Evergreen

和栗

文字の大きさ
208 / 234

180

しおりを挟む

「えぇー・・・」
つい、つい、残念な声が漏れてしまった。
慌てて口を閉じたけど、遅すぎ。
涼くんはしゅんとすると、ごめんね、とか細く言った。
「あ、ご、ごめんね・・・あの、いや、えーっと、・・・うん・・・」
「・・・」
「・・・ごめんなさい!すごくすごくしたかったからつい!」
「うん、顔見れば分かるよ・・・」
「涼くんー・・・!シフトが変わるなら早めにぃー・・・!」
急に言わないでくれ・・・!!
明日は遅番だと、わくわくしてお迎えに行って、いつも通りお喋りして帰ってきて、ご飯を食べてお風呂も済ませていざって時に、申し訳なさそうに、早番になった、と小さく言われた。
下半身は完全に期待している。今だって全然萎えないし・・・。
「ごめん・・・言いづらくて、」
「えと、なんでですか?」
ついつい敬語になってしまう。
涼くんは目を伏せると、だって、と言ったっきり黙りこくった。
しばらく待ってみたけど口を閉ざしていたので、ふぅ、と息を吐く。
「・・・あの、シフト変わる時はなるべく早めに連絡が欲しいです・・・」
「・・・ごめんね」
「・・・言いづらかったんだ?」
「・・・ちょっとだけ」
「そ、そか・・・うん、」
言いづらいのか・・・!
何でだ・・・!
言ってくれ・・・!!


******************************


多分、言わないと拗れるよね・・・。
でも、言いづらいなぁ。
明日は本来遅番の日。和多流くんがウキウキしているのが伝わる。
帰りがけに急に交代してくれないかと言われてつい、安請け合いをしてしまったけど。
次はしっかり断らなきゃって毎回思うけど。
夜のセックスのために断ってもいいのだろうかとも思うし、ていうかそもそもするかわからないし・・・。
って思ったけど、これ、する感じだよねー・・・!したいって思ってるよねぇ・・・!
言いづらいよー・・・!


おれも、したいもん・・・でも、朝、遅刻したくないし・・・。


「えぇー・・・」
案の定、落胆した声。顔が見られなくて目を逸らす。
「あ、ご、ごめんね・・・あの、いや、えーっと、・・・うん・・・」
「・・・」
「・・・ごめんなさい!すごくすごくしたかったからつい!」
「うん、顔見れば分かるよ・・・」
「涼くんー・・・!シフトが変わるなら早めにぃー・・・!」
だ、だよねぇ・・・。
「ごめん・・・言いづらくて、」
「えと、なんでですか?」
敬語だし・・・。
怒ってるんだろうなぁ・・・。
だって、と言ったはいいものの、言葉が続かなかった。
しばらく黙っていると、ひどく残念そうなトーンで、和多流くんが言う。
「・・・あの、シフト変わる時はなるべく早めに連絡が欲しいです・・・」
「・・・ごめんね」
「・・・言いづらかったんだ?」
「・・・ちょっとだけ」
「そ、そか・・・うん、」
顔を見ると、眉を寄せていた。
腑に落ちてないんだろうなぁ。
そりゃ、そうだよねぇ・・・。
「・・・ごめんなさい」
消えそうな声で謝ったけど、聞こえなかったみたいだ。
寝ようか、と肩を抱かれた。
ぽす、とベッドに倒れる。手を繋いで眠った。



******************************



言いづらいのか・・・。
おれ、そんなにプレッシャーを与えていたのか・・・。
セックスをするのに、気持ちよくなるための行為なのに、プレッシャーを与えてどうする。
でも、でも、楽しみだったんだもん・・・!したかったんだもん・・・!
あ。

これが、良くないのか。

したいしたいってそればっかりがダメなんだよな。
うん、よくない!!
体が目当てなんじゃ無いんだから!涼くんとの時間を過ごしたかっただけなんだから!
ちゃんとそれを伝えないと!



****************************



おれだって、したかったのになぁ・・・。
あんなにムッとしなくても・・・。
おれの気持ちとか分かってんのかな。なんて思っちゃったり。
ついため息をついてしまう。
でもすっきりすることはなくて、たまにはタバコを吸おうかな、と思った。
・・・でも、なぁ。
キスする、かも、しれないし・・・。タバコの匂いがするって、苦いって思われたくないし。
タブレットで我慢しようとした時、スマホが震えた。和多流くんからだった。電車で迎えに行きたいと書かれていたので、ありがとうと返す。
珍しいな・・・。今日早く上がるし、早い日っていつも必ず車なのに。それで、すぐご飯を食べてベッドに行こうっていうのに。
明日も早番だから早々に諦めたのかな。
・・・それはそれで、少し寂しいんだけど・・・。
でも仕方ないか。とりあえず、仕事頑張ろ。




