Evergreen

和栗

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メリクリ!

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「わぁ・・・!可愛い!」
「・・・ぅん、」
刈り上げた両サイドを撫でると、涼くんは目を伏せた。
「似合うよ。可愛いね。切る前の、長い髪も好きだったけど今も好き。大好き。可愛いねぇ」
頬を両手で包んで持ち上げると、む、としていた。
「え?」
「・・・店長さんはかっこいいって言ってくれた」
「お?あ、もちろ、」
「和多流くんの中でおれってマスコットキャラなの?」
「は?はぃ?え?何?」
「職場の年配の女の人たちから可愛がってもらってるって話したら、マスコットキャラだねって言ったじゃん」
「・・・は、はい、そうですけど、」
「おれの知ってるマスコットキャラはみんな可愛いもん。だから、和多流くんにとっておれってマスコットキャラなの?」
「ど、どうしてそうなるの?可愛いっていうのはさ、ほら、愛があふれちゃ、」
「おれも桃うさに愛があふれて可愛いって思うし、そういうことだよね」
全然違うけどね!?
なんで怒ってるの??
かっこいい、の方が良かったの?
常日頃思ってるけどやっぱりさ、ほら、可愛いが先行しちゃうって言うか・・・!!
「待って、桃うさに愛があふれてるの?おれは?」
「・・・」
「ぐあーーーー!!許せない!!打倒桃うさ!!おれの涼くんの心を奪いやがって!」
「奪われてないけど」
むすっとしたまま自分の部屋へ入っていく。
慌てて追いかけて抱きしめると、振り解かれた。
「涼くん~・・・!」
「・・・クリスマスに向けて切ったのに、バカみたい」
「な、なんでそんなふうに言うの!?可愛いんだもん!仕方ないじゃん!涼くんが言ったんじゃん、かっこいいの中に可愛いがあって可愛いが出てくるとかっこいところが全部可愛いになるって!今それなの!!」
「・・・」
「バチくそイケメンに決まってるじゃん!!でも一番最初に見せてくれたのがおれっていうのがたまんないし撫でやすいようにクイって顔を上げてくれたりクリスマスに向けてカットしたって言われたらさ、もうさ、可愛いの宝庫じゃん!かっこいい突き抜けて可愛いが過ぎるんだよ!大好き!」
「・・・」
「刈り上げ、おれが手入れするからね!クリスマス楽しみだね!当日は仕事だけどケーキとチキン買ってさ!ツリーも出そうね!」
「・・・」
「・・・え、嫌?」
ぶはっと吹き出して、ケラケラ笑い出す。
両手で顔を包んで揉みくちゃにされた。
「んぶ、」
「たまにはかっこいいって言われたいの!」
「だから、常に思ってますって」
「だから、言われたいの!おれも男だもん。たまには言われたいよ。まぁ、無理強いするものじゃないけどさ」
「・・・かっこいいよ、すごく」
う、照れる。
かっこいいけどさ、改めて口にすると照れちゃうな。



