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1章
3-1
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「あのー……そう毎日来られても、抜糸までやる事が無いのだけれど」
左側にホクロを携えたぷっくりとした唇が、思わず引き攣り笑いを浮かべる。
イーサンの腕を縫ってから5日が経った。
確かに、「次の日、消毒に来い」とは言ったよ。その後俺さ、「じゃぁ1週間後に糸を取るから、それまでは何かあったら来てね」って言ったよね。
どうして毎日毎日診療所に来るのかなぁ。
騎士団長って暇なのか。
「別に、何もやらなくていいだろ」
漆黒の軍服を身に纏う彼は、そう言って診療部屋のあの堅い丸椅子に座っている。装いから見て恐らく勤務中なのだろう。まさかの白昼堂々サボりとは。
「やらなくていいなら何で来たの……」
さすがに俺の口から溜め息が漏れる。
もう、本当に何がしたいのか意味がわからん。
唯一分かっている事。それは初めて食事をした日から、やたらとイーサンが俺に懐いているということだけ。
あの日だって結局、普通に食事をして「じゃぁまた」と解散しただけなのに。一体何が彼をそうさせているのか皆目見当もつかない。縫合に感動していたし、物珍しい技術が彼の好奇心を刺激でもしたんだろうか。
「この後飯行くから、空けとけよ。……まぁ空いているか」
「えっ、今日も?」
偉そうに足を組み換えた彼が静かな待合に目を遣った後、驚き顔の俺に平然とした顔でそう告げる。
なにを隠そう今日に至るまで、毎日夕方前に診療所へとやって来ては、そのまま食事を共に摂るという流れが出来上がっていた。
――どう、して……
確かに、彼の行きつけである酒場の飯も酒も美味いしその点に不満はない。それに絶対気まずいだろうと思ってたはずのイーサンとの時間は……それなりに楽しくあるからまた厄介だ。
「当然だろ。そういえば、結局まだここは閉めたままなのか?」
「当、然。……診療所のことかな。うん、魔法の調子が戻らなくてね」
「全く使えないという訳か?」
彼の言葉に、開けっ放しにしてある診療室のドアの向こうの、伽藍とした薄暗い待合室に視線を向ける。
結局、魔法の使い方は一向に思い出す事が出来ない。
「……ヒール」
おもむろに手を伸ばし、なんとか記憶の片隅にあった魔法の言葉を口に出してみる。
指先から放たれたものは『静寂』
「……成程」
イーサンの反応に苦笑いをしながら、宙に浮かんだままの手を己の胸へと戻した。
「診察出来ないわけじゃないんだけど物理の道具が揃ってないから、対応出来ない症例が来たら困るかなって」
「それはそうか。……案外真面目なんだな」
「なんだよ、案外って」
少しキョトンとした彼に、本日2度目の苦笑いが零れた。
あの日から入口には『本日休診』の札が掛けられたままになっている。
「でもなぁ、どうにかしないとこのままじゃ食い扶持が……」
ため息混じりにそう漏らした言葉を聞いたイーサンは「ふむ」と腕を組み、何かを考えている。
暫くして彼は、薄く綺麗な形の唇を開いた。
「なら俺が、お前を専属の医者として雇ってやろうか」
「は……?」
そこから発せられた思ってもいない言葉に、頭を掻く手がピタッと止まり……そして次の瞬間、彼に目を奪われた。
ただでさえ造形完璧の顔が、見た事ない程綺麗に笑ったから。
「俺のものになれよ、アオ。うん、決まりだな」
「いや、何言って……」
グイッと身を乗り出す彼に、思わず俺は仰け反る。
いや、近いって。
吐息がかかりそうな程の場所に迫ったそのご尊顔をまともに見る事が出来ず、大きく顔を背ける。
「悪い話じゃないだろ? ずっと俺の傍に居ろよ。……生涯、養ってやるから」
彼の前へと差し出された耳に甘い吐息と言葉が掛かり、カァッと一瞬で顔が熱を持ち始める。
「な、何言い出すの急に……自分が何言ってるか分かってる!?」
だってそれ……もはやプロポーズじゃん!? 急展開にも程がある!
……これだから、乙女ゲームの主役は!!
