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魔女
しおりを挟む「ただいま。」
「おかえりなさい。早かったね。お隣さん、まだ帰って来ないよ。」
青山くんは、カフェにもいなかった。今までのパターンとして夕方にいない場合は、もう帰ったか、仕事が休みなはずだ。アザリ君が言うように部屋に帰って来ていないなら、休みだったのだろう。実家にでも帰っているのだろうか。
お試し期間があと3日しかないのに、ちょっと残念だ。
私は手に持っていた買い物袋から食材を取り出し、冷蔵庫に入れた。
アザリ君はそれを不思議そうに見た。
今日は、夕御飯を家で食べようと思って買い物をしてきた。
私はいつも夕御飯はカフェで食べている。そして朝食は食べない派だ。だからこのアパートに越して来て初めての料理をすることになる。
流石にカフェに半年も通っていると、カフェ飯にも飽きてくる。
今日は青山くんもいなかったし、家で和食でも作ろうと思ったのだ。
「悪魔って、和食、食べられるの?」
何か食べているところを見たことはないけど、ハーブティーが飲めるなら食べることもできるはずだ。
「えっ!?僕の分もあるの?」
「あるよー。」
「食べる!」
アザリ君がキラキラした目で、そわそわと出来上がるのを待っている。その姿は少年のように可愛らしい。きっと食べ盛りの息子を持つお母さんの気持ちって、こんな感じなんだろうなと、心がほわっと温かくなった。
「できた。」
ダイニングのテーブルに料理を並べ終えて、アザリ君に声を掛けた。
「凄く、美味しそう。」
和食と言っても私が作ったのは、親子丼、小松菜のお浸し、味噌汁という家庭科実習メニューだ。だから、そんなふうに言われると、少し申し訳ない気分になってくる。
お箸の持ち方を教えながら食べ始めた。
私が味噌汁に口をつけると、アザリ君も見よう見まねで、味噌汁のお椀に口をつけた。
「これ、すごく美味しい!」
笑顔の彼を見て私もつられて微笑んだ。
「ありがと。味噌汁好きな悪魔なんてアザリ君くらいかもね。」
「そうかも。僕の母様、日本人だから味覚が合うのかもね。」
親子丼を不馴れな箸で苦戦しながら食べつつ、彼はサラリとカミングアウトした。
「え、アザリ君のお母さんって人間なの?」
「うん。元人間。」
彼は鶏肉をもぐもぐ噛みながら頷いた。
「……元?」
なんだ、元って。
「今は、魔女だよ。あ、これも美味しい!」
アザリ君は小松菜を箸で持ち上げた。
「……どうして、魔女になったの?」
私は食べる手を止め、箸を置いた。
「ん?悪魔と体の関係を持つと、人間の女の人は魔女になるんだよ。」
私は絶句した。
……なんだその『知らないの?』みたいな言い方は。
危なかった!
デリヘル嬢を、魔女にしてしまうところだった!仕事をしていたら、知らずに魔女になってしまうなんて悲惨過ぎる。
「そういう大事なことは初めに言ってよ。契約に関わることなんだし。」
契約する気はなかったけど、知らないでいたら、アザリ君に、誰か別の女の子を紹介していたかもしれない。
私はなるべく冷静に言ったつもりだったけど、アザリ君には怒りが伝わったらしく、肩をすぼめて箸を置いた。
「ごめんなさい。昔からそうだから、みんな知ってることだと思ってた。」
昔からそうだ、と言われても、悪魔が実在すること自体みんな知らないと思うけど。
私自身、何度もアザリ君の不思議な能力や現象を見ても、まだどこか信じられていないというのに。
「あの、でもっ、契約のことなら大丈夫だから。」
アザリ君に泣きそうな顔で見つめられた。
どうもこの顔をされると弱い。
母性本能が刺激されているのだろうか。
「僕は、成体、じゃないから、女の人を魔女に変えてしまうくらいの魔力が、ないんだ。」
「じゃあ、筆おろしだけなら大丈夫ってこと?」
アザリ君は頷いた。
嘘は言ってなさそうだけど、だからと言って別の人に紹介もできない。だってその女の子がアザリ君を気に入ってしまったら、二回目をした時に魔女になってしまうってことだから。
あ、でも逆に考えれば、魔女になりたい人を探してくればいい話なのかも。
「魔女になると、どうなるの?」
「えっと――」
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