******************************



今年は何をプレゼントしようかな。
去年は指輪だったし、今年も豪華にしたいところ。でもさ、指輪以上の物って何?
車?予算的になぁ・・・。厳しい。
やっぱりここは涼くんの欲しいものを買うべきだよね。
サプライズにしたかったけど、今年はやめておこう。そのかわり、誕生日はこれでもかってくらいのサプライズを・・・。
「ただいまぁ」
助手席のドアが開いた。涼くんはため息をついて乗り込むと、顔をあげておれを見た。
「おかえり」
「・・・和多流くん、」
「ん?」
「・・・あの、おれ、朝にお金、お財布に入れてたよね」
え?お金?
確か金庫から1万円を出していた。夜、買い物に行くからって。だからおれはエコバッグを持ってここにきた訳だけど。
頷くと、またまたため息をついてお財布を出し、広げて見せた。お札がなかった。
「え」
「・・・こっちに食費、こっちにおれのお小遣いを入れてたんだけど・・・」
「え、え、え、・・・」
「帰りに確認したら、いつもと違うポケットにお財布が入ってて・・・しかも、中身全部持ってかれてて・・・お昼はあったんだ。成瀬さんとご飯食べに行ったから。その後・・・」
「盗まれたの?」
「・・・やっぱりそうなのかなぁ・・・」
ものすごく落ち込んだように声を絞り出し、黙ってしまった。
「成瀬さんに相談したら?」
「・・・でも、でも、」
「他の誰かが被害に遭うかもしれない。それに、涼くんがここで黙っちゃったらまた盗られるかもしれない。それは困るよ。気持ち悪いし」
「・・・うん、」
涼くんはそっとスマホを出すと、成瀬さんに電話をかけた。
事情を説明すると電話口で低い声が聞こえた。何と言ったのか分からなかった。しばらく話をして通話を終えると、静かに息を吐いてぎゅっと手を握った。握り返すと、もう1人盗られた人がいたらしい、と呟いた。
「え、何それ。大丈夫なの?」
「・・・いつも職員のロッカーにしまってるんだけど、今日はお昼に外に行くから、机の引き出しに入れといたんだ。でもその時はあって、お昼を食べてからまたそこにしまって、そしたら、」
「そうか、うん・・・。疑いたくないけど・・・講師か、学生なのかな」
「・・・ごめんね、」
「は?え?何が?」
「・・・生活費、」
「涼くんが謝ることじゃないよ!?盗んだ人が悪いの!」
「うん、」
「だから謝らないで。ね?大事にならないといいね。もしかしたらお金は返ってこないかもしれないけど、それは仕方ないことだから。次は持ち歩けばいいことだし」
こくこく、と頷いて、涼くんはそうだね、と力強く言った。
肩を掴んで目を合わせる。
「念の為に言っておくね。自分のお小遣い削って生活費を補填しようとしないでね?」
「・・・あ、はい、」
ひゅっと目が泳いだので、やっぱり言っておいてよかった。
まったく、すぐそういうことをしようとするんだから。


******************************


「あの、気持ちのいい話じゃないんだけど、いいかな」
「ん?」
数日経って、涼くんが食後のお茶を淹れながら呟いた。
「うん、どうしたの」
「・・・とりあえず、これ」
白い封筒を差し出されたので受け取る。中身、と言われたので見てみると、1万円札が1枚。
「どしたの?」
「・・・返ってきたんだ。盗まれたやつ」
「・・・え!?そうなの!?」
「・・・おれの、受け持ちの子で・・・。親と謝りに来て、」
「うん、そうか、そうか」
「・・・あの、ん、・・・初めてじゃなくて、常習犯だったみたい・・・」
「へぇえ!?」
変な声が出てしまった。
待って、常習犯だったってことは、日常的に人の財布からお金をとってるの?高校生が?どういうこと??
「防犯カメラ、気づかないくらい小さくて影に隠れてて、だからしっかり映ってたんだ。でね、過去に他の先生の財布からも盗ったって言ってて・・・親御さんも一緒に頭を下げてくれたんだけど、なんか・・・素直に受け入れることができなくて、」
「そりゃそうでしょ。多分またやるよ」
「成瀬さんも同じこと言ってた・・・」
「自分の受け持ちの子かもしれないけど、許さなくていいんじゃないかな。だって大変なことだよ?お金を盗むなんて」
「・・・受験のストレスって言ってたけど、違うんじゃないかなって、思っちゃったんだ」
「涼くんの生徒だもん。涼くんの感じた雰囲気が正しいんじゃないかな」
「・・・かなぁ?・・・んー・・・」
「・・・でもねぇ、お金を返してもらったって、手元に置いておきたくないよね」
「そ、それ!それなの!!」
突然大声で言うので、熱いお茶をつい口に多く含んでしまった。
ごふ、と吹き出して咳き込むと、涼くんはそんなおれに目もくれずおれの手を握って縋るように見つめてきた。
「おれね、このお金受け取りたくなくて!家にも持って返ってきたくなかったんだ!でも勝手に使うのも気が引けるし、使い道もわからないし、車の中で話そうか迷ったんだけどなんか、言いづらくて!」
「ごほ、げほ、ゔん、分かるよ、分かる。うん」
「だから和多流くん、使って!」
「嫌だよ。生活費として使おうよ」
「残るものとか買いたくないんだもん・・・」
「じゃあ明日休みだし、パーっと美味しいもの食べに行こう」
「・・・ゔー・・・それもそれで、なんか、」
「まぁ、ねぇ?お金は返したんだから無かったことにしろって言われても困るよねぇ」
「・・・」
黙り込んだので、あれ?解釈が違ったかな?と狼狽える。
ちょっと相手の子を悪く言いすぎたかなーなんて思っていたら、10万、と聞こえた。
「ん?」
「・・・最初、10万入ってた」
「・・・ほぉー・・・」
「・・・受け取りたく無かったから、そのまま返したんだけど、どうしてもって言われたから、じゃあ、1万だけって、持って帰ってきた」
「・・・じゃあ、絶対にまた、盗るよ。親も悪いよ、それ」
「・・・ちゃんと謝ってくれたら、おれは・・・」
「うん、分かる。分かるよ。辛かったね。・・・じゃあさ、おれがもらうね」
「・・・いいの?」
「うん。でね、こっちを渡すね」
「え?」
財布を持ってきて1万円を差し出す。
涼くんは首を傾げた。
「おれさ、先月どうしても手持ちがなくて、そこから借りたんだよね。覚えてる?」
「・・・あー、なんだっけ。払い込み?」
「そ。戻そうと思って忘れてたから、はい。ごめんね、勝手に出しちゃってて」
「あ、ううん。全然・・・。あの、ありがとう・・・」
「それでさ、5000円ずつ出しあってさ、めっちゃいいご飯、食べに行かない?」
「え?」
「しゃぶしゃぶかなぁ?焼肉もいいけど」
「・・・ふふ、いいね!そうしよう」
「あ!うなぎは?それか寿司!もちろん回らない方ね」
「たまにはね、いいよね」
「ね。でさ?その後ね・・・たくさんしよ。ね?」
顔が真っ赤に染まる。全くけしからん。まだ初々しい。いつまで経っても可愛いんだから。
かっこいいって言えない理由がここに全て詰まってる。どうしたって可愛いが最速で駆け抜けてくるんだもん。



