【R18】1LDK、イケメン悪魔憑きアパートに引っ越しました。

さかい 濱

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闇雲に探す

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「どうして?」

「……したく、ない。」

「今のところはってこと、だよね?」

アザリ君の言い方はそんな感じではなかった。
でも、少しの希望に賭けて聞いてみた。

「……この先も、ない。」

アザリ君は泣きそうな顔をして残酷なことを言った。

そんな顔するなんてずるい。私の方が泣きたい気分なのに。
私は女として『したくない』とアザリ君に言われている。
消えて無くなりたい気分だ。

「じゃあ、なんで、キスしたい、だなんて言ったの?」

「っ、ごめん、なさい。」

違う。謝ってほしいわけじゃない。

でも、これ以上追い詰めてはいけない。余計に好かれなくなるだけだ。

彼は、やはり昔の記憶がないと私を好きだと思ってくれないのだ。
最近いい雰囲気になってきて、私のことを好きになってくれたのかも?なんて期待していたけど、今の私じゃ抱きたいほどの魅力がないということだ。

魔女にするということは、魔力を与え続け、長い時間を一緒にいるということで、そこまでのことをアザリ君は考えていないのだ。


私の記憶を失う前のアザリ君は、魔女の話をした時、責任を持って魔力を与え続けてくれると言っていた。

でも今のアザリ君はそう思っていない。

今の私と昔の私ではそんなに変わりはないはずなのに。
それは、以前のアザリ君の私に対する思いが『刷りこみ』によるものだと確定したということを意味するのではないか。

ショック過ぎて、私は考えることをやめたくなった。

「アザリ君、ご飯、食べよっか。」

私たちはお通夜のような夕食を済ませ、布団をなるべく離すようにして寝た。

寝て起きたら何かいい考えが浮かぶかもしれない。

だって、アザリ君が大して私を好きじゃなくても、諦めることなんて出来ないのだ。




今朝もアザリ君は、仕事に出掛ける私を抱き締めようとした。
私はそんな気分にはなれず、彼を避けるように部屋を出てきてしまった。

きっと、アザリ君の中でハグとキスは挨拶なんだ。
アメリカ人と一緒で親しい人への挨拶。
ただそれだけなんだ。

私はため息を吐いた。
吐く息が白くない。

「もう、4月だもんね。」

そんなことを歩きながら一人、呟いた。

アザリ君と出会ってもう一年になる。
長かったのか、短かったのかわからない。色々なことがあって短くも感じたけど、アザリ君がいない日々は、気が遠くなるほど長く感じた。

あの、寂しくて苦しい日々には絶対戻りたくない。

だったらすることは一つしかない。

アザリ君に、昔の私の記憶を思い出してもらう。その思いが『刷りこみ』でも何でもいい。魔女にしてもいいと思えるほど好かれたい。

私はあるかどうか分からない、記憶の封印を解く鍵を探すことにした。
ディルは『五感のうちのどれかが、何かによって刺激されれば』と言っていた。

触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚。

見当もつかない。

でも私との記憶を封印したのだから、私に関わる何かのはずだ。
取り合えず、選択肢の少ないものから潰していくことにした。




「ただいま。」

「…おかえり。」

アザリ君が家にいてくれてホッとする。
けど、もう彼は私を、抱き締めようとはしてくれなかった。
朝、あんな風に避けたのだから、当たり前だ。

「凄い荷物だね。言ってくれれば荷物持ちしたのに。」

そう言って、買い物袋を持ち、冷蔵庫にしまうために中身を出してくれた。

赤ワインと、シャンプーと親子丼の材料。それに、スモークサーモンと…。

味覚と嗅覚に関する、考えつくものを全て買ってきた。ハーブティーと味噌汁と小松菜はもう食していたので違うことは確定している。ちなみにシャンプーとは、青山くんの使っていたものだ。これを鍵にはしないだろうとは思ったけど、一応買ってみた。


