【R18】1LDK、イケメン悪魔憑きアパートに引っ越しました。

さかい 濱

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リアル抱き枕

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たったこれだけのことで、劇的に青山くんの態度が変わるなんて!

私は自分の部屋の玄関に入った途端、倒れ込んだ。

「だっ、大丈夫?」

駆け寄ってくるアザリ君を制し、顔を上げた。

多分私は気持ち悪いくらいにニヤニヤしているだろう。その証拠にアザリ君の顔が引きつっている。

「うまく、いったみたいだね。」

もう、うまくいった処の話ではない。

今日、私は仕事を終え、カフェに行く前に着替えをしてから行った。
ブラを普通のものに変え、きついキャミソールを脱ぎ、普段だったら絶対着ない、白のハイネックの服を着た。
谷間が見えるくらい胸元が開いた服、というのは抵抗があったので、同じくらい胸が強調されるであろう服装を選んだのだ。

そうしたら、なんと!
彼が接客してくれた上に『ラテアート、新しい絵柄、覚えたんですけど、どうですか?』なんて話し掛けてきてくれたのだ。

アザリ君は、うん、うん、とその話を聞いてくれた。

「良かったね。」

「凄く可愛いラテアートでね。もう嬉しくって。写真撮っちゃった。」

「何の柄だったの?」

「うふふー、くま、だよ。」

「熊?そこはハート柄とか頬を染めた男の子の柄とかじゃないの?」

「うん!」

「……それから、何かあった?」

「え?それで終わりだけど。」

アザリ君は、なんだか気まずいような顔をしたが、私は高揚感に包まれて幸せな気分だったので気にしないことにした。

「ハーブティー、今日は僕が淹れるね。」



アザリ君と二人でハーブティーを飲んだ後、私はいつものように抱き枕と向き合った。

昨日より枕から香りがしない。
毎日霧吹きしないと駄目なのかもしれない。

霧吹きを片手に、枕の中身のウレタンをごそごそと取り出していると、アザリ君が声を掛けてきた。

「ま、枕より、人間、っぽい、ものの方が良く、ない?」

アザリ君は私から霧吹きを取り上げると、自分の体にそれを吹き付けた。
そして私の顔をチラチラと見ながら両手を広げた。

私は思わぬ提案に動揺したものの、気を取り直した。

「侮るなかれ。この抱き枕はただの抱き枕ではないのだよ。」

アザリ君の目の前に抱き枕を突きつけた。

「これは、特注品でね、表面はシルクで出来てるの。だから触り心地が抜群なのよ。そして青山くんの身長とほぼ同じ長さに作ってもらったの。どうやって身長を調べたかって?尾行した時に電柱の前を通りすぎる瞬間の彼を写真に撮って、それから割り出したのよ。」

私はこの枕が、どんな努力の末に出来たものかを、アザリ君に教えた。

「でも、ただの枕だよ。」

まだ言うか。

「印刷塗料も色落ちしない、発色のいいもので作って貰って、なんとお値段じゅう、ふがっ。」

私は抱き枕ごと抱き締められた。
枕を挟んでいるのに私の体はすっぽりとアザリ君の腕と羽に包まれてしまった。

「どう?枕より、…いいでしょ?」

アザリ君はそう言って、私の頭頂部に顔をくっつけた。

それにより、彼の熱い吐息を肌で感じてしまう。

良くない。

全っ然、良くない。
これじゃあ、青山くんの妄想が全く出来る気がしない。

枕越しで良かった。
心臓の音が聞こえてしまいそうなくらいドキドキしている。

「だめ、不合格。」

私はアザリ君の胸を押して、彼から離れた。

「身長高過ぎ、顔も違い過ぎる。それに羽、生えてるし。」

茶化すように言ったつもりだが、動揺を隠せているだろうか。

アザリ君は、赤い瞳を悲しげに揺らし、こちらを見ている。

傷つけて、しまったのだろうか。

彼は悪魔(自称)だけど、まるで子供のように純粋だ。
たった何日か接していただけでそれがわかるくらいに。

「私の役に立ってくれようっていう、気持ちは嬉しい。…でも、私には枕で十分だから。」

私が諭すように言うと、アザリ君は目を伏せた。

「うん。わかった。」

「じゃ、おやすみ。」

まだ寝るには早い時間だけど、気まずいので一人になりたかった。

けれど、リビングに戻ろうとしたアザリ君がハッと思い出したように言った。

「あ、今日はいいの?お隣さん情報。」

ああ、色々有り過ぎて忘れていた。
別に毎日情報を貰える約束をしたわけじゃないけど、あとお試し期間は4日しかないし、何か聞いておいた方がいいのかもしれない。

「えーと、……パンツ何色?」

アザリ君は顔を引きつらせた。

我ながら最低の質問だ。

でも透視してわかる情報は、私だって尾行したりして青山くんを観察しているのである程度はわかる。
青山くんの内面は教えてもらうことが出来ないから、こんなことくらいしか今は思い付かない。
まぁ、純粋にパンツの色が知りたいっていうのもあるけど。

「だから服は剥げないから。」

そう言いつつも、アザリ君は隣の部屋を見てくれている。

「お隣さん、いないよ。まだ仕事かな?」

そんなはずはない。
私は今日、彼の仕事終わりにタイミング良く合わせられたので、ちゃんと尾行をしてきた。さすがに、途中で少し時間を潰してから別々にアパートには戻ってきたけど。

「コンビニかな?」

結局青山くんは次の日、私が仕事に行く時間になっても帰って来なかった。
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