******************************



「ところでさ、クリスマスなんだけどね」
「え?うん。今年はどうする?ケーキとチキンはクマさんのお店のがいいんだけど」
「うん、そうしよう。プレゼント、渡したいんだけど・・・お財布はどうかな」
「お財布??」
勝手に引き出しを開けられて、財布からお金を盗まれたんだもん。縁起も悪いし、なにより他人が触ったというのがもう、気持ち悪い。
涼くんは少し考えると、そうしようかなと言った。
「でも、いいの?いつもいつも・・・」
「えー?クリスマスプレゼント選ぶの、楽しいじゃん。だから一緒に買いに行こう?」
「和多流くんは何がいい?」
「ショートパンツのサンタコス」
「は?」
「ショートパンツのサンタコスで撮影会。そのままエッチも撮影したいです」
「・・・それプレゼント、」
「プレゼントです。お願いします」
引き攣った笑顔。曖昧に頷くと、ふぅ、息を吐いた。
「あの財布、愛着があったんだけどなぁ」
「まぁ使いやすいのがいいよね。似たようなのがいいかな」
「・・・まだ売ってるのかな。たまに見かけるんだけど」
おぉ??珍しく、お気に入りのブランドがあると見たぞ。
どこに入ってるお店なんだろう。たまに見かける、というくらいだから駅ビルかな?それともショッピングモール?
「次のお休みに行こうか」
「仕事の帰りでも行けるところだから、仕事終わりでもいい?」
「うん、うん」
わーい!お仕事終わりのデート、楽しみ!


