「えっ、」
「和多流くん、モテるもん。仕方ないよ。だからいいよ?別に・・・ほっぺくらい、さ?お風呂入っておいでよ。おれ眠いから、もう寝ちゃうけど」
「・・・あの、そういうの、やだ・・・」
「和多流くんはおれの所有物じゃないもん。とやかく言っても仕方ないもん。だから、いいの。おれ、大人になるから。成長中なの。成長の邪魔、しないで」
「する!嫌だ!そんな我慢の仕方嫌だ!怒っていいんだよ。涼くんの所有物なんだから。お願いだから、そんな閉ざし方、しないでよ・・・」
「・・・和多流くんがさせたんだ、」
「・・・ごめん、隙があったんだと思う」
「・・・和多流くんより逞しい人だったし、力じゃ敵わないだろうと思ったから、別に、いいよ。おれはへなちょこだから助けに行けないし」
ゔ・・・。おれより逞しいなんて、涼くんに言われたくなかった。他の男の方がかっこいいとか思ってるわけではないだろうけど、褒めているみたいで、たまらなく嫌だ。
「・・・でも、」
「え?」
「・・・次されたら、家出してやる」
「え!!?嫌だ!!」
「こ、今度はキャリーケース2つ持って、家出してやる!荷物パンパンに詰めて、知らないところに住むから!」
「やだやだやだ!!絶対に嫌だ!!」
「そ、それで、もぉ、ご飯も作らないし、顔も見せてやんないし、パソコンと携帯のデータ全部消して出ていくから!!」
「嫌だ!!どこにも行かないで!」
「じゃあもう、あんなことさせんなよ!!バカ!」
「もうしない!」
「・・・こ、こんなこと言わせんなよ・・」
「・・・ごめんなさい。絶対に、もう、しません」
「・・・じゃあ、早くお風呂」
「え?」
「・・・ちゃんと、ご機嫌取りして・・・」
「・・・涼くん~・・・!!好き・・・!!大好きだよ・・・だから、だから、待ってて」
「ん・・・」
顔を真っ赤にして、涼くんは俯いた。
爆速でお風呂を済ませてベッドに戻る。涼くんに抱きついてたくさんたくさん甘やかして、満足した頃に2人で眠った。



******************************



「あの逞しくて大きい人は仲良い人なの?」
ピクッと肩が揺れる。
「・・・そうだよ?」
「そうなんだ。へぇえー」
にこーっと笑って、涼くんは意味深に頷いた。
ム、ムカツク・・・!あの野郎、涼くんに逞しいとか言われやがって・・・!
ていうか、おれだって頑張ってるし!!
「どんな筋トレしてるのかな。お仕事何してる人?」
「・・・ジムのトレーナー。てか、経営者・・・」
「すごいね!でも和多流くんが行ってるところではない?」
「違う人のところだけど・・・」
「そうなんだ。あ、ごめんね・・・おれ、結局辞めちゃって・・・」
「まぁ、ん、涼くんは家でやれば、いいんじゃないかな。しっかりできてるし・・・」
「いいなぁ。あんなふうにムキムキになれるの。憧れちゃうね。おれなんてプロテイン飲んでもこの程度だもん」
あ、あ、あこがれ、だと・・・!?
ハンドルを持つ手に力が入る。
昨日は嫌な思いをさせちゃったし、涼くんの食べたいものを食べて欲しくて食事に向かってる途中だというのに、さっきからあいつの話ばーっかりして・・・!!
でも、昨日のことがあるから怒れないし臍も曲げられない。悔しい。
「和多流くんの周りって独立してる人、多いね」
「あー・・・まぁ、うん。チャレンジャーが多いよね」
「類は友を呼ぶんだね」
「おれが1番貧乏ですけどね」
「そうなの?じゃあみんなもっとすごいんだ?」
無邪気な笑顔。
ぐっ・・・!!お、おれだって、褒められたい!!
他のやつのことなんて、褒めないでよ!!
