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暴走
しおりを挟む「どうして、私としたくないの?」
まずはここからだ。
「したく、ないわけじゃ…。」
「アザリ君、全部話して。」
私の気迫に圧されたのか、少し怯えながら彼は話し始めた。
「魔女にしたくないから。」
「だから、どうして?」
「魔女になったらどうなるか知ってる?」
「アザリ君から定期的に魔力を貰わなきゃ、砂になっちゃうんでしょ?魔力の取り込み方も知ってる。」
「と、取り込み、方って…。」
アザリ君は赤くなって顔を両手で隠した。
可愛い。可愛いけど、今はその話じゃない。
「それに何か問題あるの?」
「…うん。」
アザリ君は、一転して憂いを帯びた顔になった。
「魔女は、誰の魔力でもいいんだ。」
魔女にとっての魔力はご飯と一緒で、魔力が欠乏してくると思考力が鈍り、誰の魔力でもいいから受け入れたくなる、らしい。
「だから私はディルさんと会えなくなるのね。迷惑かけちゃうから。」
ディルも少ないとはいえ魔力持ちだ。『お腹減ったから血を飲ませて』なんて言っちゃう可能性があると。
「ううん、迷惑をかけるとかじゃなくて、悪魔はそのこと自体が嫌なんだ。……自分でない魔力を取り入れた魔女を悪魔は許すことが出来ない。最悪の場合、魔女を殺してしまうこともある。」
アザリ君は辛そうな顔をしている。
「人間で言う不倫なんかよりももっと罪深いことだと考えてしまう。だって、魔力は魔女の『生』と直結しているから。」
「それは、アザリ君もそう思うってこと?」
アザリ君に殺されてしまうかもしれないなんて、想像できない。
「……僕も、成体になるまでそんなこと理解出来なかった。でも、今なら分かる。今度こそ自分だけのモノにしてしまおうと思って、嫉妬に狂った悪魔は魔女を手に掛けるんじゃないかって。……僕自身も、そうなったら何をしてしまうか、わからない。」
「私が、他の悪魔から魔力を取り入れなければいい話だよね?」
「そうだけど、魔力が欠乏している魔女はその誘惑に勝てない。一番効率のいい魔力の、取り込み方は、交接、だから、それをしてしまう可能性だってある。」
「アザリ君がずっとそばにいて魔力をくれればいいじゃない。」
それが一番いい方法だ。
「うん。だから、僕の父は今もそうしているよ。僕の母はずっと父に、監禁、されてるんだ。……だから、爽子を魔女にはしない。」
――私の、ためだったんだ。
以前からアザリ君は、私の生活を尊重してくれていた。
これは想像だけれど、成体になる前のアザリ君は、私を魔女にしても私がしたい生活をさせられるという余裕があったのではないだろうか。
でも、今のアザリ君には、それが保証できない。だから、私を抱かないのだ。
「私は、いいよ。」
よく考えて答えを出さなければいけないのだと頭ではわかっている。
問題は多いたはずだ。
けれど、アザリ君とずっと一緒にいられる方法はそれしかないのだから、私の答えは決まっている。
アザリ君は、暫し唖然とした後に、何かに耐えるように自分の両手を強く握りしめた。
「爽子、何、言ってるの?仕事だって、行けなくなるんだよ?家族にだって、なかなか会えなくなるかもしれないよ?」
「いいよ。だって、アザリ君が一緒にいてくれるんでしょう?」
今のままの生活で、アザリ君と共に生きていけるのならそれがベストだ。けど私の優先順位の一位にアザリ君がいる以上、他のものは諦めてもいい。
「でも、……駄目、だよ。」
そう言っているアザリ君の瞳には迷いがあった。
「私はアザリ君が好き。ずっと一緒にいたい。返事は今じゃなくていいから…。私、待ってるから。」
彼が私と共に生きる決意をしてくれるのを。
アザリ君は戸惑いながらも頷くと、私をぎゅっと抱き締めた。
絶対にアザリ君の魔女にしてもらおう。この胸から離れたくない。
だから、待っているだけではなくやらなければならないことがある。
明日、辞表を出そうと思う。
