【R18】1LDK、イケメン悪魔憑きアパートに引っ越しました。

さかい 濱

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二度目の召喚

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離れの居間に入ると、和室の中央に炬燵こたつが置かれてあった。

私は服やブーツに付いてしまった豚の血液を落としてから、その部屋に入ったのだが、その時ディルは不思議そうに炬燵の観察をしていた。

掛け布団をめくり手を入れ、温かいことを確認し嬉しそうな顔になった後、長い足を炬燵の中に収めた。

ディルは上半身裸だ。アザリ君もそうだったから、それが悪魔の正装なのかもしれないが、そんな彼が炬燵に入っているのを見るのはとてもシュールだった。

「俺、お茶入れてくるから。」

そう言って拓夫さんは部屋からいなくなった。青山くんはお手洗いに行ってディルと二人きりになった。

「ディルさん、悪魔を呼ぶ儀式に必要な人間の血はどれくらいですか?」

「お嬢ちゃん、アザリシェルムを呼ぶつもりなの?」

「はい。」

「……あの"想いの欠片"の持ち主は、やはりアザリシェルムなのね。」

「はい。間違いないと思います。だから彼を呼んで、欠片を引き取ってくれるようにお願いしたいと思うんです。」

「そう。引き受けてもらえればいいわね。」

「一生懸命お願いしてみます。」

契約が必要になるだろう。
何を差し出せと言われるか分からないけれど、命以外のものだったら捧げるつもりだ。

「……でもね、例え引き取ってもらえても、"想いの欠片"は本当に小さな欠片でね、戻したところで、お嬢ちゃんをまた好きになるとは限らないのよ?」

ディルには私の想い人がアザリ君だと分かってしまったのだろう。
猫のような瞳は、私を憐れんでいるように見える。
アザリ君といい、悪魔のくせに妙に人情味に溢れている。

「構いません。」

私はじっとディルを見つめた。ディルも私の覚悟がどれ程のものかを伺うようにこちらを見ている。

その時、襖が開いて青山くんが戻ってきた。

「何滴かでいいわ。」

ディルは、小さくそう言うと小指の横を切る仕草をした。

「何の話?」

青山くんは、もうディルに慣れたのか一緒に炬燵に入ってきた。

「び、美容の話をしていたんです。」

「そうなのよ。このお嬢ちゃんは、女でいることに胡座あぐらをかいて、手を抜いてるからアドバイスしてあげたのよ。見てよ、このガサガサの肌。」

咄嗟にごまかした私に、ディルは調子を合わせてくれた。

「俺はそのままの爽子ちゃんが好きだけど。」

青山くんは穏やかに微笑み、ディルは鼻で笑った。

「拓夫さんを手伝ってきます。」

私は何だか、いたたまれなくなり、席を立った。

青山くんの中にあるアザリ君の欠片が、どれくらい私を好きだと言っても、アザリ君自身はもう私を好きじゃない。

なんて皮肉な話だろうか。




私たちは、結局拓夫さんの家に一泊することになった。

拓夫さんの祖父母が、夕食を作ってくれて、なんだかんだ長居している間に結構な時間になってしまったのだ。

青山くんは明日お昼から仕事なので、朝一にここを出ることにして布団に入った。

私は夜中そっと抜け出し、拓夫さんの悪魔召喚の呪文が書かれた本をこっそりと持ち出した。

外には、魔法陣が書かれたベニヤ板がそのまま置いてあった。
豚の血で真っ赤になってはいるが、板は割れたところもないので、まだ使える、…と思いたい。

魔法陣の中央に私は立った。

「アザリ君。」

私はそう呟いて、小指の第一間接の横をカッターを滑らせて切った。

「っ。」

痛みと共に真っ赤な血が溢れ、ぽたりぽたりと板へ落ちていく。
私の血に濡れた魔方陣はぼんやりと白く発光した。

豚の血の時には無かった現象に、期待が高まる。


血液で汚さないように、慎重に本を開き、私は呪文を唱えた。

アザリ君。アザリ君来て。

私はアザリ君が必要なの。

必死に心の中で呼び掛けた。

ディルを召喚した時のようにベニヤ板がカタカタ震え始めた。

儀式が成功したことに、安堵する。

しかし、昼間よりも揺れが酷くなった。なんとか耐えながらそれが収まるのを待った。

竜巻が起こる。
ごうごうという風の音の中心部にぼんやりとした人影が見えた。
風が弱まっていくにつれ、人影ははっきりとした輪郭を持っていく。
そして完全に風が止むと、闇夜に人型のシルエットが浮かんだ。


アザリ君だった。

前に見た時よりも、格段に色気が増している。以前とは違う冷めたような目つきのせいか、顔が大人びて見える。
髪の毛も伸びていて、いつも背中にあった羽はその姿を消していた。
でもはっきりとアザリ君だと分かった。

「我を、呼び出したのは、お前か。」

固く冷たい響きを持っているけど、間違いなく声もアザリ君だ。

「アザリ君っ。」

あまりの懐かしさに、彼に駆け寄ろうとした。けれどアザリ君が発した言葉がショックで私は足を止めた。

「お前は、誰だ。我の名を気安く呼ぶな。」

彼の赤い瞳からは、何の感情も感じ取ることができなかった。
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