昨日の仕返し?いや、そんなことする子じゃないし。無意識もタチが悪いけど、あぁもう!!
「でも、和多流くんが1番すごいけどね」
「え?」
「いつも一つ一つの仕事が丁寧だもん。いつも見てるから分かるよ」
ぽやっと胸が温かくなる。おれ、チョロいな・・・。でも嬉しい。
「いつからの友達?」
「あいつは元々クマの友達」
「そうなんだ」
「・・・気になるの?」
「うん」
う、うん!?素直に頷いたね!?
ムカーっとして乱暴に駐車場に入る。
せっかく涼くんの好きな中華のお店を調べて予約したのに!
なんでこんな気持ちにならなきゃなんないんだよ!
「お店、ここ?楽しみ」
「・・・」
「行こうよ」
「・・・」
「・・・気になるに決まってんじゃん。わたくんにキスした人だよ」
「キスなんてされてないよ」
「顔にした。おれのものなのに、勝手に触った」
声のトーンが変わった。
驚いて顔を見ると、いつもの無邪気な顔でも、悲しそうな顔でも、不安そうな顔でもない。なんだか、ギラギラしている。
怒ってるのかな?いや、なんか、違う・・・。
「おれの、わたくんに、勝手に触った。だから気になる。悪いこと?おかしい?」
「・・・ごめん、」
「何が?怒ってないよ。おれはおかしいの?」
「お、おかしくないよ・・・?」
「・・・ご飯食べよ?楽しみにしてたんだ。胡麻団子、食べたいよ」
「・・・うん、行こ」
なんか、変、なの・・・。
お店に入ると、涼くんはたくさん注文してたくさん食べてくれた。
ほっぺがまんまるで可愛くて、連れてきて良かったと安心した。
でも、さっきのは何なんだろう。ギラギラした感情。初めて見たな。
食事を終えて家に帰ると、お風呂に入ろうと言われたので2人で入った。涼くんははしゃいでいた。さっきのことなんて忘れて、思う存分イチャイチャして、ベッドに入る。そのまま眠ってしまった。
心地の良い眠りから目覚めたのは、眠りについて2時間も経ってない真夜中だった。ペチペチと頬を叩かれたのでぼんやりと目を開けると、涼くんがおれの上にいた。抱きしめようとすると、手が動かなかった。両手と両足が固定されていることに気づいて、かなり焦った。
「ちょ、何、」
「取れないよ。ベッドの足にバンドをつけて拘束してるから」
「・・・え。マジで、どうしたの?怖いんだけど・・・」
「・・・おれが抱きたいな」
「・・・は?」
「おれが和多流くんのこと、抱くの。ビデオも撮りたい」
「・・・待って、なんで?落ち着こうよ」
「落ち着いてるよ」
「外して」
「やだ。逃がさない」
「逃げないから、」
「他の人に抱かれる前に、おれが抱く!」
びっくりして目を見開く。
ほ、他の人・・・??
何言ってるの?
意味がわからない。
涼くんはギラギラした目でおれを見下ろして、乱暴に唇を重ねた。ぐちゃぐちゃに口内を掻き回してくる。怒ってるんだとすぐにわかった。だって、気持ちよくない。
「涼くん・・・」
「おれのなんだよね?おれのだもんね?」
「・・・そうだけど、これは違うよ」
「え?何が違うの?和多流くんはおれのだもん。おれの、だよね・・・?」
「・・・今は少し違うかな?」
「・・・え?え?」
目が泳ぎ、混乱してきた。なんか、なんか、おかしい。
どうしちゃったんだろう。
抱きしめて落ち着かせたいのに、手が動かない。
言葉選びを間違えたら、きっと涼くんは部屋から飛び出すだろう。
慎重に言葉を選ぶ。
「・・・涼くん、抱きしめてくれる?」
「・・・なんで?」
「遠いよ」
「・・・でも、おれのじゃないんだよね?わたくんは、誰のものなの?」
「うーん、おれはおれのものだけど、涼くんのものでもあるし。説明が難しいな」
「・・・あの人のもの、なの?」
「え?」
「・・・おれのものじゃないなら、あの人のもの?・・・やだよぉ・・・」
「・・・涼くん、手を外して?抱きしめたいよ。混乱してるね。おれもだから、一緒に落ち着こう?」
「抱かせて・・・和多流くんのこと、抱かせてください・・・一回で、いいんです・・・お願いします・・・」
声が震えていた。
不安で仕方ないのかな。何でこんなに追い詰められてるの?本当におれのこと、抱きたくて、言ってるの?