******************************


「おれのことからかってる?」
「え?何が?」
仕事終わり、やってきたのは大きめのスーパー。そしてその片隅にワゴン。その中に大量の財布。千円均一。
就職した時に買い替えたと話していたのは覚えている。もう何年も同じものを使っているのも知っている。5年は使っているはず。
「安いし結構使いやすいよ」
「・・・」
「前は別のスーパーで買ったんだけどね」
「・・・」
「うーん、おれL字のジッパーがいいんだけど、これコの字だなぁ。色は前は黒だったから今回は、」
「ちょっとおれ怒りそう」
「えっ!?あ、ご、ごめん・・・疲れてるよね・・・早く決めるから、」
「ち!が!う!こっちに来なさい!」
無理やり駐車場に戻り、ガシッと肩を掴む。
「あのさ、もうアラサーだよ?」
「え?う、うん、」
「ブランド物の一つでも持ちなさいよ。あとね、いい年をした男がクリスマスプレゼントに千円の財布なんてプレゼントできるわけないでしょうが。それに、なんか、もう、根本的に違うから!!あのさ、成瀬さんがスーパーの千円の財布を使ってたらどう思う?おれが使ってたらどう思う!?」
「・・・え、な、何でスーパーのなのかな、とは思うかも・・・?いつもおしゃれなのにって」
「そっくりそのまま涼くんに返すから、そのセリフ!いい?明日買いに行くから!おれが使ってるお財布の!ブランドの!お店!分かった!?」
おれの剣幕に驚いたのか、涼くんは困惑したように何度も何度も頷いて、少ししょぼくれた。
少し言い過ぎたかもしれないけど、ここまでしないと分かってくれないんだもん。
とりあえず店内に戻って晩御飯の食材をカゴに入れていく。
涼くんは少しうつむき加減。でも顔を上げると、首を傾げた。
「・・・まだ怒ってる?」
「・・・ちょっとね。一応プライドもありますから」
「・・・」
「持ち物一つで印象が変わることもあるから、いいものを持っていた方がいいと思うよ。長く使えば味も出てきてかっこよくなるし、革製品なんて特にね」
「・・・カバンも?」
「無理して全部ブランドものにする必要はないよ」
「・・・知らなかった、そうなんだね」
「・・・全部教えてあげる。だから、まずはお財布から始めてみよう」
「うん」
「あとね、そのネックウォーマーもそろそろ卒業ね。スヌードにしよ」
「これは部屋で使うね」
「うん。大事にしてくれてありがとう。大事にしてくれるのが分かってるから、プレゼントも沢山したいんだよ」
「・・・あの、さ、じゃあ、あの、あのさ、」
すごく言いづらそうにもごもごと口を動かして、やっぱり後で、と言ってレジへ向かった。
コートの袖から昔渡した時計が見えた。うん、こういうとこなんだよね。こういうとこ、大好き。上手いことは言えないんだけど。
家に帰るとテキパキとご飯を作ってくれた。
相変わらず美味しいご飯だなと思っていると、パンっと箸を置く音。
「ん?どうかした?」
「・・・ほ、ほしいもの、あって、」
「え!うん、なぁに??」
お、おねだり!?うわ、うわ、久々!!
ワクワクしながら見つめていると、チラチラと上目遣いでおれを見て、少し口の端を上げた。
ぐ、可愛い・・・!
「・・・お財布、欲しい」
「うん!もちろ、」
「和多流くんの使ってるお財布」
「・・・え!?あ、今使ってるやつ?」
「うん。それで、新しいのはおれがクリスマスにプレゼントしたい・・・。ダメかな」
「ダメじゃないけど、おれのを使うの?新しいの買おうよ」
「お財布を分けたいんだ。自分のと生活費で。そうしたら、盗られたりしないでしょ」
「あ、なるほどね。うん、じゃあ今年は一緒にお財布買おうか」
「うん。楽しみだね」
「楽しみだねぇ。あとさ、今年のチキンは・・・」
クリスマスの話に花を咲かせ、涼くんはニコニコ笑う。
うん、この笑顔が見たかったんだ。楽しみだな。


