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刷り込み
しおりを挟むアザリ君が言うには、魔女になると長生きになって、年を取らなくなるらしい。でもその体を維持する為には、定期的に魔力を摂取しないといけなくて、それがないと砂になって消えてしまうらしい。
「魔力を摂取?」
まぁ、聞くまでもなくこの話の流れだとアレだろうな、と見当はつくけれど一応聞いておく。
「魔力を持っている者と、キ、スするとか、あの、セ、セッ、せせせ……交接する、とか。あと、魔力量は少なくなるけど、涙とか、汗とかを経口摂取してもいいはず。」
ああ、キスでもいいのか。
とにかく体液を体に取り込めばいいわけだ。
これなら魔女に成りたい人がいるかもしれない。
だってずっと若いままでいられるなんて、美魔女どころの話じゃない。
「わかった。もしも魔女になってしまったら、アザリ君が責任持って魔力を注入し続けてくれるんだよね?」
「えっ、も、もちろんっ!」
アザリ君は顔を赤くしながら、凄い勢いで席を立ち、テーブルに手をついて前のめりになった。
それなら安心だ。問題はどうやって女の子を連れてくるかだ。
まさか『うちに悪魔いるんだけど、あなた魔女になりたくなぁい?』なんて言えない訳だし。
そんなこと言ったら間違いなく、私が変な目で見られてしまう。
うーん。どうしたらいいものか。
私がアザリ君を見ながら今後のことを考えていると、彼はソワソワし始めた。
頬を緩めたり、口許を手で覆ったり、私から視線を外したり合わせたりと、落ち着きがない。
「ご飯、食べていいんだよ?」
「あっ、あ、うん。」
アザリ君が箸を動かす度に背中の羽がゆらゆらと大きく揺れている。
この羽がなければ『家から出られない、引きごもりの弟』を紹介すると言って、取り敢えず女の子に来てもらうことができるかもしれない。そこで互いに気に入ったようなら、アザリ君が悪魔だと言うことを話せばいいんじゃないだろうか。
「その羽、取り外し出来ないの?」
「……羽、無い方がいい?」
「無い方がいいだろうね。」
引きこもりだけならまだしも、それにコスプレ好きまで加わると、いくらイケメンでも第一印象が良くはないだろう。
「成体になれば、多分、羽の出し入れが出来るようになると思うけど、今の僕だったら、羽が無いように幻覚を見せることくらいしか出来ない。」
幻覚。
なんとも恐ろしい。ぺらぺらサーニャたんの話を聞いているだけに余計に怖い。
「幻覚はちょっと、止めておいた方が良さそう。」
ロングコートを羽織らせるとか、隠す方向で考えた方がいいかもしれない。部屋の中でロングコートもなかなかのインパクトだけど、羽があるよりはマシだろう。
「……だよ、ね。」
彼はガックリと肩を落とした。
成体だったら、何でもなく出来ることが、童貞であるが為に出来ないなんて、そりゃ落ち込むよね。
「いい人、見付けてあげるから、ほら、元気出して。」
しょんぼりとするアザリ君を、私は元気付けてあげたくて明るく声をかけた。
「…え?」
「ん?」
私は、話が聞き取れなかったのだと思い、もう一度同じことを話した。
するとアザリ君は少し怒ったように、目の下を赤くした。持っているお箸はぎゅっと握り締められている。
「僕、そんなこと頼んでないっ。爽子さんに、契約を、してもらいたい。」
「あ、ごめん。私は、契約出来ないの。」
お試し期間の提案を受けたせいで、期待をさせてしまったのだろう。
「でも、なるべく早めに相手、見つ――」
「頼んでない!」
それは今までにないくらい、強い口調だった。
「……だったら、契約、してくれなくていいから。でも誰の紹介もいらないから。」
意味がわからなかった。
たった何日か前に会った私とは筆おろしが出来ても、今から出会う女の子とは出来ないなんておかしな話だ。
私に拘る意味がわからない。
「自由に、なりたくないの?」
アザリ君は私の質問には答えず『ご馳走さま、…でいいんだよね?』と言ってリビングのソファーに座った。向こう側を向いて体育座りをしているのでどんな表情をしているのかは伺えない。
私は食器を洗いながら、納得のいく答えを探していた。
アザリ君はひょっとしたら、雛鳥の刷り込みのように、久々に会った女の人に疑似恋愛しているのかもしれない。
彼は2年間もこの部屋に閉じ込められているのだから、それは仕方のないことのような気もする。
一番の問題はアザリ君自身が、それが思い込みによるものだと分かっていないことだろう。
私がそれを今言っても理解してはくれないかもしれない。
「アザリ君。」
食器を洗い終えても、まだ向こうを向いている彼に私は声を掛けた。
「私は、契約できない。青山くんが好きだから、他の人とはセックスできない。お試し期間、受け入れたくせに、こんなこと言ってごめんなさい。」
彼の背中に向けて頭を下げて謝った。
アザリ君はこちらを向いてはくれなかったけど、
「…僕こそ、後片付け手伝わなくて、ごめんなさい。」
と言ってくれた。
筆おろしは彼の問題で、契約を断るなら、私が口を挟むべきことではなかった。この先、アザリ君が私に他の女の子に出会いたいので協力して欲しいと言ってきた時に、そうしてあげれば良い話だった。
私はもう、アザリ君に出て行って欲しいとは思っていない。彼は私の生活を尊重してくれているし、何より帰った時に誰かが『おかえり』と言ってくれるのは単純に嬉しい。
私としては、彼が誰かを見付けるまで部屋にいてもらって構わない。
まぁ、一緒に暮らす以外の選択肢は、私が出て行く以外ないのだから、私が構おうが構うまいが彼はここにいるしかないのだけれど。
「ハーブティー飲む?」
薬缶が沸騰を知らせる笛を鳴らした時、アザリ君はやっとこちらを見て、こくり、と頷いてくれた。
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