「・・・いいよ」
「・・・ほ、ほんとぉ?ほんとぉにいいの?!や、やったぁ!えへへ!おれのになるね!ね!」
「ならないよ」
「・・・へ、」
「涼くんが虚しくなるだけだよ」
「・・・え?でも、おれ、和多流くんの、だよ・・・?」
「うん」
「・・・え?え?」
「涼くん、大好きだよ。安心して。だから、落ち着こう?こんなんじゃ抱きしめられないから・・・外してほしいな。また後でつけていいから」
「・・・」
「・・・ね?話し合って、それで、まだ抱きたいって思うなら、しよう?」
のろのろと手枷を外した。バリバリと鈍い音。マジックテープの手枷なんて、そりゃ自力じゃ取れない。おれに壊されないようにって、考えたんだろうな。
起き上がるとぴょんっと飛び跳ねて距離をとる。
警戒されてるのかな。
手を伸ばすと、意外にもすんなりと手を握ってくれた。くん、と引っ張ると倒れかかってくる。
ぎゅっと抱きしめると、深くため息をついて背中に手を回した。
「・・・涼のものだよ。安心してね」
「・・・ほんと?」
「うん。・・・何か、不安なことあった?」
「・・・ん」
「あの人って、昨日の友達のこと?」
「ん、・・・怖かった」
「え?」
「だって、こんなに強い和多流くんが・・・羽交締めにされてた・・・もっと、大きい人に」
「あー・・・」
「とられたら、いやだよぅ・・・」
胸が熱くなった。涼くんの涙で濡れた。
細い肩が震えて、しゃくりあげて、嗚咽を漏らす。
確かに両腕ごと抱え込まれて顔にキスをされた。相変わらず馬鹿力だなとお互いに笑っていたけど、涼くんには恐ろしいことだったのかもしれない。
おれが羽交い締めにされるって、まぁ相当なもんだよね。
宥めるように頭を撫でる。
「取られないよ。涼くんの方が強いもん」
「へ?」
「あいつより涼くんの方が強いよ。全部」
「・・・強くないよ?おれ、こんなに細いし、よわっちいし・・・」
「涼くんに抱きしめられると、おれ、力抜けちゃうもん。ふにゃふにゃーって。それに、あいつ魅せる筋肉だからおれとクマより全然弱いよ」
「・・・もぉしないで、」
「しないよ。驚かせてごめんね。・・・誰のものにもならないよ。だって全部涼くんのものだからね」
「さっき、違うって言った」
「いや、だって、あんな血走った目で冷静でもないし、そうでも言わないと手枷外してくれなかったでしょ?それに合意じゃないもん。いきなり抱きたいって言われても困っちゃうよ?」
「・・・そっか。あ、話し合いすれば、いいんだもんね。話し合いすれば、抱かせてくれるんだもんね?」
いきなり目が輝き始めた。さっきの切羽詰まった感じより全然いいけど、話し合い、してないし!
「うん?ん?ちょっとお待ちくださいね?話聞こう?」
「で、でも、さっき言ってたもん。話し合って、抱きたいって思うならしようって。おれ、抱きたいよ。誰にも取られたくないもん」
「いや、お尻は守らせてもらう。まだ時期じゃない」
「・・・さっきいいよって、言った・・・」
「それはさ、涼くんを落ち着かせるために言ったの。今のままの気持ちでおれを抱いても虚しいよ?おれが涼くんに抱かれたいって思って初めて抱くものじゃない??」
「・・・そうなの?・・・あ、そうか。おれも和多流くんに抱かれたいなーって思って、したもんね」
ゔゔぅ・・・!!か、可愛い・・・!!そうなんだ!?抱かれたいなーって、思っててくれたんだ!?超嬉しい!!