間近に迫る彼から逃げ場を見い出せず、オロオロしている……そんな時だった。
「だんちょー!! いるんでしょ、だんちょー!!」
入口ドアが大きく叩かれ、俺たちの動きはピタッと止まった。
「あのー……そう毎日来られても、抜糸までやる事が無いのだけれど」
左側にホクロを携えたぷっくりとした唇が、思わず引き攣り笑いを浮かべる。
イーサンの腕を縫ってから5日が経った。
確かに、「次の日、消毒に来い」とは言ったよ。その後俺さ、「じゃぁ1週間後に糸を取るから、それまでは何かあったら来てね」って言ったよね。
どうして毎日毎日診療所に来るのかなぁ。
騎士団長って暇なのか。
「別に、何もやらなくていいだろ」
漆黒の軍服を身に纏う彼は、そう言って診療部屋のあの堅い丸椅子に座っている。装いから見て恐らく勤務中なのだろう。まさかの白昼堂々サボりとは。
「やらなくていいなら何で来たの……」
さすがに俺の口から溜め息が漏れる。
もう、本当に何がしたいのか意味がわからん。
唯一分かっている事。それは初めて食事をした日から、やたらとイーサンが俺に懐いているということだけ。
あの日だって結局、普通に食事をして「じゃぁまた」と解散しただけなのに。一体何が彼をそうさせているのか皆目見当もつかない。縫合に感動していたし、物珍しい技術が彼の好奇心を刺激でもしたんだろうか。
「この後飯行くから、空けとけよ。……まぁ空いているか」
「えっ、今日も?」
偉そうに足を組み換えた彼が静かな待合に目を遣った後、驚き顔の俺に平然とした顔でそう告げる。
なにを隠そう今日に至るまで、毎日夕方前に診療所へとやって来ては、そのまま食事を共に摂るという流れが出来上がっていた。
――どう、して……
確かに、彼の行きつけである酒場の飯も酒も美味いしその点に不満はない。それに絶対気まずいだろうと思ってたはずのイーサンとの時間は……それなりに楽しくあるからまた厄介だ。
「当然だろ。そういえば、結局まだここは閉めたままなのか?」
「当、然。……診療所のことかな。うん、魔法の調子が戻らなくてね」
「全く使えないという訳か?」
彼の言葉に、開けっ放しにしてある診療室のドアの向こうの、伽藍とした薄暗い待合室に視線を向ける。
結局、魔法の使い方は一向に思い出す事が出来ない。
「……ヒール」
おもむろに手を伸ばし、なんとか記憶の片隅にあった魔法の言葉を口に出してみる。
指先から放たれたものは『静寂』
「……成程」
イーサンの反応に苦笑いをしながら、宙に浮かんだままの手を己の胸へと戻した。
「診察出来ないわけじゃないんだけど物理の道具が揃ってないから、対応出来ない症例が来たら困るかなって」
「それはそうか。……案外真面目なんだな」
「なんだよ、案外って」
少しキョトンとした彼に、本日2度目の苦笑いが零れた。
あの日から入口には『本日休診』の札が掛けられたままになっている。
「でもなぁ、どうにかしないとこのままじゃ食い扶持が……」
ため息混じりにそう漏らした言葉を聞いたイーサンは「ふむ」と腕を組み、何かを考えている。
暫くして彼は、薄く綺麗な形の唇を開いた。
「なら俺が、お前を専属の医者として雇ってやろうか」
「は……?」
そこから発せられた思ってもいない言葉に、頭を掻く手がピタッと止まり……そして次の瞬間、彼に目を奪われた。
ただでさえ造形完璧の顔が、見た事ない程綺麗に笑ったから。
「俺のものになれよ、アオ。うん、決まりだな」
「いや、何言って……」
グイッと身を乗り出す彼に、思わず俺は仰け反る。
いや、近いって。
吐息がかかりそうな程の場所に迫ったそのご尊顔をまともに見る事が出来ず、大きく顔を背ける。
「悪い話じゃないだろ? ずっと俺の傍に居ろよ。……生涯、養ってやるから」
彼の前へと差し出された耳に甘い吐息と言葉が掛かり、カァッと一瞬で顔が熱を持ち始める。
「な、何言い出すの急に……自分が何言ってるか分かってる!?」
だってそれ……もはやプロポーズじゃん!? 急展開にも程がある!
……これだから、乙女ゲームの主役は!!
間近に迫る彼から逃げ場を見い出せず、オロオロしている……そんな時だった。
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入口ドアが大きく叩かれ、俺たちの動きはピタッと止まった。
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