アザリ君は『今日は随分豪華だね』と言いながら全ての料理に手をつけてくれたけど、思い出した気配は微塵もなく全敗だった。
一番期待していた、赤ワインもグラスに入れた分は飲んでくれたけど、それも違うようだった。

味覚は鍵じゃない。

「アザリ君、これ匂い嗅いでみて。」

私はシャンプーとコンディショナーのキャップを開け、鼻先に持っていった。

「……どう?」
「え?香り?い、いいかもね。」

これも駄目か。

私はガッカリしながらシャンプーとコンディショナーを洗面台の下の収納にしまおうとした。

「それ、爽子が使うんじゃないの?」

「うん。」

以前もこんな会話をしたことをふと思い出した。抱き枕に香りを吹きつけていた時だ。

あの時のアザリ君の不思議そうな顔を思い出して、ふっと笑顔になってしまった。でも何も表情の変わらないアザリ君を見ると、それを思い出したのは私だけだったようだ。

収納の一番奥に、シャンプーとコンディショナーを置き収納の扉を閉めた。

青山くんのシャンプーは使わない。使わないけどこのシャンプーはなかなかのお値段がする。だから次にカフェにテイクアウトで行った時に、青山くんに事情を話して、欲しければ渡してこようかと思っている。

私はため息を一つ吐いて、次の鍵候補のことに頭を巡らせた。

食べ物でも香りでもなければ、次は視覚にしよう。確か、アザリ君がお気に入りで毎週見ていたドラマがあった。それは恋愛ドラマで、私も一緒にソファーに並んで見たこともあった。

DVD化されているだろうか。

「あの、アザリ君が好きだった火曜日にやってたドラマあったよね?それのタイトルなんだっけ?主演が――」

「あ、あのさ、ひょっとして僕の記憶の鍵を、見付けようとしてる?」

「あ、……うん。」

やっぱり気が付くよね。昨日の今日だもん。諦めの悪い女だと思われたかな。

怖くなって表情を伺ってみると、彼は情けない顔をしていた。

「爽子は、僕と一緒に住むの、嫌になっちゃったの?」

「……え?」

思いもよらないことを言われポカンとしてしまう。

「だって、思い出すまでしか爽子と一緒に暮らせないんでしょ?そういう、契約をしたから。」

「……へ?」

私はまた、間違いを犯すところだった。

『私を忘れて』と言って記憶を無くしてしまったアザリ君に対して『思い出すまで一緒に住んでほしい』は、そう解釈されてしまっても仕方がない。

でもすぐに否定はしなかった。だって、アザリ君の言っていることはおかしい。
ずっと一緒に住みたいって言っているように聞こえるから。
付き合いたくはなくても一緒に住みたいなんてまるで『都合のいい女』ではないか。

「僕は、もういらない?」

アザリ君は、私が『うん』と言えば泣いてしまいそうなほど悲痛な顔をしている。

なぜそんな顔をするのか。胸がとても苦しくなる。

「いらないわけ、ないっ。ずっと一緒にいたいよ!…でも私のこと好きじゃないのに、そういうこと言うの、ほんと、やめて。」

「……僕が、爽子を好き、じゃない?」

「うん。昨日の、そういうことだよね?」

「違うよ。す、好き、だよ。」

アザリ君は、顔を真っ赤にしている。

「……はい?」

「僕は爽子が、好き。」

その真剣な眼差しは、嘘を言っているようには見えない。
昨日のことは聞き間違いだったのだろうか。いや、そんなはずない。

「だって、体の――」

「それは、しない、けど。」

すぐさま否定されて余計に混乱する。
意味が、分からない。
私のことが好きで、ずっと一緒に住みたいのにセックスはしたくないなんて、中学生だってそんなこと言わないんじゃないだろうか。

「アザリ君、そこ座って。」

私は座布団を指差した。

「どういうことだか、話してもらえる?」

彼はまるで捨て犬のように、肩をすぼめて座布団に座った。
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