「・・・いつ思ってくれる?」
「え!?いや、それは、あー・・・うー・・・分かんない」
「おれ、やっぱ、へなちょこだし細いし筋肉ないから抱かれたいって思えないよね・・・」
「へなちょことか細いとか筋肉とかじゃなくて、抱かれる時間があるならおれが涼くんを抱きたいんですよ」
「・・・それじゃいつもと変わらないじゃん」
「変えたいの?」
「え?」
「・・・変えたいの?とろっとろに愛されて、触って、ぐずぐずに溶かされて、快楽漬けになって、そのまま眠るのが一番気持ちいいでしょ?」
顔を撫でると、涼くんは少し考えて顔を真っ赤にした。
ここで焦ってはいけない。
ゆっくりお尻を揉んで、耳に唇を寄せる。
「お尻でいく方が気持ちいいよね?おれに入れたら、お尻がむずむずして終わっちゃうだけだよ?それでもいいの?」
「・・・っ」
「おれの、いれなくて、満足できる・・・?」
「・・・や、」
「ん・・・?できる?できるなら、交代しようか・・・?でも、おれは、涼くんの中に入るのが大好きなんだよ・・・?」
「・・・っ、ん、・・・」
「トントンって、奥に、キスがしたいよ」
「・・・う、ん・・・奥?」
「おれしか入れない、おれのための涼くんが愛おしいよ・・・」
「・・・」
「涼くんのものにして?全部刻みつけたいよ」
「・・・あっ、」
くん、と押し付ける。ピクピクっと背中が震えた。
「外して、くれないかな・・・?ダメかな」
「・・・おれがしたい」
「じゃあ勃たせないとね」
熱を持っていないペニスをスルッと撫でる。
ひく、と足が揺れた。
「ん、くっ、」
「抱きたいんでしょ?勃たせないと」
「う、ん、ん、」
「可愛い声だね。これからおれを抱くのに、そんな可愛くてどうすんの?」
「っ~・・・!バカにしないでよ!」
「してないよ。我慢できねーって言ってんの。安心させたい」
「あぶっ、」
噛み付くようにキスをして、口内をぐちゃぐちゃにする。
涼くんは必死に応えてくれたけど、途中で力が抜けた。足枷を触る。こっちもマジックテープだった。恐ろしいな。本気でおれのことを拘束するために買ったんだ。
バリバリと音を立てて外すと、悲しそうな顔をした。
そんなに不安だったんだ。そんなに追い詰めたんだ。
抱きしめて背中を撫でる。
「涼くん、今日はやめよう?不安なままおれを抱かないでほしい」
「~~っ・・・」
「・・・縛りたいならいくらでもしていい。その先は、また今度しよう?今はこうしていたいよ」
「・・・抱いて、」
「ん?」
「抱いて・・・!おれのこと、」
「・・・うん」
「っく、んぅ~・・・!ん、ん、」
「・・・ごめんね。不安にさせて、ごめんね。大好きだよ」
「ひ、ひぃっ、っく、え、えぇん・・・!ごめんなざい・・・!」
「何が?何もしてないでしょ。・・・落ち着いたら、しようね」
背中を撫でながら落ち着かせる。涼くんはそのまま眠りに落ちた。
おれも後ろに倒れ、涼くんを抱きしめたまま、目を瞑った。


******************************



「・・・いってきます」
リュックを背負って、少し俯いて、挨拶をした。
頬にキスをして行ってらっしゃい、と頭を撫でる。
不安そうにおれを見て、そっと靴を履いて、またおれを振り返って、ドアを開けて出て行った。
うー・・・!送ってあげたい・・・。
でも、きっと1人で考えたいだろうし・・・。
ため息をついてベッドに倒れ込む。
涼くん、思い詰めてないといいな。おれはキミだけだよ。それは絶対に揺るがない。誰にもなびかない。涼くんのそばにいられないなら一層の事って思うくらい、好きだよ。
