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何でもない大切な日常
しおりを挟む一緒に暮らす、と言っても私は仕事に行かなくてはいけないから、ずっと一緒にはいられない。
なので、一緒にいられる時間はなるべく側にいてほしいので、手錠で彼と繋がっている。
まるで、監禁をしているかのようだ。
でもアザリ君は、いざとなったらそれを外せることを私は知っているので、あまり罪悪感はなかった。
契約をしたのだから、彼はいなくならないとわかっている。
けれど、文句も言わず黙って私の後をついてくるアザリ君が愛し過ぎるのも、手錠をかけることを止められない要因の一つでもあった。
「アザリ君、手出して。」
今日も私は、帰って早々にお風呂を済ませ、アザリ君と手錠で繋がった。
こうすればトイレ以外は、朝まで側にいてくれる。
「不便ではないのか。」
彼は私の手元を見ながら、少し呆れたように言った。
私は今、再び二人で一緒に住み始めてから、初めての料理を作っている。
やっぱり、手の込んだものは作れないので、和風パスタとスープというシンプルメニューだ。
それを最近買ったテーブルに並べた。
「全然、不便じゃない。」
多分、アザリ君の方が不便なはずなのに、そんなことを聞いてくるのがおかしくて、私は目を細めてしまう。
「さ、食べよっか。」
私達はテーブルの前に並んで座った。
「はい、あーんして。」
私はアザリ君の顔の前に、フォークでくるくると巻いたパスタを近付けた。
彼は一瞬慌てた顔をしたけど、すぐにいつものクールな表情になった。
「……前にも言ったが、悪魔は、いんしょ、んぐっ。」
口が開いたのをいいこと、パスタをねじ込むようにして食べさせた。
「美味しい?」
アザリ君は返事をしなかった。
でも、私がまたパスタを近付けると、黙って口を開けた。
あらやだ。可愛い。
以前の素直なアザリ君も可愛かったけど、クールなアザリ君もいいなぁ。
胸がキュンキュンした。
私が調子に乗って、スープを掬ったスプーンを口元に持っていったら『これは左手でも大丈夫だ』とスプーンを奪われてしまった。
私の一方通行のような気がするけど、まるで新婚生活のように楽しい毎日だった。
少しずつではあるけれど、アザリ君とは仲良くなれている気がする。
布団を二つ並べて寝ることも、初めは抵抗していたけど、最近は諦めたのか受け入れてくれている。
「ねぇ、喋り辛くないの?」
横に寝ているアザリ君に、ずっと疑問に思っていたことを聞くことにした。
「……どういう意味だ?」
彼は横目でチラリと私を見た。
「私は、どっちでもいいんだけどね。」
顎のラインがすっとした、アザリ君のキレイな横顔はいつ見てもうっとりする。
「前は、自分のこと僕って言ってたし、私のことは名前で呼んでたんだよ?」
「イメージが、あるだろう?」
「悪魔の?」
「そうだ。」
まぁ、確かに今の口調の方が悪魔っぽいかもしれない。
でも、もう一人私が知ってる悪魔は、おネエ口調だから、なんとも言えないけど。
「……お前は、そっちの方が、話しやすいのか?それなら、合わせてやってもいい。」
ああ、やっぱり喋り辛かったのね。
なんとなくばつが悪そうに喋るアザリ君を見てそう思った。
「そっちの方が、私のこと思い出しやすいかもね。」
私は助け船を出してあげたつもりだったが、言われた言葉に胸を撃ち抜かれた。
「……うん。そうだ、よね。じゃあ、爽子の言う通りにする。」
よ、呼び捨て!
これは、マズイ。
凄い破壊力だ。
心臓がバクバクして、アザリ君に聞こえてしまいそう。
なんだか体が熱くなって、汗も出てきた。
私は右手を振って、自分の顔に風を送った。
「爽子、どうしたの?やっぱり変?」
アザリ君は、不思議そうに私の顔を覗き込んできた。
もう、ダメ。
喋り方のせいもあって、急に距離が狭まった気がする。
まともにアザリ君の顔が見られない。
何でこんなに距離が近いのか。
それは間違いなく私が掛けた手錠のせいなのだけれど、今ばかりは外したい。
夜風に当たってクールダウンしたいっ。
「ちょっと、コンビニ行ってきゅる。…くるっ。」
私は、手錠を外し、その場から逃げ出した。
以前一緒に暮らしていた時は、自分の気持ちを認識していなかったせいもあって、可愛い弟くらいの距離感で接することが出来た。けど、今、あんなふうに名前を呼ばれて見つめられたりしたら、アザリ君を男だと意識してしまう。
なんならムラムラし過ぎて襲ってしまいそう。
でも、彼にそんな気持ちがないのに、こっちから迫るわけにはいかない。
私は、寒空の下、アイスを食べて火照る体を冷ました。
「それ、美味しい?」
「ひっ。」
アザリ君だった。
「ど、ど、どうしてここに?」
「…危ないから迎えにきた。夜中に、一人で出掛けないで。」
アザリ君は、前に買ったパーカーを着て、追いかけてきてくれた。
「……ありがと。」
アザリ君は、優しい。
私のことが好きじゃなくても、こんなに気を使ってくれる。
凄く嬉しいけど、胸が苦しい。
ああ、私は本当にアザリ君か、好きなんだ。
二人で並んで歩き、月に照らされた彼の横顔を見ながら、そう思った。
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