******************************



「んー」
「んー?」
「うーん、・・・青がいいかなぁ」
「おれは黒かな」
「え?黒なの?」
「え?」
不思議そうに見つめられた。
黒、変かな?
前のが茶色だったし、その前も確か茶色だったから、たまにはいいかなと思ったんだけど。
「・・・あ、ううん。ごめん、なんでもない」
「えー?言って?」
「や、・・・ゔぅっ・・・!」
なぜ唸る?
いきなり顔が真っ赤になって、お店から出てしまう。
通路の真ん中にあるソファに座り込むと、パタパタと手で顔を仰いだ。
「どうしたの」
「・・・青、綺麗だから、」
「あぁ、ね。藍染めのやつでしょ?」
「・・・か、勝手に、その、同じ色を買うんだと・・・」
涼くんからの、お揃いのお誘い。
頭の中が青一色になり、黒のお財布なんてすっかり消し飛んだ。
ガシッと肩を掴んで何度も頷く。
「おれも藍染め、いいと思ってたんだ」
「でも、黒、」
「なんとなく言っただけだから。青の、お揃いにしよう。ね?」
「・・・あ、うん・・・うん、そうだね」
おれの勢いに若干引いてたみたいだけど、すぐに笑顔になってくれた。
お店に戻って吟味する。涼くんはL字のジッパーがいいって言ってたし、何となく濃い青よりも淡い方がいい気がする。夏の海を思い出した。
突き抜けるような爽やかな青空と、濃い海の色。ニコニコ笑って、浮き輪につかまってたな。可愛かったなぁ・・・。
「和多流くんは濃い青が似合いそうだよね」
「え?」
「海のさ、青がすごく似合ってて。ほら、この色が夏に行った海の色と似てるよね。いっぱい泳いでさ、和多流くん楽しそうだったよね」
胸が、苦しい。
ぎゅーっと鷲掴みにされている感じ。
お財布を見て同じ景色を思い出しているなんて、思いもしなかったよ。すごくすごく嬉しい。
「おれ、その色がいい」
「本当?」
「涼くんはこの色、どうかな」
「うんっ。これいいなーって思ってた。でさ、ね、ね、和多流くんてキーケース使わないの?」
「え?」
「これ、かっこいいなって。これも一緒に渡したい」
「・・・え?!でもこれだと予算、」
「買う。買いたい。使ってくれる?」
急にどうしたんだろう。驚いていると、店員さんに声をかけて品物を出してもらった。
同じ藍染めのキーケースも、と声をかけている。
涼くんは他に何が欲しいのか聞こうとしたけど、さっさとお会計を進めてしまった。おれも慌ててお財布を購入し、涼くんを追いかける。
「涼くん、どうしたの?」
「えー?えへへ」
「涼くん??」
「渡したいなーって思ったの。和多流くんもさ、いつもくれるじゃん」
「・・・でも、結構な値段が、」
「・・・ふふふっ。なんかね、買い物してたら楽しくなってきちゃって。これを持ってる和多流くんを想像したらね、かっこいいなぁって」
照れたように笑う。
そんなふうに思ってくれるなんて、以前の涼くんじゃ考えられなかった。
もらったものは返さないといけないと思っていたし、過剰な贈り物は受け取らなかったし、渡すことも絶対にしなかった。
「クリスマスに渡すからね」
「・・・うんっ」
こんなにも自由になったんだね。
自分の感情を受け入れて、さらけ出して、笑ってくれるんだね。
「涼くん、ご飯食べよっか。何がいい?」
「おひつに入ったご飯が出てくるお店。お茶漬けが美味しいから」
「うん、そこにしようね。美味しいよね」
お揃いのショッパーを持って歩く。あぁ、早くクリスマスにならないかな。


******************************


まぁ、ね?うん、そんなスムーズにいかないことくらい分かってたけどね??
ぼんやりとしながらテーブルに頬杖をついて、お皿を眺める。
本当ならもう帰ってきている時間だけど、涼くんはまだまだ仕事中。
夕方に残業になると連絡が来て、夜になってお迎えに行こうとしたら終わりが分からないから家で待っててと言われ・・・。
チキンとケーキを1人寂しく取りに行き、今、帰宅を待っている状況。
夜ご飯は涼くんが買い込んでいた食材を使って、本来おしゃれなクリスマスディナーになっていたであろうものとは全く逆の和食を作ってしまった。いや、もう和食かどうかも分からないけど。
涼くんのクリスマスディナーが食べたかったなぁ・・・!!
早く帰ってこないかなぁ・・・!
『ただいまー』
玄関の方で声がした。帰ってきたんだ!!
勢いよく立ち上がり玄関に飛び出ると、ちょうど自分の部屋に入ってしまったところだった。
ドアの前で話しかける。
「おかえり!遅かったね!お疲れ様!」
『うん、遅くなってごめんね』
「開けていい?」
『あ、待ってね。ごめん、まだだから』
「ね、ね、お願いだから!顔見せて!ずーっと待ってたんだよ!」
「もぉ・・・。はい」
かちゃ、とドアが開いて隙間から顔を出す。えー?!こんだけ!?
「涼くん~・・・!」
「着替えたら行くから」
「ここで待ってるね」
「・・・もぅ」
呆れたような、でもなんとなく楽しそうな、そんな感じの声。
早く出てこないかな。
ソワソワしながら待っていると、涼くんが出てきた。
そして言葉を失った。
「・・・着てみたけど、どうかな。ごめんね、赤がなくて黒なんだけど・・・」
「・・・涼くん、」
「電車の時間まで少しあったから、慌てて買ってきたんだ。恥ずかしかったけど。・・・えと、今じゃなかったかな」
黒地に白のファーがついている上着、そしてショートパンツ、レッグウォーマーは上着と同じく黒地に白のファーがついていた。
頭にはサンタの帽子。恥ずかしそうにチラチラとおれを見上げて首を傾げる。
「き、着てほしいって言ってたから・・・その、」
「世界で一番可愛くてやらしくて愛おしいサンタさんがきた」
「わぅっっ!?」
抱き上げて寝室に走る。
ベッドに押し倒して無茶苦茶にキスをしてとろけさせると、力の入らない手で肩を叩かれた。
「んぅ、ごぁん・・・!わたくんの、ごは、」
「後で、ね?ね?やっばい、可愛い・・・。脱がせたいなぁ。たくさんしようね」
「んぁっ、ちょ、ちょっと待って!」
待てなんて、できるわけないでしょうが!!!