起き上がって仕事をする。楽しいこと、考えよう。
お金を稼ぐのは涼くんと美味しいご飯を食べて楽しいことをして過ごすため。じゃなきゃ、仕事をする意味がない。お金を稼ごう。それで、どうやって、楽しんでもらおう。
せっせと仕事をしていると、携帯が鳴った。涼くんからだ。休憩に入ったのかな。
「涼くん?お疲れ様」
『・・・和多流くん、』
元気がない。あぁ、まだ、引きずってる。
「うん、どうしたの?」
『・・・お迎え、』
いらないのかな。
心がザワザワする。あの時みたいに、涼くんが突然いなくなった時みたいに、ただひたすら待つしかないのかな。ああ、いやだ。
こんな気持ち、もう味わいたくないのに。聞こえないようにため息をついて、俯く。涼くんが鼻を啜った。
「・・・うん、」
『・・・あの、』
「うん、お迎え、どうしたの?」
『・・・きて、くれるぅ・・・??』
泣きそうな、甘えたような声。
思わず立ち上がって叫ぶ。
「行くよ!何、言ってんの!行くに決まってるじゃん!」
『・・・ほんとぉ?』
「行くよ!断ったら怒るよ!?ちゃんと待ってて!必ず行くから!・・・大好きだよ。大好き・・・行くから、泣かないでね、ね?」
『・・・ゔんっ、』
すん、すん、と鼻を啜っている。
あぁ、もう、今すぐに抱きしめたい。涙を吸って、頭を撫でて、キスがしたいよ。
通話を終えて、急いで仕事を片付ける。
居ても立っても居られなくて、いつもよりも早い時間に駐車場についた。
連絡をいれて、日が暮れて、涼くんがくるのを待った。
車に寄りかかってソワソワしながら待つ。早く、来ないかな。
じっと待っていると、走ってくる姿が見えた。
あぁ、来た。やっと来た・・・。
両手を広げて近づくと、顔をこすりながらスピードを上げる。飛び込んできた体を抱き止めると、わっと泣き出した。
「ご、ごめんなさ、ごめんなさい!」
「うん、うん、不安だったね。大丈夫だからね。大好きだよ。愛してるよ。忘れないで。涼くんだけなんだよ。揺るがないからね」
「ふ、ふえっ、ごめ、ごめんなざい、ごぇんね、おれ、あ、あぅっ、」
「泣かないでいいんだよ。車乗ろう?ぎゅーってしよう?」
後部座席に押し込んで、強く抱きしめる。
おれの上に乗ると、鼻先を首筋に押し付けて声を殺した。
「お迎え、いらないって言われるのかと思って焦っちゃったよ」
「き、来てくれる、か、怖くて、も、おれ、」
「前も言ったよ。喧嘩してても嫌なことがあっても、行くよって。ね、顔見て?見せて?」
「ゔ、ゔっ、・・・しゅき、」
「おれも!大好き・・・嬉しい」
顔を両手で包んで覗き込む。涙でぐちゃぐちゃ。可愛いよ。大好きだよ。
何度もキスをして頭を撫でた。涼くんはだんだん落ち着いてくると、リュックを開けて紙袋を出した。
「これ、これ、ごめ、・・・何か、渡したくて、でも、思い浮かばなくて、これ、」
「いいのに・・・。涼くんがいれば、何もいらないよ」
「う、受け取って、」
ドーナツ屋の袋。震える手で渡された。
パッと目に入って、衝動で買ったんだろうな。
ぎゅーっと胸が苦しくなる。受け取ると、また涙をこぼした。
「デザートで食べようね」
「う、うんっ、うん・・・!昨日、ごめんなさい、ごめんなさい・・・!」
「おれが不安にさせた。謝らないで。大丈夫だからね。大好きだよ」
「あ、ありが、ありがと、ありがとぉ・・・!怖かった、ごめんなさい、無理やり、」
「おれのこと、好きだからしちゃったんだよね?」
「取られたくなかった・・・!」
