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同じ部屋で
しおりを挟む「絶対に何もしないから。」
青山くんはそう言うが、モーテルの前で何人の男がそう言い、その内の何人が約束を守ったのだろうかと考れば同意はできない。
「あの、私はだいじ――」
大丈夫なので帰りましょう、と言うつもりだった。けれどいつの間にか来ていた後続車が、クラクションを鳴らした。
「取り合えず、敷地内に入ろう。」
部屋が空いていなければ、簡単な話だった。ただ引き返せばいいのだから。でも戸建てタイプのモーテルの玄関にあるランプは緑色に光り、空室があることを知らせていた。
「俺は、車の中で寝るから。爽子ちゃんは、内鍵を掛けて一人で泊まっていい。このまま運転していたらどっち道、車内で一晩明かしただろうし。俺は大丈夫だから。」
「だったら一部屋ずつ、取りましょう。」
「多分、渋滞や通行止めで帰れない人たちが、ここに来ると思う。だから二部屋取るのは何だか申し訳ないよ。」
確かに、そうかもしれない。
でも、二人で部屋で寝ることも、青山くんを車で寝させることもできない。夜中は氷点下になるかもしれないのだ。
車をモーテルから出そうと、ギアをバックに入れ、フットブレーキを離そうとした瞬間、青山くんがドアを開け降りていっだ。そしてモーテルの部屋のドアを開けてしまった。
空室の緑のランプが赤に変わる。
「とりあえず、中で話そう。」
そう大声で言われ、少しの恥ずかしさもあって、結局彼に従ってしまった。
「寒っ。」
青山くんはぶるりと震えながらエアコンの電源を入れ、設定温度を最大まで上げた。
部屋の中は全ての照明を点けても薄暗く、そういうことをする場所なのだと嫌でも実感させられる。
「私が、車で寝ます。」
彼がこんな所までくるはめになったのは、もともと私のせいなのだから、青山くんは中で寝るべきだ。
「だめ。爽子ちゃんは明日も運転するんだから、しっかり体を休めて。」
「で、でも。」
「俺は大丈夫だから。ただ、風呂だけ入ってもいい?」
そう言うと私の返事を待たずに浴室の方へ歩いていった。
どうしたらいいのだろう。
私は青山くんが、夜中に私の部屋を訪ねて来た時のことを思い出していた。
彼はそういうことに手慣れているように思えた。
ひょっとして今もああ言いながらも、そういうことをする気なのかもしれない。
でもこの二ヶ月間、青山くんはとても紳士的だった。毎日電話を掛けてくる以外は、何もしてこなかった。
信用すべきか。
私は何か解決策がないかと、意味もなく部屋を見回した。
そこであるものを見付けてしまった。
「これなら、大丈夫かも。」
私はそれの強度を確認した。
問題なさそうだ。鍵もついてるし。
「何?」
いつの間にかお風呂から上がった青山くんが、私の手元を不思議そうに見ている。
けれど、すぐに私の意図が解ったのか少しだけ笑顔になった。
「これなら、俺が寝ぼけてても安全だね。」
私は部屋の隅にある自動販売機の中に、お菓子、アルコールの他にも大人のオモチャがあることに気がついた。そこにSMプレイ用なのか、手錠があったのだ。
それを購入した。
青山くんには窮屈な思いをさせてしまうけど、車の中で寝るよりはマシなはずだ。
「信用してないようですみません。でも、青山さんを車で寝かせる訳にはいかないんです。」
「信用がないのは、俺の責任だから。」
彼はそう言って両手を差し出した。
その後、どっちがソファーで寝るかで揉め、結局押し切られるように私がベット、青山くんがソファーで寝ることになった。
「暖房強めにしてるから、布団も無くて大丈夫。じゃ、おやすみ。」
そう言って、青山くんは手錠をはめた両手をカチャカチャと音を鳴らして振った。
私は、前日にあまり寝ていないのもあってお風呂に入った後、ベットに横になるとすぐさま意識がなくなった。
次に目が覚めたのは朝の4時だった。
暖房を点けたまま寝たので喉が乾き、水を飲もうと起き上がった時に、ソファーに寝る青山くんが目に入った。
彼は背中を丸め、寒そうにソファーの背に体をくっつけて眠っていた。
私は青山くんのお陰でしっかりと寝ることができた。
だから出発までの間、彼にもちゃんと暖かくして寝てもらいたい。
私はベットの上から布団を移動し、彼の上にそっとそれを掛けた。
すると暖かさで体の強ばりが取れたのか、ごそごそと動き始め、手錠を掛けた手が布団から出てきてしまった。
私は手も布団に収まるようにかけ直した。が、布団が大きすぎてソファーから滑り落ちてしまいそうになる。なんどか試行錯誤し、ソファーの背と青山くんの体の間に布団を挟み込み、ずり落ちないようにした。
これで、よし。
私が、水を飲むべく自動販売機の方に歩いて行こうとした、その時、手を掴まれた。
「きゃっ。」
私は反射的に手を振り払おうとした。けれどその手はしっかりと掴まれていて外れなかった。
「やめ――」
抗議の為に、青山くんの顔を見たものの、私はたじろいでしまった。
「……え?」
こちらをじっと見つめている青山くんの瞳が、ルビーのように赤く光って見えたからだ。
ホテルの照明のせいなのだろうか。でも瞳自体が光りを発しているように見える。
目を見開き、固まる私を彼は見つめ、やがて口を開いた。
「爽子、さん。」
――何故私をそんな風に呼ぶの?
声自体は青山くんのものだけれど、呼び方が全然違う。
まるで、アザリ君のようだった。
彼が、爽子さん、と、私の名前を呼ぶ時、いつも少しの甘さを含んでいた。
今もそんな響きを感じ取ってしまった。
アザリ君が私をどう呼んでいたかなんて、青山くんは知らないはずだ。
私は混乱し、どういうつもりなのかと青山くんに問おうとした。
けれどそれより僅かに早く、掴まれている手がそっと引かれ、彼の胸に引き寄せられた。
私はソファーに寝る青山くんの、上になるような形で倒れ込んでしまった。
二人の視線が絡み合う。
その瞳は、近くで見ても赤かった。
「そう、こ、さん。」
彼は切なく甘い声で私の名前を呼んだ。
それは青山くんの声のはずなのに、私に愛しい人を思わせた。
だから、私はその唇に吸い寄せられるように、自らの唇を重ねてしまった。
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