【R18】1LDK、イケメン悪魔憑きアパートに引っ越しました。

さかい 濱

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再会

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お前は、誰だ、とアザリ君は言った。

表情を伺ってみても冗談を言っているようには見えない。

アザリ君は、私を覚えていないのだろうか。

成体になると以前のことを忘れてしまうのだろうか。

忘れ去られるなんて、嫌いになられた方がまだましだ。

どうして。


「わ、私は、爽子よ。覚えてないの?」

無理をして笑顔を作ったけれど、声が震えてしまっていた。

「お前など知らぬ。」

私をチラリと見ただけでアザリ君は答えた。

「5カ月間、一緒に暮らしたよね。毎日『おかえり』と言ってくれたじゃない。」

「知らぬ。」

「一緒に、ハーブティーも飲んだじゃない。アザリ君が淹れてくれることもあったんだよ?」

「嘘、だな。悪魔は飲食を必要とはせぬ。」

「嘘なんかじゃない。だって、ワインも飲んで、酔っ払って私に――」

「だから知らぬと言っている。」

呆れたように、ため息混じりに言われて心が折れそうになる。

「っ、ほ、本当に何にも覚えていないの?」

「くどい。」

「……。」

アザリ君に否定されてしまうと、本当にそんなことなどなかったのかもしれないと思えてくる。
だって、アザリ君はあの部屋の中にしか存在しなかった。誰か他の人に会ったりもせずに、二人だけで生活していたのだ。だから彼自身がそれを否定するならば、なかったことになってしまう。

それこそ、私は幻覚を見ていただけなのかもしれない。

目の前が真っ暗になった。

私は何も言うことが出来なくなり、二人の間には、暫しの沈黙が流れた。

「お前の望みは何だ?」

感情のない赤い瞳で見つめられ、本来の目的を思い出す。

「アザ、……あなたが掛けた幻覚の術を解いてもらいたいの。」

「お前には術など掛かっておらぬが。」

私は、ディルに言われた、青山くんの中にある"想いの欠片"の話をした。

「あなたが"欠片"を引き取ってくれないと、幻覚が解けないと言われたの。」

私は必死で説明したけど、アザリ君は興味が無いとでも言いたげに視線を外した。

「お前に対する想い?そんな感情を持ったことも、ましてや誰かに植え付けたりなどした覚えはない。」

「覚えてなくても、そうなの。アザリ君、お願い。」

私は彼の腕を両手で掴み、懇願した。幸い手を振りほどかれたりはしなかった。

「私を、助けてほしい。」

アザリ君の顔をじっと見つめると、彼も仕方無さそうではあるがこちらを向いてくれた。

「だから我の名を、……お前、指を、どうした。」

アザリ君は、腕を掴んでいる私の手を見ている。
小指には、儀式の為に切った傷口があり、そこから血が滲んでいる。

血がアザリ君に付いてしまうかもしれないと、手を腕から離そうとした。
しかし、その手をアザリ君は掴んだ。

「……ええっ!?」

私は、痛みよりも驚きで体を硬直させた。

私の指を、アザリ君が口に含んだのだ。

「あ、あの、アザリ、君?」

戸惑う私を見て、彼は唇を指から離し目を見開いた。

「我は、何をした。」

彼自身も戸惑っているようだった。

その表情は、以前のアザリ君を少しだけ思い出させた。
私は胸が苦しくなり、自分の気持ちを告げずにはいられなくなってしまった。

「聞いて、アザリ君。……私は、アザリ君が好きなの。」

まだ、戸惑った顔をしているアザリ君の手を握り、言葉を続けた。

「だから、あなたが私を忘れているのは、とても悲しい。」

彼にとって私との思い出など、嫌なことの方が多いのかもしれない。

でも――

「"想いの欠片"を受け入れてほしい。そして私のことを少しでも思い出してほしい。」

私を好きだったということを思い出して。

お願い。
断らないで。

私は彼の胸に顔をつけた。そして恐る恐る両腕を背中に回し、アザリ君を抱き締めた。
彼はビクリと体を震わせたけれど、拒絶はしなかった。

「……ない。…無理。…く…した。」

彼が小さな声で何かを呟いている。言っているのかまては聞こえなかった。
胸から顔を上げ、視線を合わせもう一度『お願い』と言うと、彼は泣きそうな顔をした。

「……はな、せ。」

「嫌。離したらいなくなるんでしょ。」

私は、どんな手を使ってもアザリ君と離れたくなかった。
きっと、彼は力尽くでは私を振り払えないだろう。するのならばとっくにしているはず。
このまま抱きついていれば、離れることはない。

「っ、だめだ、契約を、したの、だ。」

「契約?誰と?何の契約をしたの?」

「……誰?……分から、ない。分からないが、ただ、忘れる契約、だった、と。」

アザリ君は、少し動揺した風に頭を押さえ、頭を横に振っている。

「……え。」

――忘れる、契約。

契約者を思い出せないのは、忘れる契約のせい?

アザリ君が私を覚えていないのは、私のせい。

あの時『私を忘れてほしい』と言ったから、文字通り・・・・彼は私の存在自体を忘れる術を自分にかけたのだ。

アザリ君は契約を忠実に守っただけだった。

私は、自分の馬鹿さ加減に呆然となった。

しかし、そうならば余計に、彼を逃がすわけにはいかないと思った。

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