*****************************




ちょっとドキドキする。
久々のお散歩デートを、決行するのである。
涼くんに、涼くん自身が大事で、涼くんと過ごすのが楽しくて幸せなのだと伝えるために、今日は落ち着いて接するのだ。
・・・ていうか、昨日のあれは、ただの文句にしか聞こえないよな・・・。
シフトが変わるなら早めに言えとか、したかったのにとか、まるでクズ男・・・。
いや、ドクズ。
最低以外の何者でもない。
挽回したい!
「お待たせ」
はっと我にかえる。
涼くんがリュックを背負って立っていた。
半袖のワイシャツが眩しい。
「お疲れ様。疲れてない?」
「うん。帰ろっか」
「あ、ん、・・・えっと、」
さっさと改札に向かおうとしたので焦ってしまう。
は、早くない?どこか行く?とか、何か食べる?とか、ないの??
昨日のこと、怒ってる?
「あの、少し歩きたい、かな」
「え?そうなの?うん、いいけど」
「とりあえず何か飲み物でも買おうか」
「うん」
コク、と頷く。
コーヒーショップでカフェラテを2つ買って駅から離れるように歩き出す。涼くんは不思議そうにおれを見た。
「どうかしたの?」
「え?」
「珍しいから。歩きたいなんて。いつもは休みの日に行こうって言うのに」
「たまには・・・。あ、そうだ。これね、見つけたから買ってみたんだけど使う?」
ポケットから先ほど買ったものを取り出す。
涼くんは目を輝かせた。
「あ!」
「探しても見つからないって言ってたから」
リュックのファスナーを他人に開けられないようにする、防犯ロック。電車で帰宅する時に便利かと思ってと言っていたのを思い出して、買ってみた。
「100円ショップにあったやつだから試しに使ってみて」
「すごい。ありがとう」
「答案とか入ってる時、あるもんね」
「うん。持ち帰ってきちゃうこともあるから・・・。嬉しい。ありがとう」
よかった・・・。笑ってくれた・・・。
よし、あとはどこかで食事をして、デザートも食べて、それから・・・。
「ねぇねぇ」
「ん?なぁに?お腹すいた?どこか、」
「怒ってるの?」
「・・・へぇ??」
な、な、なん、なん、で!!??



******************************




改札で和多流くんを見た時、眉間に皺が寄っていた。
あー、なんか機嫌が悪そう。
と思って早く帰ろうとしたら、歩こうよっていわれた。
昨日のことで話があるのかと思って歩いているけど・・・。
特に何もないから、率直に聞いてみたら、素っ頓狂な声。
「・・・なんで、怒ってると思うの?」
「えっ。・・・昨日、断ったから?」
違うのかな。
首を傾げると、悲しそうな顔をした。
あれ?なんでそんな顔、するの?
昨日怒ってたじゃん。
ちゃんと言ってよって、ムッとしてたじゃん。
「・・・ごめんね」
「え?」
「そんなこと言わせてごめんね。違うよ。・・・怒ってないよ。涼くんに、幻滅されたくないから、だから、」
「幻滅?なんでそんなことするの?」
「・・・だってさぁ・・・したいしたいって、そればっかりだったから・・・。早く言ってとか、超クズじゃん、おれ・・・。だから、デートして、美味しいもの食べて・・・挽回してから、帰ろうって、思ってて・・・」
あ、こ、これ、デートだったんだ!?
改めて言われると顔が熱くなる。
和多流くんは目を逸らすと、行こうか、と小さく言った。
もうそろそろ、一駅分歩いたよね。
もう、知り合いもいないよね。暗いし、大丈夫だよね?
そっと小指を握ると、ピクンと揺れた。
「お腹すいたね」
「・・・すいた?」
「うん。・・・何か、食べようか」
「ん」
「・・・デ、デートって言われると、照れちゃうね・・・えへへ」
きゅっと手を握られた。
見上げると、目が合った。
「何食べたい?」
「んー・・・ピザ?」
「ピザかぁ。前に車で通って気になるねって話したところ、行く?ほら、駐車場狭いところ」
「うん」
「・・・涼くんは、怒ってない?」
「え?おれが?何で?」
「・・・さっき、さっさと電車乗ろうとしたから」
「和多流くんが怒った顔、してたから」
「え?そんな顔してた?」
「眉間に皺、寄ってた」
「えー!?うそ、何でだ・・・」
「あの、ね?クズなんかじゃないし、そんなこと思ったこと、ないよ。・・・おれもしたかったんだよ」
「えっ!」
心底驚いたように叫ぶ。
キョロキョロと辺りを見渡すと、咳払いをして真っ直ぐおれを見た。
「・・・し、したいと、思ってくれてたの?」
「うん。そりゃ、思いますよ・・・変?」
「嬉しい」
「・・・でも、あの、ごめんね?昨日・・・」
「ぜ、全然!!・・・と、とりあえずご飯、食べようか。うん・・・」
「・・・」
「・・・帰ったら、少し、触りっこしない?」
こそっと囁かれた。
触りっこ、という言い方が可愛くてつい口元が弛む。
黙って頷くと嬉しそうに笑って、行こうか、と引っ張られた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

処理中です...