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幻覚の解除
しおりを挟む「アザリ君、ごめんね。」
私は、コートのポケットに入れたままになっていた、手錠を取り出し、彼の右手にそれを着けた。
「な、なにを。」
そして、私の左手にもそれをはめた。
よし、このまま、家まで連れて帰ろう。
そうすればまたアザリ君と一緒に生活できる。
「ま、待て。」
私は、彼を引き摺るように離れの玄関に歩いて行った。
「あら、うまく捕まえたわね。」
玄関の前には、ディルと青山くんがいた。
「見てたんですか?」
アザリ君しか見えてなくて気が付かなかった。
思いっきり縋っているところを、二人に見られていたかと思うと恥ずかしい。
「そりゃ、あんなに揺れたり、風が吹いたりすれば気が付くわよ。タクオとサーニャは熟睡してるみたいだったけど。」
「すみません。」
ディルに、今なら青山くんの幻覚を解除出来るかもしれないと言われ、その場で解いてもらうことにした。
青山くんは、もう嫌だとは言わなかった。アザリ君を目の前にして、自分が本当に術を掛けられて、幻覚を見ていると自覚したのかもしれない。
アザリ君も"欠片"を受け入れてくれる気になったようで、気の抜けるほどあっさりと作業は終了した。
「術が解けたのだから、早くこれを外せ。」
アザリ君は、手錠のはまった右手を私の目の前に持ってきた。
欠片を戻しても、ディルが言っていたように、アザリ君にはこれといった変化はないように思われた。
仕方ない。
でも私はアザリ君を捕まえた。
逃がすつもりはないので、思い出してもらえるチャンスはまだあるはずだ。
「ディルさん、ありがとうございました。胸、出来れば痛くないように持っていってもらえますか。」
私はアザリ君の言うことを無視して、ディルに話し掛けた。
そして胸を突き出すようにして立ち、目を瞑った。
さようなら、湯に浮かぶほどの脂肪。
覚悟を決めて、待ったのだがいつまでもそれらしい衝撃は襲って来ない。恐る恐る目を開けると、ディルと青山くんの笑顔が見えた。
「ふふっ。アタシは、アオヤマと契約したの。だからお嬢ちゃんの胸はいらないわ。」
「ええっ!? そんな訳にいかないですよ。」
どうして、青山くんが?
悪魔との契約には相応の見返りが必要なのだ。それを青山くんに払わせる訳にはいかない。
「安心して、爽子ちゃん。ディルには、いらないものを引き取ってもらうだけだから。」
青山くんは、幻覚を解いたのにも関わらず優しい笑顔を私に見せてくれた。
「でも。」
言い淀む私にの頬に、青山くんは触れた。そして、――私を安心させる為なのだろうか、そこを優しく撫でた。
「それは俺には必要のないもの、だから。」
切ないような、晴れやかなような、色々な感情の入り混じった笑顔は、私にそれ以上の反論を言わせなかった。
「色々と、ありがとうございました。朝ご飯までごちそうになってしまってすみませんでした。」
翌朝、私は離れの玄関で拓夫さんにお礼を言った。
「こちらこそ。悪魔に許してもらえて助かったよ。」
拓夫さんはアザリ君に、以前のことを謝った。
アザリ君は、封印され2年間閉じ込められていたことは覚えていたものの、拓夫さんを許した。そればかりか、サーニャたんの幻覚の術のやり直しをしてもいいとまで言った。
きっとアザリ君は、自分の失敗をずっと悔いていのだろう。
姿は大人へと変化し、目つきや喋り方も変わってしまったけれど、悪魔のくせに妙に真面目なところは変わっていないようだ。
私の知っているアザリ君を感じられて嬉しくなる。
しかし、拓夫さんはアザリ君の申し出を断った。
「例え代償がいらないとしても、このままでいい。サーニャは、この姿のままで、いいんだ。そのままのサーニャを俺は愛しているから。」
そう言って、照れたように隣を見て笑った拓夫さんは、とても幸せそうだった。
「拓夫さん、サーニャたん、お元気で。お幸せに。」
不在の拓夫さんの祖父母にも、伝言でお礼を伝えてもらうようにお願いした後、車に乗り込んだ。
一緒に食事をした時、拓夫さんの祖父母はディルを見ても特に何も言わなかった。
見えてはいないものの、サーニャたんをお嫁さんのように扱っていたので、羽が生えた友人くらいでは驚きもしなかったのかもしれない。
「拓夫さん、幸せそうだった。」
「そうだね。」
私の独り言のような呟きに、そう返事をしたのは青山くんだった。
「お嬢ちゃん、アタシが、アザリシェルムを逃げないように見張っててあげるから、手錠外したら?山道、それじゃあ運転出来ないでしょう。」
ディルは青山くんの部屋で見返りをもらう約束をしたようで、一緒に車に乗ってきていた。
もちろん、手順で繋がれたアザリ君も一緒なので四人でのドライブになる。
「お願いします。」
私はアザリ君から手錠を外し、車を走らせた。
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