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1章
32
「本当に乗り込む気はないんだろうな」
部屋の扉が閉まると同時に、俺の身体は痛い程抱き締められ、その唇を貪られる。
「んっ、……はっ……ない、よ……っ……」
激しく舌が絡まり、息は絶え絶えに。閉じた扉に背中を押し当てられ、苦しい程の口付けを何度も繰り返される。
「本当か? ……お前、自分を責めていないか」
漸く解放され「はぁはぁ」と吐かれる荒い吐息の先から、海のような眼光が俺をじっと捉えている。
何もかもを見透かしているような強い視線に、思わず肩が震え、それから逃げるように顔を背けた。
「……別に、そんなこと……」
落とした視線の先には、冷たい大理石の床に2人の影が重なっている。
「ちゃんと目を見て言えって」
少し苛立ったような口調でそう言った彼は、俺の顎を掴むと自分の方へと向かせる。
「……俺の、所為だ……なんて……」
眉間に色濃い皺が寄る顔にじっと見詰められると、嫌でも言葉が詰まってしまう。
「前も言ったな。お前の所為じゃない、悪いのは襲った方だ。お前は立派に医者としての責務を果たした……そうだろ?」
「う、ん。……ありがとう、イーサン」
彼の首に腕を回しキスを強請ると、すぐさま彼はそれに応えてくれる。
あぁ……このまま、イーサンの腕の中で何もかも忘れて楽になってしまいたい。
――でも、そうはいかないんだ。
先程こっそり拝借したメモが、カサっとズボンのポケットから床へと落ちた。
そこには、こちらの言語で例の言葉が書かれ……その下に小さく『今夜丑三つ時、信仰本部で待っているよ』と、日本語で書かれていた。
>>>
月が雲間にすっかり隠れ、部屋は静寂と漆黒に包まれる。
深い夜は始まったばかり。
体力を使い切り、先程眠ったばかりのイーサンが暫く起きる事はないだろう。ヒヨコのぴーちゃんも、窓辺で気持ち良さそうに眠っている。
俺は物音を立てぬよう彼の隣から這い出て、シャツとスラックスを手早く身に付けた。
(嘘ついて、ごめんね)
心の中でそう謝罪し、そっと部屋から抜け出した。
万が一にでも、誰かと鉢合わせる訳にはいかない。そっと裏口から出た俺は、南の大聖堂を目指し歩き始めた。
俺に何が出来るのかは分からない。
「でも、これ以上……俺の所為で誰かが傷付く所なんて見ていられない」
霧の出るレンガの通りを歩く。辺りはコツコツと鳴る俺以外の足音は、ひとつも聞こえない。
「やはり何か、武器になるものを持ってくるべきだったかな」
腰に付けたイーサンの短剣にそっと触れる。そのゴツっとした手触りが、どうにか俺の正気を保たせいた。
奴らが襲ってきた時に太刀打ち出来るだろうか。
闇夜の中で、言い知れぬ不安が俺を襲う。
「剣、上手く使えないもんな。どうせなら魔導書と魔具、持ってくればよかったかな」
少しだけれど、せっかくキーファに教えて貰った召喚術が使えないことはない。
「せめてそれを持ってくるんだった」と若干の後悔をした……
次の瞬間、自分の左腰辺りにズシッとした重みを感じた。
嫌な汗が背中を走り、おそるおそるそこに目を遣ると、なんの前触れもなく腰のベルトに1冊の魔導書がぶら下がっていた。
……ご丁寧に、あの腕輪も一緒に。
「……はは、器具だけじゃないのかよ……」
この怪現象に、決して慣れたわけではない。
……正直気味が悪すぎて、今すぐ魔導書を投げ棄てて逃げ出したい。だが、何の計画も準備もなく飛び出したと言っても過言ではない今の状況。
「有難く、使わせてもらおうか」
――扱えるのかは、わからないけれど。
こうして俺は、大きな十字架が天に聳えるかのように伸びる建物へと、グッと歩みを進めていった。
