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車内にて
しおりを挟む「すみません。お仕事、休ませてしまって。」
「いいって。デートみたいで嬉しいし。」
私はレンタカーを借りて、I県の拓夫さんの実家まで行く為に青山くんを乗せ、車を走らせていた。
彼を連れて来た理由は、拓夫さんの実家で直接アザリ君を呼び出し、幻覚を解いてもらう為である。
「新幹線で行こうかと思ったんですが、拓夫さんの家が結構な山の中みたいで。」
二県くらいしか離れていないので、いっそ車で行った方が早いと思ったのだ。
「爽子ちゃんと、ドライブ、楽しい。」
ドライブと言うには今日は天気が悪すぎる。昨日から冬の冷たい雨が降り続いていた。
「多分、今日で幻覚が解けると思いますので、慰謝料のことを考えておいてください。なるべく言い値でお支払いしたいと思います。」
青山くんが、私に何と甘い言葉を囁こうとそれは偽りなのだ。そういうことを言われる度に、申し訳ない気持ちになる。
「またその話?もし本当に幻覚だったら、考えておくよ。」
――私が、青山くんが幻覚を見せられていると気が付かなかった場合、これだけ好意を示されていたら、今頃どういう気持ちになっていたのだろうか。
彼は毎日の電話を欠かさない。もう2カ月近くも、だ。
いくら私の返事が素っ気ないものでも、嬉しそうに電話をかけてきていたのだ。
でも、そんなこと考えるだけ無駄だ。彼は幻覚を間違いなく見せられているのだから。
「青山さん、私の顔、誰かに似ていますか?」
アザリ君は、誰の顔を私にあてがったのだろう。
少し気になり聞いてみた。
「芸能人?うーん。誰だろう。誰かに似てるって言われたことあるの?」
「いえ、そういう話じゃなくて。」
「俺は爽子ちゃんを、誰かに似てるって思ったことないな。」
まぁ、いいか。
今日アザリ君に会って聞けたら聞いてみよう。
久々にアザリ君に会えると思うと、気分が高揚していた。
早く、会いたい。
歓迎してもらえるとは思っていないけど、アザリ君をもう一目見たい。
その気持ちが何なのか、私はもう認識している。
私はアザリ君が、好き。
でも、彼に想いを告げることはするべきではない。
私にはそんな権利はないから。
彼の幸せを願って、やがて吹っ切れるまで密かに想っていようと思う。
だから、今日アザリ君に会えたらその姿をくっきりと心に刻み込みたいと思っている。
「爽子ちゃん、雨、みぞれになってきたね。運転大丈夫?」
レンタカーはスタットレスタイヤを履いている。
「実家にいた頃、車の運転は結構していたので、大丈夫です。」
大丈夫ではなかった。
みぞれはやがて雪になり、道路にも降り積もっていった。
車内ラジオが、この先の通行止めを告げる。
これでは拓夫さんの家に着くのが、かなり遅くなってしまう。
拓夫さんに遅れる旨を電話をして伝える。
『このまま降り積もると、うちに来てもらっても帰りが大変だかもなァ。今日はやめた方がよさそうだ』
確かに、そうかもしれない。
無理をして雪の山道に挑んで、事故を起こしたら青山くんにも申し訳ない。
残念だけれど、出直そう。
「高速道路もストップだって。」
青山くんがスマホで道路状況を調べてくれている。
「私が車で行こうとしたばかりに…。本当にすみません。」
「いいって。落ち込まないで。」
私たちは結局、夕方になってもI県を抜け出せないでいた。
雪はもう止んでいたけど、道路に雪は積もっている。
ここは、あまり雪の降る地域ではないので、スタットレスタイヤを履いていない車が多いのだろう。その為か、渋滞でちょっとずつしか車が進まないのだ。
「青山さん、寝ててもいいですよ。」
「俺は、大丈夫だけど、爽子ちゃんは疲れたでしょ。」
「いえ。」
本当は少しだけ、しんどい。
今日、アザリ君に会えるかと思ったら、気持ちが昂ってしまい昨日はよく眠れなかった。
今頃になって眠気がきている。
「俺、免許なくて、ごめん。」
青山くんは、眉を八の字にして肩を落とした。
「あ、謝らないでください。青山さんが悪いことなんて何もないんですから。」
一瞬ドキッとしてしまった。
青山くんも、こんな――まるでアザリ君みたいな――表情、するんだ。
知らなかった。
「…もう、帰ることは諦めて、近くに宿を取った方がいいかもしれない。俺、明日も休みだし。スマホで、ビジネスホテル探してみる。」
その方がいいのかもしれない。
そうしたら天候と拓夫さんの都合次第ではあるけど、明日呼び出しの儀式が出来るかもしれない。
宿はなかなか見つからなかった。同じような考えの人が沢山いたのかもしれない。
「私は大丈夫ですから、このまま帰りましょう。」
いくらなんでも、夜中には着くのではないだろうか。
「でも、さっきから全然進んでない。多分立ち往生の車がいるんじゃないかな。」
青山くんはそう言って、スマホから顔を上げ、更に進まなくなった前方を見た。
「うーん、……爽子ちゃん、あそこまで行ったら左に曲がって。」
「抜け道ですか?」
「……うん。」
スマホの地図を見ながら、指示をする青山くんの言う通りに車を走らせた。
「ここ、左、入って。」
「えっ、でも、ここは。」
「爽子ちゃんは、休んだ方がいい。」
左側に見えたのは、古めかしい外観のモーテルだった。
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