******************************


「ケーキ食べたかったぁ」
ぶーっとした顔。唇が突き出ている。可愛いだけなんだけど、それを言ったら怒るだろうな。
昨日はご飯もケーキもチキンもほったらかしてベッドに潜り込んでいた。
朝起きて、そりゃもうカンカンに怒った涼くんに説教されて、謝ることしかできなかったのはもちろんのこと。
しっかりと着込んで玄関に立つ涼くん。抱きしめるとバシッとお尻を叩かれた。
「いった!?ご、ごめんねって・・・!ほら、今日が本番だし今夜ケーキを、」
「バカ」
「えぇ!?」
「今年も、サンタさん、やる予定だったのに!!」
きー!!と感情的に怒って、涼くんは出て行った。
おいおい。
今年もサンタさんをやる予定だったって、めちゃくちゃ可愛いんですけど??
サンタさんだったじゃん。黒サンタ、めちゃくちゃ可愛かったよ??もしかしておれが買っておいた赤サンタのショートパンツコスプレもしてくれる予定だったの?それとも・・・。
・・・おれが去年、サンタさんがきたの初めてだって言ったの、覚えてたの・・・?
顔が熱くなる。もしそうだったら、結構、いや、かなり嬉しい。今日こそお迎えに行かないと。
どんなに遅くなっても、時間が分からなくても、必ず行こう。



