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しおりを挟む「・・・やだもん」
ぶーっと唇を突き出して、俯いた。
ぐぅう・・・!可愛いが過剰放出されている・・・!
「うん、でもさ、もう結構ボロボロ、」
「縫えばいいもん」
「毛羽立ってるしほつれてるし、新しいの買おうよ」
「・・・やだ」
ぎゅーっとネクタイを握りしめて、涼くんは首を横に振る。
おれのお下がりをこんなに大事にしてくれるなんて、可愛すぎる。
ただの安物なのに。
涼くんはものを大事にする優しい子。
だけどたまに、これはさすがに、というものもある。
「涼くん、そのスーツやめたら?」
「え?」
「テカリが目立つし、やめたら?」
「・・・んー、でも、今日はこれがいいんだ」
ずいぶん古いスーツだと思う。
多分、リクルートスーツだ。
そろそろ卒業するべきじゃないだろうか。というか、他にも持ってるのになぜそれ??
「こっちの方がかっこいいのに」
この前新調したと話していたスーツを出すと、困ったように笑う。
「うん、それも好きなんだけど、今日はこれが良くて、」
「だから、テカリが激しいからやめなよって。みっともないから」
つい強めに言うと、涼くんは目を見開いてから険しい顔つきになった。
あ、やばい。これはかなり怒るやつ・・・。
「みっともないって、そんなこと言わないでよ。これ、すごく大切なスーツなんだよ?今日は気を引き締めたいからこれにしたの。・・・はぁ、」
「ごめん。でも人前に立つ仕事だし、」
「わかりましたよ。そっち着ます」
ジャケットとスラックスを脱いで、おれの手から乱暴にジャケットを奪うと荒々しく袖を通した。
スラックスを履いて、イライラしたようにベルトをして、カバンを背負う。
「お迎えいらない。寄りたいところがあるから」
「いや、行くよ。どこに行くの?」
「言わない。1人で帰る。ご飯も別で。いってきます」
「ごめんね。言いすぎた」
「許すわけないじゃん」
はっきり言われて足が止まる。
許すわけない、とは。
え。許してもらえない、ということですか。
無機質なドアが閉まり、しんとする。
脱ぎ捨てられたスーツをハンガーにかけてクローゼットにしまう。
よほど思い入れがあるんだな。知らなかった。
******************************
4日。
4日経ちました。
晩御飯もお風呂もベッドも別。
かろうじて挨拶はしてくれるけど、話しかける隙も与えてくれないし、話しかけるなオーラが出ている。
しかも毎日帰りが遅い。
確かに忙しい時期ではあるけど、働き方改革でシフトも無理のない範囲で組んでるし、最近は予備校の方が多くて帰りが早いことも、多かったのに・・・。
めっちゃ避けられてる・・・。
そんなに大事なスーツだったなんて、知らなかった。
あのスーツを着ている姿、昔、何度も見たことがある。
いつも同じスーツだな、節約してるのかな、と思っていたけど。
単純に思い入れがあるスーツだったみたいだ。
あのリクルートスーツがなぜそんなに大事なのか、おれは知らない。
誰かにもらったのかな。買ってもらったとか?
も、元彼、から、もらった、とか・・・??
でも涼くんは元彼との思い出は全て後腐れなく捨てちゃうタイプだし、その可能性は薄いような・・・。
気になってたまらない。知りたい。全部知りたい。
あのスーツ、何でそんなに大事なの?教えてほしい。
今日、聞いてみよう。
明日はお休みだし、ギクシャクしたまま休日を迎えたくはない!
そう思って待ちぼうけ。お迎えに行ってもすれ違いそうだからもちろん家で。
でも、待てど暮らせど帰って来ない。
そうこうしているうちに終電も無くなる時間になってきた。
帰って来ないんですけど?
連絡もないんですけど!?
え!?何で!?
