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1章
10
「わざわざ届けに来てくれたのか?優しいな、アオは」
「仕事に必要なものだったら困るかなと……その、思って……」
なんで……なんで俺、膝の上に乗せられてんの!?
全員が部屋から出て行った後、部屋の中央に置かれた革張りのソファで俺たちは抱き合っていた。
「ちょっ、ちょっと降ろして……」
もちろん俺が望んでこうなった訳ではないし、「やめろ」と暴れたが、体幹の強さなのかイーサンはびくともしない。
「大人しくしてないと、落ちるぞ」
その言葉にビビった俺は彼の腕の中で小さくなり、今に至る。
恥ずかしすぎる。誰も見ていないとは言えこんな……
あまりにも近過ぎる距離故に、先程からイーサンの甘い香りが全身に纏わりついて、顔が赤くなるのを抑えられない。
「身体、つらいところはないか? 飯はちゃんと食ったか?」
「平気。ご飯は、食べたよ。……すごく美味しかった」
否応なしに俺の声は上擦る。
「そうか。今度アオが好きな物作ってやるからな」
先程の怒り狂った人物と同一人物かと疑う、蕩けた表情で彼は、俯く俺の唇を貪り始める。
「っぁ、な、何してるんだよイーサン……こんなところで」
「アオを愛でている。……可愛い。今すぐ食べてしまいたい程に愛おしいな、お前は本当に」
「何言って……」
そんな恥ずかしい台詞を吐きながら甘い口付けは続く。
これが攻略対象の真の実力なのだろうか。
――自分が愛されていると、勘違いしてしまう。
いたたまれなくなり唇が開放されると同時に、両手で最高沸点に達している自分の顔を覆い隠した。
「そういえば、そろそろ『抜糸』というやつだろう? 楽しみだな、アオの処置をまた間近で見られるのは」
ご機嫌な彼の口から次に放たれた言葉に、上がり切った体温がサアッと冷め始める。
――あぁ、そうだった。イーサンの興味があるのは、俺ではなくあくまで俺の治療。ギルバートだって、さっきそう言っていたじゃないか。
どうしてだろう。左胸がズキンと痛む。
「そうだね。明日あたり、やってもいいんじゃないかな」
顔を上げ少しだけ困ったように笑う俺を、彼は不思議そうに見つめていた。
「そういえば、アオに聞きたい事があったんだ」
サラサラと俺の銀髪を梳くように撫でるイーサンが改まって言うと、今度は俺が不思議そうに、切れ長で美しい瞳を見つめ返した。
「なに?」
すると、それまで優しい表情だった彼の表情が一変、真面目で何処か冷たい顔へと変化した。
「男とヤるの、この身体は知らないけど俺は初めてだ、というのはどういう意味なんだ」
「……は、い……?」
思いもよらない台詞に、俺の両眼はうっかり零れ落ちそうになる。
言った!? 昨日最中に俺、言ったのかそんな事。……だめだ、快楽に溺れすぎて全く記憶がない。
「……お前は、誰だ」
「……っ!! 誰、って……」
髪を撫でる事を止めた彼は、逃げられないよう両手で俺の顔を挟み、じっと怖い顔で俺を見つめ続けている。彼の冷ややかな瞳には、困りきって眉を下げている顔が鮮明に映し出されていた。
ゴクリと大きく唾を飲み込む。
きっと適当な事言ったって、直ぐにバレてしまうだろう……先程から強い視線が俺にそう告げている。
「……そ、それは……」
「待った」
そう彼は、俺の言葉を制止した。
「え?」と目を開いたのも束の間、再び柔らかい唇が俺の口を塞いだ。ヌルッと舌同士が擦り合わさったかと思えば、そこにチカッとした痛みが生まれる。
「っ……痛っ……」
突然の事にビクッと肩を揺らせるも、イーサンは中々唇を離そうとはしない。散々貪られた唇が漸く離れた時には、2人の唇は銀糸で繋がれていた。
「今、お前に呪をかけた」
「…は、はぁ?」
口元を拭う事もなく、イーサンは真面目な顔でそう告げた。甘い行為とは正反対の「呪」という言葉は途端に俺の中に緊張感を走らせ、ギシッと鳴る革ソファの音にさえ身体が敏感に反応する。
――俺、何されるの……死ぬのか?