私の退路がなくなれば、アザリ君も決意しやすいだろう。
生活費のことは、退職金もあるし、一度は断ったけど押し入れに入れっぱなしのアザリ君の現金もある。
なんとかなる。
「ねぇ、アザリ君。」
「何?爽子。」
「キス、しよっか。」
私はいたいけな子供を誑かすかのように、情熱的なキスをした。
触れるだけのキスだと思っていたであろうアザリ君はびっくりして、顔を引こうとした。でも私はそれを逃がさず、彼の頭を両手で包み込むようにしてロックし、舌を入れた。
「そ、爽子っ、んっ、だめ、っ…。」
アザリ君は、そう言いながらも私が舌を絡めると、自らの舌も遠慮がちに絡めてきた。
気持ち、いい。
アザリ君と唇を合わせると体がピリピリと痺れてくる。
ひょっとしたら、微力な魔力を体が感じているのかもしれない。
私は恥ずかしさを忘れ、夢中で彼の口の中を犯した。
薄目を開けてアザリ君を見ると、頬を赤く染め、うっとりとした顔をして私を受け入れている。
これは、私の作戦だ。
キスだけじゃなく、その先を我慢できなくさせて、共に生きる決意をしてもらう作戦。
『色仕掛』とも言う。
姑息な手段のような気がするけど、私の想いが伝わるし、アザリ君の性欲にも、直接訴えかけられる。
でも、アザリ君の唇が気持ち良すぎて、私の方が我慢できなくなりそうなのが難点だ。
けど、ギリギリまで誘惑してやる。
私は彼から唇を離し、じっと見つめた。
アザリ君は、息を荒くして瞳を潤ませている。
「アザリ君が決意してくれるまで、こうやって毎日キスするからね。」
毎日。
その宣言通り、私は悪魔を唆す。
「っ…、そ、うこ、ちゅ、激しっ、はっ。」
しかし、アザリ君はしぶとく、なかなか落ちて来なかった。
今日は彼を押し倒して上に乗り、キスをしている。
ただ、彼のキスが日に日にうまくなっていって、私の方が彼の同意を得ずに襲いかかりそうだった。
仕事は辞めた。
辞表を渋々ではあったけど受け取ってもらって、引き継ぎも終わり、今は有給休暇を消費中だ。
準備は出来た。
だから早く抱いてほしい。
「僕、っ、我慢できなくなっちゃう。んっ。」
うん。我慢できなくさせてるんだもん。
最近ではさりげなく彼の腰辺りをサワサワ触って、更なる揺さぶりをかけている。
「我慢、しなくて、いいんじゃない?」
「でもっ、魔女にしたく、ない。」
「アザリ君、私は、したい。抱いて、ほしい。」
彼の欲望が、今、固く大きくなっているのを知っている。私のお尻にずっと当たっているのだ。
「でもっ。」
アザリ君はまだ否定の言葉を吐く。
こんなにガチガチにさせて我慢出来るなんて、凄い精神力だ。
私はもう我慢できないのに。
「アザリ君が、ほしい。」
視線を合わせ、哀願する。
アザリ君を見つめる自分は今、とても厭らしい牝の顔をしているだろう。
「っ…。爽子、…ごめん、なさっ。」
背中に手が回され、あっという間に天地が逆になった。
アザリ君の色っぽい熱の込もった眼差しにドキリとした。
「ごめん、爽子を、魔女にして、いい?」
アザリ君の声は掠れていた。
「うん。私を、魔女にして。」
私はそう言って目を瞑った。
……。
…………。
………………。
ん?
何でなんにもして来ないの?
私、押し倒されたんだよね?
目を開けると、アザリ君が固まっていた。
「どうしたの?」
「僕、思い、出した。」
「え?」
「爽子さんのこと、全部。」
正直、このタイミングで?今?という気分にはなったけど、記憶が戻ったのは喜ばしいことだ。
「良かった。」
これで心置き無くアザリ君と一つになれる。
でも、続きをしようと思ったのは私だけらしく、アザリ君は私から体を離した。
「全然、良くない。僕、爽子さんと一緒にはいられない。」
私は『またか』『今度は何なんだ』という言葉をなんとか飲み込み、ため息混じりに言った。
「どういうことだか、話してもらえる?」
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