連絡をしても無視されそうな気がして、久しく開いてなかった位置情報アプリを開く。
どう考えても歩いてるスピードでアイコンがゆっくりと動いていた。線路沿いをまっすぐ歩いている。
まさか、まさか!?
車の鍵を持って家を出る。
アクセルを踏み込んで電話をかける。
3コールで繋がった。
『もしも、』
「何で歩いてんの!?終電逃したなら連絡してよ!!」
『・・・』
「迎えに行くから!電源落とさないでね!?ちゃんと、居場所が分かるようにしといて!」
『・・・』
「また無視!?もぉ!いいよ!好きなだけ無視してればいいよ!迎えに行くからちゃんと車乗って!!わかった!?」
返事も聞かずに通話を切る。
少しすると、とある駅周辺でアイコンが止まった。
大急ぎで向かう。
各駅停車でしか停らない小さな駅。ロータリーの前に喫茶店が一つ。車から降りて辺りを見渡すと、喫茶店から涼くんが出てきた。
ちょこちょこと走ってきて、確認するようにおれを見て、ぺこ、と頭を下げた。
「ありがと、ございます」
け、敬語・・・。
無視より、いいか・・・。
少し悩んだ後、助手席のドアを開けて乗り込んだ。
それを見て運転席に乗り込む。
アクセルを踏んだ時、小さく言った。
「無視なんか、してないよ」
「え?」
「・・・びっくりしただけ。迎えにきてくれるんだって・・・ただ、びっくりしただけ」
「く、来るに決まってるじゃん!バカ!分からんちん!こんな夜道を歩いて変質者とかに遭ったらどうするの!」
「・・・男だからあわないし」
「関係ないから!それに、疲れてるのにさらにまた歩くって、大変だし・・・!つーかさ、来るよ!理由なんかないよ!涼くんに会いたいから来たの!おかえり!」
「・・・ただいま、」
「・・・さ、避けても、いいけど・・・いや、本当は嫌だけど!でも、ちゃんと連絡はしてほしい。毎日毎日、何時に帰ってくるのかなってそわそわして、心配だから」
「・・・避けてないよ。意地張ってるだけ」
「え?なんで?」
「・・・怒っちゃったし」
ぷい、と窓の外を向いて口を閉ざした。
気まずいのかな。
でも悪いのはおれだし、涼くんが怒るのは当然だし、気まずく思わなくてもいいのに。
車を走らせながらチラチラと確認する。ずっと窓を見たままだ。
家に帰ったら、また部屋に閉じこもっちゃうかな。
それは嫌だな。
そろそろ、そろそろさ・・・涼くんの作ったご飯が食べたいよ。
抱きしめたいし抱きしめてほしいし、ていうか、普通にさ、イチャイチャしたり、笑って過ごしたい。
「ご飯食べた?」
「え・・・?ううん・・・」
「ファミレス行こう」
「え、あ?でも、」
「食べたくないなら座ってるだけでいいから」
有無を言わさずファミレスに入る。
1番端の窓際の席。ちょこんと座って、チラッとおれを見た。目が合うとそらされる。
「おれステーキ」
「・・・じゃぁ、おれも」
「ん」
「・・・食べてなかったの?」
「食べてないよ。もしかしたら涼くんが帰ってきて作ってくれるかもしれないと思ってたし」
「えっ、ずっと、食べてなかったの?」
「さすがにこの時間はもうないなと思ったら食べてたけど・・・涼くんはどうしてたの?食べてる気配なかったけど」
「・・・部屋で食パン食べてた」
「は!?」
食パン??
部屋で1人で、食べてたの??!