怯えきった小動物の様な俺に、肉食獣の王さながらのイーサンはニヤリとその立派な口元を歪める。
「もしその口が俺に嘘偽りを告げた瞬間、お前の身体はとてつもない熱で犯される。しかもその熱は、術者の俺でしか解放出来ない」
刺さるような彼の視線が、それが真実である事を告げているような気がした。
「なん、だよ、それ」
否応にも緊張感が露になる俺を、イーサンは「ふっ」と鼻で笑っている。
「まぁ酷く犯されたい時は、好きな様に嘘偽りを発するがいい。人間、そんな日もあるからな」
彼は満面の笑みでそう告げるが……いや、そんな日があってたまるかよ。つまり「俺は今後イーサンに嘘をつく事が出来ない」そういう事になるのか。
「それを踏まえた上で、どういう事か教えて貰おうか」
彼の声は真剣そのもの。
「熱に犯される」とはつまり、先日間違えて催淫術をかけた、あの様な状態になると言うことだろう。さすがにそれは御免だ。
どの道誤魔化しは一切通用しない。
諦めた俺は、あの日イーサンの縫合をする直前に自分の中に起こった事を、溜め息交じりに話す事とした。
>>>
「成程、な。つまりアオには前世の記憶があって、今はその前世の人格が身体を乗っ取っていると」
「そういう事になる、かな」
流石に「貴方はゲーム内の人間です」とは言えず、それ以外の全ての事を告げた彼は、目を伏せ顎に手を置き唸っている。
……と、いうか俺はいまだ膝の上に乗ったままなのだが。こんな真剣な話してんのに間抜け過ぎやしないだろうか。
「流石に」と思い降りようと試みたが、彼の片手が腰にしっかりと回っており、それは叶わない様子。
熱い情景とは裏腹に、部屋は静まり返ったままだ。
漸く、納得する答えを導いたのか、イーサンが「そういう事か」と呟くと、再び俺の方へと顔を向けた。
「その話は信じるとしよう。今現在、アオの身体に何の異変も起こっては居ないようだし、それなら合点がいく」
「合点って、一体何の?」
「俺が診療所に行ったのは、あの日が初めてじゃない。当然、お前の姿をこれまで何度も見ている訳だが……あの日は何故かやけに生き生きしているように見えた。それまでは正直、機械仕掛けだと言われても納得の態度だったんだがな」
「な、なるほど」
そこまでバッサリ言われると苦笑うしかない。まぁゲームの中の俺は間違いなく死んだ目で、決められた言葉を吐くだけのつまらない人間だったからな。
「ところでアオ。……その『呪』、本物だと思うか?」
己の中での答え合わせが済んだのか、イーサンは口許を手で覆ったまま、じっとりと俺を眺める。……その掌の奥がニヤリと弧を描いたのを俺の両眼は見逃さなかった。
「なにそれ……もしかして、俺の事騙してた!?」
片口角を吊り上げて笑うイーサンの表情からは、それが嘘か誠か全くもって読み取ることが出来ない。
「さぁ、な? ……試してみればいいんじゃないか」
――悪魔が、俺にそう囁いた。
「仕事に必要なものだったら困るかなと……その、思って……」
なんで……なんで俺、膝の上に乗せられてんの!?
全員が部屋から出て行った後、部屋の中央に置かれた革張りのソファで俺たちは抱き合っていた。
「ちょっ、ちょっと降ろして……」
もちろん俺が望んでこうなった訳ではないし、「やめろ」と暴れたが、体幹の強さなのかイーサンはびくともしない。
「大人しくしてないと、落ちるぞ」
その言葉にビビった俺は彼の腕の中で小さくなり、今に至る。
恥ずかしすぎる。誰も見ていないとは言えこんな……
あまりにも近過ぎる距離故に、先程からイーサンの甘い香りが全身に纏わりついて、顔が赤くなるのを抑えられない。
「身体、つらいところはないか? 飯はちゃんと食ったか?」
「平気。ご飯は、食べたよ。……すごく美味しかった」
否応なしに俺の声は上擦る。
「そうか。今度アオが好きな物作ってやるからな」
先程の怒り狂った人物と同一人物かと疑う、蕩けた表情で彼は、俯く俺の唇を貪り始める。
「っぁ、な、何してるんだよイーサン……こんなところで」
「アオを愛でている。……可愛い。今すぐ食べてしまいたい程に愛おしいな、お前は本当に」
「何言って……」
そんな恥ずかしい台詞を吐きながら甘い口付けは続く。
これが攻略対象の真の実力なのだろうか。
――自分が愛されていると、勘違いしてしまう。
いたたまれなくなり唇が開放されると同時に、両手で最高沸点に達している自分の顔を覆い隠した。
「そういえば、そろそろ『抜糸』というやつだろう? 楽しみだな、アオの処置をまた間近で見られるのは」
ご機嫌な彼の口から次に放たれた言葉に、上がり切った体温がサアッと冷め始める。
――あぁ、そうだった。イーサンの興味があるのは、俺ではなくあくまで俺の治療。ギルバートだって、さっきそう言っていたじゃないか。
