【R18】1LDK、イケメン悪魔憑きアパートに引っ越しました。

さかい 濱

文字の大きさ
13 / 42

悪魔が、いない

しおりを挟む
 
次の日、初秋の、幾分和らいではいるがまだまだ強い日差しに、起こされるように私は眠りから覚めた。

ベットには、私一人で寝ていて、アザリ君が使っていた布団はきれいに畳まれていた。

良かった。

アザリ君はこの部屋から無事に出ることが出来たようだ。
筆おろしは成功したのだ。
私は自分のお腹に手を置いた。
理不尽なお願いをしたのにも関わらず、とても優しく抱いてくれた。

彼は会ったばかりの時に『理想の筆下おろしのシチュエーションがある』と言っていた。おそらく、それとは真逆のことを私はさせてしまった。

私はアザリ君に別れの言葉を告げることはできなかったけど、それで良かったのだと思う。彼には早く私を忘れてもらって、幸せになってほしい。

私は今日忙しい。不動産屋に行かなくてはいけないし、物は少ないけど荷造りだってしなくちゃいけない。

だから、泣くのはあと、5分だけにしようと思う。




週明け早々に引っ越しをすることができた。
新しいアパートは、前の部屋よりちょっと狭い1DKた。

だから、ソファーは置けない。
でもそれでいい。そんなものがあれば、目に入る度にアザリ君を思い出してしまう。
少し背中を丸くして体育座りをしながら、テレビを見る彼が今だって瞼の裏に浮かんでしまっているのに。

「心機一転、頑張らないとね。」

目の奥が熱くなっているのに気が付き、自ら気合いを入れた。

それから私は、仕事人間になった。残業は自ら引き受け、仕事に役立つと思えば、畑違いのことでも精力的に勉強した。そしてアパートに戻り、寝るだけの生活を繰り返していた。

仕事に、燃えているわけではなかった。
ただ、部屋にいる時間を短くしたかっただけだ。帰れば必ずアザリ君の『おかえり』を思い出してしまい、その度に自分の下した決断を悔いてしまう。だから、そんなことを考える隙などないくらいに体を疲れさせた。


そんな毎日を過ごし、ここに引っ越して来てから一月ほど経った頃、それは届いた。

土曜日、平日の疲れを解消するかのように寝ていた私を、部屋のチャイムは叩き起こした。

「お届け物です。」

それは小さな小包だった。
サインをし、差出人を見ると、以前のアパートの不動産屋だった。
中を開けると、何かが包まれた封筒と紙が入っていた。
その紙にはこう書かれてあった。

『Sハイツの隣人の方からの、預りものです。以前、借りていたものを返しそびれたということでしたので、こちらでお送りさせていただきました。』

今のアパートの不動産屋は、前に住んでいたアパート、≪Sハイツ≫を管理している不動産屋の系列店だ。そこから今の部屋の住所がわかったのだろう。

隣人。

青山くんだろうか。

でも貸していた物なんてないはずだ。
私は、不安な気持ちで封筒の中を見た。
そこには、どこにでも売っているような箱に入ったお菓子と、一通の手紙が入っていた。

『会って話がしたい。連絡をください。青山 090‐××××‐××××』

私はスマホからチャットのアプリを削除していた。だから連絡か付かなくて、こんな回りくどいことをしたのだろう。

青山くんが、私に連絡を取りたい理由。

そんなものは一つしかない。

私は、訴えられるのだ。

それを告げる為に、彼は連絡を取ってきた。
あの時、青山くんが私に向けた侮蔑の込もった表情を思い出す。

私は、以前、一旦ゴミ箱に捨てて、アザリ君が拾ってくれた青山くんの写真とメモをクローゼットの奥から取り出した。
それは大きめの封筒に入れて、ガムテープでぐるぐる巻きにして保管してあった。

取っておいて、良かった。

これが私の罪の証拠になるはずだ。
もし、彼が示談を提示してきたら、出来る限り応じよう。
そう思って、私はすぐに彼に連絡を取った。

「爽子、です。」

『あっ、爽子ちゃん?連絡ついて良かった!あの、今仕事中だから用件だけ言うね。今日の夜、会いたい。20時にE町駅の南口のファミレスで。』

青山くんは、早口で話した。
私は『わかりました』とだけ言って電話を切った。


指定されたファミレスに着いた時、さすがに不安で足が震えてしまった。

彼は弁護士と一緒だろうか。

入口から店内を見ると、青山くんと目が合った。

彼は一人だった。

「都合も聞かず、呼び出してごめん。」

「いえ。」

私はドリンクバーを頼み、席に着いた。

「いつ、引っ越したの?」

「あの後、すぐです。」

青山くんに壁の写真とメモを見られた日から、4日ほどであの部屋を引き払うことができた。
不動産屋も慣れたもので『今回は結構長かったですね』と言って、家賃を日割り計算にしてくれた。

「チャットも既読にならないし。」

「……すみません。」

早く、本題に入ってほしい。
言いにくいのだろうか。私から言い出すべきなのかもしれない。
口を開きかけたが、すぐにまた青山くんが話し掛けてきた。

「ずっと探してた。」

「……一度、謝罪をしてから引っ越すべきかと思ったんですが、…会いたく、ないだろうと思って。…すみません。」

今考えれば、引っ越す前に慰謝料のことで話をしておかなかったせいで、彼に無駄な手間を掛けさせることになってしまった。

「会いたくない?俺が?」
「はい。」
「どうして?」

青山くんの言葉に頭が混乱する。
彼が会いたくないと思うのは当たり前だろう。だって私はストーカーだ。
どうして?と聞かれても返答に困る。

私がなんと答えるべきか迷っていると、青山くんは少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

「ホントは、嬉しかったから。」

私は唖然とした。

そんな訳はない。
あの場面を思い出して見ても、そんな素振りは一ミリもなかった。ついでに言うと、彼は部屋に訪ねて来た時から、私への好意なんてなかったように思う。
あったのは、性欲だけだ。

青山くんは、頬を赤く染めて私を慈しむように見ている。

「爽子ちゃんに、こんなに想われてるんだって、嬉しくなっちゃって。」

――そんな。

その言葉を聞いて、私はある可能性に気が付いた。

「良かったら、俺と付き合ってほしい。」

間違いない。

青山くんは、アザリ君に幻覚を見せられている。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

処理中です...