「・・・8枚切り?」
「・・・6枚」
「いや、間違えた。枚数はどうでも良くて・・・!ちゃんとしたもの、食べてよ!倒れるよ!?」
「食欲なくて・・・」
「・・・あのさ、」
スーツのことを聞こうとした時、ステーキが運ばれてきた。
黙って食べ始める。
お腹が空いていたのだろうか、涼くんはもぐもぐ口を動かしながらステーキを切り分けていた。
リスが必死に木の実を口に押し込んでいる感じ。
「・・・可愛い」
「っ・・・え、何?」
「あ、うん、パフェとか食べる?」
「・・・パフェ」
メニュー表を渡すと、じゃあこれ、と小さな苺パフェを指さしたので,1番大きなパフェを注文する。
久々に一緒にご飯を食べたのだ。もう少し、食べてる姿を堪能したい。
「美味しい?」
「うん・・・。・・・・・・和多流くんは?」
う・・・なんか、ジーンときちゃう。名前を呼ばれるのって、やっぱり嬉しい。
「普通」
「ふーん」
「涼くんの作った生姜焼きが食べたい」
「・・・あ、う、うん・・・」
あ、しまった。まだ怒ってるのに強請ってしまった。
そう思ったけど、涼くんは照れたように頷いて、作るよ、と言ってくれた。
「いいの?明日作ってくれる?」
「ん、」
「やったぁ。へへ。・・・あの、さ?あの、スーツ、ごめんなさい。事情を知りもしないくせに、口出ししちゃって・・・」
動きが止まる。
かちゃん、と小さな音を立ててナイフとフォークを置くと、プルプルと首を横に振った。
「・・・和多流くんは大人として、社会人として、言ってくれたのに・・・意地を張って、ごめん・・・」
「ううん。謝る必要、ないよ。おれが悪いから。できれば、大切にしてる理由とか知りたいなーって・・・」
「え?」
「無理に聞き出したいわけじゃないし話したくないとかだったら、大丈夫。なんとなく聞きたいだけで」
嘘です。
めちゃくちゃ聞きたいです。
誰にもらったの?
どうして大事なの?
そんなに思い入れがあるの?
若干そわそわしていると、じーっと大きな瞳が見つめてきた。
ステーキを食べ終えて一息つくと、口を開いた。
「あれはね、新聞奨学生だったころに奥さんが買ってくれたんだ」
「え?」
「寮、みたことあるでしょ?新聞屋の隣の。おれさ、道路側の窓のある部屋で、何度か送ってくれた時にそこから手、振ったでしょ?覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ」
「おれの部屋ってね、玄関から1番遠いんだ。だから気づかなかったんだけど、朝に起きて玄関に降りて、仕事場のドアを開けたら誰もいなかったんだ。社長1人で配達の準備をしてて、なんで誰もいないのか聞いたら、夜逃げかなって言われてね」
「・・・え!?そんなことあるの?!」
「うん、おれのいた時はそれがあって・・・確かにおれ以外の人はよく文句とか愚痴とか言ってたなーって・・・。人数が少ないからカバーするのにずっと配達してたんだけどね、頑張ってくれたからって、就活用のスーツを一緒に買いに行こうって言ってくれて。社長と奥さんとおれで買いに行ったんだ」
「・・・そう、なんだ・・・」
知らなかった。
全然知らなかった。
そのくらいの時期に、仕事が忙しいとメールで話していたことは覚えている。
体を壊してないか心配で寮の前まで行って、差し入れを渡したことも覚えている。ガサガサの手で受け取ってくれたな。次に会った時にハンドクリームを渡したのも覚えてる。
誰もいない寮で1人、過ごしていたのか。
1人で頑張って、認めてもらって、買ってもらったスーツだったのか。
「・・・社長が、すごく寡黙な人で、ちょっと怖いんだけど・・・でも、帰りにとんかつまでご馳走してくれて、ボーナスまでくれたんだ。そのお金でもう1着スーツ、買って・・・」
「ごめんね」
「え?」
「みっともないなんて言って、本当にごめんね。酷いことを言った」
「・・・ううん。おれもこの歳でリクルートスーツは変だなって思ったし、ちゃんと見たら確かにテカリがすごくて・・・人前に出る仕事なのに、流石に、ないなぁって・・・。冷静になったんだけど、和多流くんに、声がかけられなくて・・・」