「嬉しいよ。ありがとう。涼くんのものだよ。帰ろう。帰って、ご飯、食べよう」
キスをして、少し素肌に触れて、家に帰った。
涼くんは顔を腫らしたままご飯を作ってくれた。
綺麗に食べ終えるとおれの膝に乗り、抱きついてくる。たまらない気持ちになって、細い腰を抱きしめる。
「涼くん、落ち着いた?」
「ん、」
「よかった。・・・あのね、抱きたい、かな?」
「・・・抱かないと、どこか行っちゃうかと思った」
「行かないよ」
「・・・なんか、自分のことをコントロール出来なくて、苦しかった」
「うん。そうかなって思ってたんだ。止めないと後悔するって思った」
「・・・うん、ありがとぉ・・・抱きたいと思うことは、あるけど、昨日は、抱かなくちゃって思ってたんだ。そんなの良くないよね」
聞き捨てならない言葉が出てきたけど、今は無視。涼くんのケアが最優先だ。
うんうんと頷きながら目を見つめると、恥ずかしそうに逸らした。
そっと顎を支えて唇を押し付ける。涙の味がした。
「あのまましていたら、涼くんが嫌な気持ちになるだけだったよ」
「・・・うん、」
「そんなの嫌だから、ちゃんと気持ちが同じ方向に向いた時にしようね」
「・・・おれのこと、まだ、抱きたいって思う・・・?」
「なんでそんなこと聞くの?ずーっと抱いていたいよ。昨日もしたかった」
「・・・よ、よかった、」
「あの人とはしばらく会うことはないから、もう不安にならなくていいんだよ。なんだかいつもと違う雰囲気で、少し動揺しちゃった」
「おれもね、びっくりした。ずーっとメラメラ燃えてる感じで・・・」
「レアだね。涼くんは基本、静かに怒るからさ」
「・・・お、お詫びを、したい、です」
「え?」
「・・・だから、その、お詫び・・・」
「・・・えーっと、そういうのは、」
「あの、手枷と、足枷、ね?あの、あの・・・おれ、買ったんだ・・・」
だろうね。見たことのないやつだったし。
おれのことを拘束したくて買ったのだというのはよく分かる。
「・・・わ、和多流くんに、つけてもらいたくて・・・」
「うん・・・」
「あ、違うからね。あの、おれにって、こと。和多流くんが、おれの手に、つけてくれないかなって、思って、買った・・・」
「えっ」
「す、好きでしょ?だから・・・おれが買ったら、もっと、喜んでくれるのかなって、思って・・・前に、買って・・・。でも、なかなか出せなくて、・・・今回、使っちゃった、」
「・・・嬉しい・・・本当?うわ、使いたい!あれ、ベッドに固定できるやつだもんね?手枷も足枷もマジックテープで取れづらいからすげー興奮する!自分がつけられた時は焦ったけど」
「・・・い、いつか、いつかでいいんだ。最後までしなくていい。でも、抱かせてほしいな・・・。同じ方向を向いた時、教えて、ほしい」
か細い声だった。
愛おしくて、強く抱きしめる。
「勇気がなくてごめんね。まだ、かかるけど、いつかしようね」
「・・・うん。分かるもん。最初って怖いよね。昨日は本当にごめんね」
「ううん。ねぇ、今日、抱いてもいい?」
「ん・・・嬉しい」
「たくさんキスして、抱き合おうね。たくさんマーキングしてくれる?」
「・・・噛んでいいの?」
「うん。好き」
しつこいくらいキスをして、一緒にお風呂に入った。
これでもかってくらいイチャイチャして、ベッドでたくさん愛し合って、2人で笑った。
すごくすごく、暖かいセックスだった。
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