難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

文字の大きさ
78 / 93
2章

38-1

 ――

「……ん……あさ……?」

 白い光が瞼を刺激し、その眩しさからゆっくりと目を開いてまず飛び込んで来るのは茶色の天井。
 横からは規則正しい寝息が聞こえる。どうやら俺を抱き締めたままの彼は、まだ夢の中のようだ。
「おはよう、イーサン」と気持ち良さそうに眠る彼の頬を撫で、陽の差し込む部屋を見回す。

「……いま何日……? どれくらい時間経ったんだろ……」

 現代日本形式のナンパを受けたあの日から、イーサンは本当に俺を部屋に閉じ込めた。
 ――そして、愛し続けた……正直どのくらいの時間が経ったのか分からない程に。

「……っ、ん……」
 ゆっくりと起き上がると、下腹部に違和感を感じる。まだ彼自身が俺の中に居るような……けれど実際そこは彼の為に拡がった穴があるだけで、何も入ってはいない。
「……なんか、繋がってないと寂しいな……」
 前回目が覚めた時、そこには彼のソレが嵌ったままだった。「い、入れたまま寝ちゃった……!?」と人生初の体験に焦っていると、 目を覚ましたイーサンが「なんだ……目覚めたばかりなのに気持ちいいな」なんて言葉を掠れた声で呟きながら、まだ気怠げな俺の身体を早々に貪り始めた。
「……寝ぼけ眼の絶頂は……エグい程良かったです、ハイ」
 まだ彼の意識がないのをいい事に、そんな恥ずかしい本音をポツりと呟いた。

「そういえばお腹空いたな」
 致してばかりいたこの数日。
 部屋の冷蔵庫に予め用意してあった簡単なパンやスープを、イーサンと分け合うどころか一緒に食べたり食べさせあったりしただけなので、充分に食事を摂ったとは言える筈もない。
 ……正直、もうイーサンが居ればそれだけで全てが満たされたので、空腹を感じる事は無かったのだが

「確か飲み物もなくなっちゃってたし……起きたらイーサン、水欲しがるよね」
 食事は後で食べに行くとしても、水分は欲しいだろう。なにより、水分不足は身体に良くない。
 「買いに行くか」と呟き、艶やかな頬に口付けると、ベッドを降りた先にある窓辺へと足を向けた。

「綺麗な景色だなぁ。とてもじゃないけど魔境の街だとは思えないよ」

 青い空、そして眩しいばかりの太陽を照り返すキラキラ輝く水面。その美しさについ視線を奪われてしまう。
 コバルトブルーの海を背景に、オレンジ色の屋根に白壁の家々が立ち並ぶ様子はリゾート地さながら。実際、バカンスを楽しむ貴族たちの姿がそこかしこに存在する。
「少しだけでもいいから、イーサンと海に行ってみようかな」

「いいぞ、連れてってやる」
 ふわっと、まるでベールでも纏ったかのように俺の身体が甘い香りに包まれる。
 その心地良さに目を細めながら、背中からぎゅっと包み込んでくれる彼の方を振り向いた。
「おはよ、イーサン。起こしちゃったかな? ごめんね」
「ん、おはようアオ。いや、起きてたから問題ない」
 ちゅっと目覚めのキスを受け取りながら、同時に彼が発した言葉にハッとした。
「……起きてた、って……いつ、から……」
 まって、俺……イーサン寝てると思って普段ではお聞かせ出来ないあれやこれ等の独り言呟いた、よね?
 サァァっと血の気が引いていく俺の顔を見るや、イーサンはこの世の愉悦とばかりに極上の笑みを浮かべる。
「安心しろよ、夜にまた……入れてやるから」
「……っっ!! お願い、忘れて、頼むからぁ……」
 いつも以上に眉を下げて懇願する俺を、彼は「はははっ」と楽しそうに笑っていた。

>>>


「わぁぁ!!  すごい……綺麗ッッ」

 白い砂浜、真っ青な空、そしてどこまでも美しく広がる透き通った海。
 そんな大自然の美しさを、全身で感じる心地良さと言ったら。
「マクスマイザは危険な地であると同時に、世界有数のリゾート地でもあるんだ」
 両手を大きく上げ、澄んだ空気をその身に受けているとすぐ隣に立つイーサンが俺の腰に腕を回す。
「へぇ、そうなんだ……だから観光客っぽい人多いんだね」
 辺りを見回すと、浜辺を歩く人達が大勢といる。そして決まって彼らは護衛と言わんばかりの屈強な男達を従えている……間違いなく富裕層の観光客なのだろう。
 老若男女皆、水着やラフな姿でこの楽園を楽しんでいるのだが……当然、俺に絡み付くように立つ隣の男も然り。
「あぁ、貴族の間では人気の観光スポットだな……ん? 何がおかしい」
「いや、めちゃくちゃ似合ってるなぁって……その格好」
 ネイビーのゆったりとしたシャツにベージュのハーフパンツ。少し大きめのサングラスを付けたその装いは、どこからどう見てもお忍びでバカンスに来た有名人。
「そうか? アオも最高に可愛いぞ」
 俺も俺で、再び赤茶色へと戻した髪色にイーサンと色違いのピンクと白のコーデ、ついでにこれまた大きなサングラスを掛けている。
「俺らもバカンス中の貴族ってかんじ?」
「ハネムーン中の新婚夫婦でもいいぞ」
「ばっ、か……気が早いって」
「そうか? 俺の方はいつでも貰い受ける準備は出来ているが」
 そう言ってイーサンは俺の左手を握り、薬指に嵌めた指輪を愛おしそうに指でなぞる。
 彼から貰った愛の証を慈しむ仕草は、まるで俺の心を撫でるかのようで……思わず擽ったそうに微笑む。
「……じゃぁ無事アトランティウムに帰れたら……とか?」
「そうだな、約束だ」
 赤い顔でそう呟く俺の反応にイーサンは満足したのだろう、それ迄撫でていた左手を持ち上げ、手の甲に約束の口付けを落とした。



あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される