どうしてだろう。左胸がズキンと痛む。
「そうだね。明日あたり、やってもいいんじゃないかな」
顔を上げ少しだけ困ったように笑う俺を、彼は不思議そうに見つめていた。
「そういえば、アオに聞きたい事があったんだ」
サラサラと俺の銀髪を梳くように撫でるイーサンが改まって言うと、今度は俺が不思議そうに、切れ長で美しい瞳を見つめ返した。
「なに?」
すると、それまで優しい表情だった彼の表情が一変、真面目で何処か冷たい顔へと変化した。
「男とヤるの、この身体は知らないけど俺は初めてだ、というのはどういう意味なんだ」
「……は、い……?」
思いもよらない台詞に、俺の両眼はうっかり零れ落ちそうになる。
言った!? 昨日最中に俺、言ったのかそんな事。……だめだ、快楽に溺れすぎて全く記憶がない。
「……お前は、誰だ」
「……っ!! 誰、って……」
髪を撫でる事を止めた彼は、逃げられないよう両手で俺の顔を挟み、じっと怖い顔で俺を見つめ続けている。彼の冷ややかな瞳には、困りきって眉を下げている顔が鮮明に映し出されていた。
ゴクリと大きく唾を飲み込む。
きっと適当な事言ったって、直ぐにバレてしまうだろう……先程から強い視線が俺にそう告げている。
「……そ、それは……」
「待った」
そう彼は、俺の言葉を制止した。
「え?」と目を開いたのも束の間、再び柔らかい唇が俺の口を塞いだ。ヌルッと舌同士が擦り合わさったかと思えば、そこにチカッとした痛みが生まれる。
「っ……痛っ……」
突然の事にビクッと肩を揺らせるも、イーサンは中々唇を離そうとはしない。散々貪られた唇が漸く離れた時には、2人の唇は銀糸で繋がれていた。
「今、お前に呪をかけた」
「…は、はぁ?」
口元を拭う事もなく、イーサンは真面目な顔でそう告げた。甘い行為とは正反対の「呪」という言葉は途端に俺の中に緊張感を走らせ、ギシッと鳴る革ソファの音にさえ身体が敏感に反応する。
――俺、何されるの……死ぬのか?
怯えきった小動物の様な俺に、肉食獣の王さながらのイーサンはニヤリとその立派な口元を歪める。
「もしその口が俺に嘘偽りを告げた瞬間、お前の身体はとてつもない熱で犯される。しかもその熱は、術者の俺でしか解放出来ない」
刺さるような彼の視線が、それが真実である事を告げているような気がした。
「なん、だよ、それ」
否応にも緊張感が露になる俺を、イーサンは「ふっ」と鼻で笑っている。
「まぁ酷く犯されたい時は、好きな様に嘘偽りを発するがいい。人間、そんな日もあるからな」
彼は満面の笑みでそう告げるが……いや、そんな日があってたまるかよ。つまり「俺は今後イーサンに嘘をつく事が出来ない」そういう事になるのか。
「それを踏まえた上で、どういう事か教えて貰おうか」
彼の声は真剣そのもの。
「熱に犯される」とはつまり、先日間違えて催淫術をかけた、あの様な状態になると言うことだろう。さすがにそれは御免だ。
どの道誤魔化しは一切通用しない。
諦めた俺は、あの日イーサンの縫合をする直前に自分の中に起こった事を、溜め息交じりに話す事とした。
>>>
「成程、な。つまりアオには前世の記憶があって、今はその前世の人格が身体を乗っ取っていると」
「そういう事になる、かな」
流石に「貴方はゲーム内の人間です」とは言えず、それ以外の全ての事を告げた彼は、目を伏せ顎に手を置き唸っている。
……と、いうか俺はいまだ膝の上に乗ったままなのだが。こんな真剣な話してんのに間抜け過ぎやしないだろうか。
「流石に」と思い降りようと試みたが、彼の片手が腰にしっかりと回っており、それは叶わない様子。
熱い情景とは裏腹に、部屋は静まり返ったままだ。
漸く、納得する答えを導いたのか、イーサンが「そういう事か」と呟くと、再び俺の方へと顔を向けた。
「その話は信じるとしよう。今現在、アオの身体に何の異変も起こっては居ないようだし、それなら合点がいく」
「合点って、一体何の?」
「俺が診療所に行ったのは、あの日が初めてじゃない。当然、お前の姿をこれまで何度も見ている訳だが……あの日は何故かやけに生き生きしているように見えた。それまでは正直、機械仕掛けだと言われても納得の態度だったんだがな」
「な、なるほど」
そこまでバッサリ言われると苦笑うしかない。まぁゲームの中の俺は間違いなく死んだ目で、決められた言葉を吐くだけのつまらない人間だったからな。
「ところでアオ。……その『呪』、本物だと思うか?」
己の中での答え合わせが済んだのか、イーサンは口許を手で覆ったまま、じっとりと俺を眺める。……その掌の奥がニヤリと弧を描いたのを俺の両眼は見逃さなかった。
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