「何で?」
「・・・怒っちゃったし、あと、んと、なんか・・・オーラが、その、」
「オーラ?」
「話しかけていいのかなーって、考えちゃって」
「おれが悪かったんだから、そんなこと考えないで。好きだよ。大好きだから、お願いだからそんなこと考えないで」
「えっ、あっ、あ、ありが、とぅ、」
「・・・はー・・・」
「ごめん・・・」
「違う。話ができてホッとした・・・。知れて嬉しかった・・・。あのさ、あのスーツには敵わないかもしれないけど、今度スーツ、買いに行かない?おれが買いたい」
「え?何で?」
「前からプレゼントしたいなと思ってたんだよ。あんなに大事にしてくれるなら、おれがあげたのも大事にしてくれるかなって。あのスーツはいつでも見えるところに飾っておいたらどうかな。なんていうか、願掛けみたいな・・・頑張りたい時に見る、みたいな」
「・・・そうしようかな。・・・和多流くん、ここ数日、避けてごめんね。明日は・・・ご飯、作るね」
「・・・涼くんっ・・・」
「お迎え嬉しかった。終電逃して乗れなくて、連絡しようか迷ったんだけど、都合いいかなって・・・」
「都合とか、考えなくていいよ。真っ先に連絡してよ。待ってたんだから」
「うん・・・」
安心したように頷いて、ふわりと笑った。
可愛い・・・。大好きだ。
パフェが来ると、驚いた顔をした。
あまりにも大きくて困ったように笑った。
「こんな夜中に食べて、大丈夫かなぁ」
「大丈夫だよ。若いもん」
「・・・美味しいな。おれ、お腹空いてたんだな・・・」
「よかった。食パン食べてたって聞いて心臓が冷えたよ」
「他に思いつかなくて」
「明日からたくさん食べよ。スーパーに行って、しこたま買って、作って、食べよ」
「うん」
「・・・美味しいね」
「うん、美味しい。・・・和多流くん、連れてきてくれてありがとう」
「ううん・・・。あ、のー・・・あのさ、」
「え?」
「名前、もっと呼んでくれないかなぁ」
「ん?・・・和多流くん」
「・・・んふ、嬉しい。食べたら行こうか」
「うん。あの、半分こしよ」
2人でパフェを食べて外に出る。
やばいな、明日胃がもたれるかも。でも、いいや。美味しいから。楽しいから。
車に乗ろうとした時、きゅ、と指先を握られた。
振り返ると涼くんが俯いていて、覗き込もうとすると手で顔を隠した。
「どうしたの?」
「・・・こ、このまま、家に帰ったら、多分また、自分の部屋ですごそうとすると、思う・・・」
「え・・・何で?」
「だ、だから、あの、・・・別の場所でなら、素直に、なれる気が、します・・・」
「別の場所?えっと、」
「・・・ごめん、やっぱりなし。今の、なしで・・・」
手を離そうとしたので握り返す。引っ張って抱きしめると、体がこわばった。
「・・・期待してもいいの?」
「・・・いや、あの、ムードとか、ないし、だから、」
「可愛い。すごく可愛い。素直になってほしいな」
「ん、くぅ、」
耳にキスをする。温めるようにそっと息を吹くと、ビクッと体が跳ねた。
「どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい。嬉しすぎて震えてる、おれ」
「え・・・」
「大好き。嬉しいよ。素直になれないかもしれないって、素直に言ってくれて嬉しい」
「和多流く、」
「キス、キスして。愛して」
返事を聞く前に顎に手を添えて唇を塞ぐ。
深夜のファミレスの駐車場。ムードもへったくりもないけれど。
早く触れたくてたまらなかったおれとしては、そんなことどうでもいいわけで。
早く愛したいし、愛されたかった。
寂しかった。
目一杯包み込まれたい。
「・・・和多流くん、もっと」
「うん・・・たくさんしようね」
車に乗り込んで夜の街を走る。
繋いだ指先は熱かった。
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