******************************



ソワソワしながら駅で待つ。
昼頃に「定時で上がる」と連絡がきてそそくさとお迎えに来た。
公園で待っていようかと思ったけど、なんとなくクリスマスの街並みを見て雰囲気を味わいたくて、ここまで来てしまった。
もちろん、プレゼントも持ってきましたよ。
息をつけば真っ白く吐き出される。今日もなかなかに寒いな。
ぼーっと人の流れを見ていると、少し離れたところで子供が転んだ。手に持っていた、お菓子がたくさん入ったクリスマスブーツが転がっていく。
はしゃいで、足元が見えなくて転んだのかも。
あんな風にはしゃいだことなんてない。一番最低なクリスマスは、家に入れなかったこと。もう、思い出したくもない。
胸がチクチクする。指先も痛くなってきた。あーあ、クソッタレ。
「おまたせ」
声がして顔を上げると、涼くんがいた。
「あ、おかえり」
「何でこっち?」
「えー?クリスマスだし、イルミネーションでもと思って」
「そんな険しい顔して見るの?」
「え?」
言われて気づいた。慌てて指先で伸ばすと、不思議そうな顔をされた。
少し考え込んだ後、大丈夫?と尋ねられた。
「何か嫌なことでもあった?」
「・・・あー、昔のこと思い出してた」
「ふぅん・・・?何で?」
「え?あー、なんでかな」
「そんな顔してたら、サンタさんこないよ」
「へ?!」
行くよ、と言われて慌ててついていく。
イルミネーションも、ショーウィンドウの飾りも、綺麗だった。見ているだけでも楽しい。
隣に涼くんがいるから、もっと楽しい。
「生徒がいるかもしれないから、少しだけね」
「うん、ありがとう」
「・・・来年は、もっと早く帰るね」
「本当?嬉しい」
「ご飯もさ、クリスマスメニューとか、考えるし」
「うん。あれ食べたいな、ラザニア?」
「明日作ろうか?」
「え!ほんと?やった」
涼くんがおれを見て微笑んだ。嬉しくて浮かれてしまうけど、落ち着かないと。イルミネーションを見て車へ戻る。
エンジンをかけると、ちょんっと指先が触れた。
「ん?」
「・・・これ、プレゼント」
そっとリュックから取り出したのは、おれが持っているバッグと同じもの。うそ、持ってきてくれたんだ?
受け取っておれも同じように渡すと、目を合わせて笑った。
「ありがとう」
「おれも、ありがとう。へへへ。帰ったら入れ替えようね」
「うん。ね、目、閉じて」
「え?」
「早く」
目を閉じると、冷たい指先が頬に触れた。
そのまま引き寄せられて、唇に柔らかなものが触れる。
涼くんの唇だ。温かくて気持ちいい。そのまま触れるだけのキスを楽しんで、そっと離れた。目を開けると、なぜか目の前が真っ赤。
「わっ!?」
「はい」
「え??なにこれ」
「サンタさんから預かったの」
渡されたのはお菓子の入ったブーツ。さっき転んだ子供が持っていたものと同じブーツだった。
懐かしい駄菓子がたくさん入っていた。
「・・・サンタさんが持ってきたの?」
「そうだよ」
何の躊躇もなく、そう言うから。
「・・・ふふ、ふ、ふふふ、あははははは!」
「なにさ!せっかく預かったのに!」
「めっちゃくちゃ嬉しい!ありがと!」
子供の頃のおれが見たら、きっと、救われると思うんだ。
こんなに幸せな未来があるなら腐らずに生きてみようって、きっと思えるはずだ。
「忘れた?」
「え?」
「嫌なこと」
「・・・あ、忘れてた」
「よかった。ね、帰ろ」
「待って。おれね、キーケースもすごく楽しみだったんだよ。今開けていい?」
「いいよ」
「・・・へへ、かっこいいな、藍染」
「でしょ」
「今年はたくさんもらっちゃったな」
「おれは毎日もらってるから」
「え?」
「へへっ。帰ろ」
ニコッと笑う。
外は寒いけど胸はポカポカ。涼くんがいるから暖まる。
早く帰ってもっと暖まらないとね。



******************************



「ところでさ、なんで黒サンタ、着てくれたの?」
家に帰ってきて、昨日食べ損ねたチキンと、おれが作ったおかずの残り、そして涼くんが追加で作ってくれたクリームシチューを食べた。
ケーキだってたっぷり食べた。そして、恐る恐るお願いしてみたら、なんとなんと赤サンタのコスプレもしてくれた。
しっかり抱き合って、今は一息ついてイチャイチャ中。足を絡めるとすり、と寄ってくれた。
「え?んー・・・喜ぶかなと思って」
「めちゃくちゃ嬉しかった。エロかった」
「・・・赤サンタの方が際どかったけど」
ヘソ出しショートパンツサンタさん・・・そしてガーターベルト。全部赤で統一されて白い肌によく映えていた。もちろん全部脱がしちゃったけど!
「涼くんが自主的に着てくれたのが嬉しかったし、エッチだった」
「たまには和多流くんも着てよ」
「えー?おれ?サンタ?」
「トナカイでもいいよ」
「おれが着ると着ぐるみ感増さない?」
想像したのだろう。吹き出して肩を揺らして笑った。
ぶに、とお尻をつまむと、笑いながらおれの上に乗ってぺたりと体を重ねてくれる。
人肌って温かくて気持ちいいな。
「もう年末だね」
「そうだねぇ・・・」
「和多流くんに告白されたこと、思い出すなー」
「やめて」
「なんで?嬉しかったよ」
「家出したくせに」
「幸せすぎて怖かったの」
照れたように笑って、おれの唇を撫でる。
まぁそういう理由なら?いいけど?
ガバッと抱きしめて布団の中に潜り込む。たっぷりと愛し合って、たっぷりと抱き合う。
今年もいいクリスマスでした。
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完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

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