部屋の扉が閉まると同時に、俺の身体は痛い程抱き締められ、その唇を貪られる。
「んっ、……はっ……ない、よ……っ……」
激しく舌が絡まり、息は絶え絶えに。閉じた扉に背中を押し当てられ、苦しい程の口付けを何度も繰り返される。
「本当か? ……お前、自分を責めていないか」
漸く解放され「はぁはぁ」と吐かれる荒い吐息の先から、海のような眼光が俺をじっと捉えている。
何もかもを見透かしているような強い視線に、思わず肩が震え、それから逃げるように顔を背けた。
「……別に、そんなこと……」
落とした視線の先には、冷たい大理石の床に2人の影が重なっている。
「ちゃんと目を見て言えって」
少し苛立ったような口調でそう言った彼は、俺の顎を掴むと自分の方へと向かせる。
「……俺の、所為だ……なんて……」
眉間に色濃い皺が寄る顔にじっと見詰められると、嫌でも言葉が詰まってしまう。
「前も言ったな。お前の所為じゃない、悪いのは襲った方だ。お前は立派に医者としての責務を果たした……そうだろ?」
「う、ん。……ありがとう、イーサン」
彼の首に腕を回しキスを強請ると、すぐさま彼はそれに応えてくれる。
あぁ……このまま、イーサンの腕の中で何もかも忘れて楽になってしまいたい。
――でも、そうはいかないんだ。
先程こっそり拝借したメモが、カサっとズボンのポケットから床へと落ちた。
そこには、こちらの言語で例の言葉が書かれ……その下に小さく『今夜丑三つ時、信仰本部で待っているよ』と、日本語で書かれていた。
>>>
月が雲間にすっかり隠れ、部屋は静寂と漆黒に包まれる。
深い夜は始まったばかり。
体力を使い切り、先程眠ったばかりのイーサンが暫く起きる事はないだろう。ヒヨコのぴーちゃんも、窓辺で気持ち良さそうに眠っている。
俺は物音を立てぬよう彼の隣から這い出て、シャツとスラックスを手早く身に付けた。
(嘘ついて、ごめんね)
心の中でそう謝罪し、そっと部屋から抜け出した。
万が一にでも、誰かと鉢合わせる訳にはいかない。そっと裏口から出た俺は、南の大聖堂を目指し歩き始めた。
俺に何が出来るのかは分からない。
「でも、これ以上……俺の所為で誰かが傷付く所なんて見ていられない」
霧の出るレンガの通りを歩く。辺りはコツコツと鳴る俺以外の足音は、ひとつも聞こえない。
「やはり何か、武器になるものを持ってくるべきだったかな」
腰に付けたイーサンの短剣にそっと触れる。そのゴツっとした手触りが、どうにか俺の正気を保たせいた。
奴らが襲ってきた時に太刀打ち出来るだろうか。
闇夜の中で、言い知れぬ不安が俺を襲う。
「剣、上手く使えないもんな。どうせなら魔導書と魔具、持ってくればよかったかな」
少しだけれど、せっかくキーファに教えて貰った召喚術が使えないことはない。
「せめてそれを持ってくるんだった」と若干の後悔をした……
次の瞬間、自分の左腰辺りにズシッとした重みを感じた。
嫌な汗が背中を走り、おそるおそるそこに目を遣ると、なんの前触れもなく腰のベルトに1冊の魔導書がぶら下がっていた。
……ご丁寧に、あの腕輪も一緒に。
「……はは、器具だけじゃないのかよ……」
この怪現象に、決して慣れたわけではない。
……正直気味が悪すぎて、今すぐ魔導書を投げ棄てて逃げ出したい。だが、何の計画も準備もなく飛び出したと言っても過言ではない今の状況。
「有難く、使わせてもらおうか」
――扱えるのかは、わからないけれど。
こうして俺は、大きな十字架が天に聳えるかのように伸びる建物へと、グッと歩みを進めていった。
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