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作戦開始
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それから私たちは居酒屋で『亮介に一泡吹かせる作戦』の戦略会議を行った。
ああでもないこうでもないと悩むまでもなく方針はすぐに決まった。
別れ話の後の『別れられて良かったね~☆』とホッとしている亮介達の前に颯爽と登場。『よくも俺の好きな女苦しめてくれたな』と長谷川くんが二人に詰め寄る。それを私が親しげな態度で止めて亮介に私と長谷川くんの関係について疑心暗鬼にさせる。そこで私が『長谷川くんはただの友達だよ?でも私はずっと今の亮介と同じ気分だった』と告げて意趣返しの完成である。
「あたるちゃん、アンタがどれだけ格好良く出来るかで相手のダメージが違うんだからね。分かってる?」
「おう、頑張るよ。」
「頑張り過ぎて残念なところ、出さないでよ?」
「……チッ、出すわけないだろ。」
まるで高校時代のような二人のやり取りに笑みが溢れる。
「長谷川くんにもし残念なところがあるのなら、それくらいが丁度いいよ。」
格好良くて気が利いて、優しくてスマートな彼は、あまりにも理想的過ぎて畏れ多い。残念なところがあるのなら是非教えてもらいたいくらいだ。
「……真由は優しいね。」
「ふふ、今頃分かったの?」
私がおどけたように笑うと長谷川くんも楽しそうに目を細めた。桜花ちゃんは私たちのやり取りに『付き合ってらんなーい』と言って追加のドリンクを注文した。
お酒がいい感じに回ってきて、長谷川くんとも気軽な感じで話せるようになっていた。
それが嬉しくて、いつまでもこの時間が続けばいいのにと思ってしまった。
「……それでさ、アンタ、一泡吹かせた後、あの男と別れるの、続けるの?」
桜花ちゃんが少し改まったように私に聞いてきた。
どうするべきなんだろうか。
一泡吹かせたい、そう思っているのは間違いないけれど、それが亮介に改心してほしいが為の行動なのかと聞かれると違うような気もする。
「……うーん。あんなに女友達を大事にするんだったら、私が彼女でいる必要はないかな、とは思う。」
「別れるってことね?」
「桜花、結論急ぎ過ぎ。真由は明日が終わってからゆっくり考えればいいよ。」
私を気遣った発言をしてくれる長谷川くんに対して、嬉しく思う気持ちに少しだけ残念な気分が混ざってしまって、自分に呆れる。
長谷川くんは友達。
友達だから優しくしてくれる。
勘違いをしてはいけない。
私は高校の時からさんざん自分に言い聞かせてきたことをまた頭の中で繰り返した。
☆★☆★
時間と場所は直接聞かなくても予想できた。
これまでと同じように場所は○×町のファミレスMだろう。時間は、夜と言っていたので7時以降かと思われる。今までに行われた話し合いも大体はこの時間からだった。
亮介本人に直接聞くと何でそんなこと聞いてくるのかと警戒されそうだったので敢えて聞くことはしなかった。
でも、多分間違いないだろう。
そう思って7時ちょっと前から、ファミレスの入口がよく見える場所で私たちは待機していた。
その間、空白の二年を埋めるように、沢山の話をした。
二人きりはやはり緊張してしまって、話を聞く方に専念したけれど楽しく会話が出来た。
けれど一向に亮介達はやってこなかった。時計が8時を過ぎた頃、私は計画の中止を申し出たのだけれど『大丈夫』と言い、何故か楽しげな長谷川くんに押し切られてもう少し待つことになった。
今は彼女がいなくて今日も予定が無いことは確認済みだけれど、バレンタインに彼を独り占めしていることに罪悪感を覚えてしまう。
申し訳なくてチラリと横目で長谷川くんを見ると目が合って微笑まれた。
「真由、寒くない?」
正直に言うと寒い。
かなり厚着をしてきたつもりだったけれど、こんなに長い間外で待ちぼうけを食らうとは思っていなかった。2月の寒空の中、一時間もいればすっかり身体は冷えていた。コートのポケットに入っているカイロを撫でながら『少し寒い』と答えた。
中で待っていた方がいいのかもしれない。予定としてはあちら側の話し合いが終り三奈ちゃんの彼氏が帰った後に店に入って偶然を装うつもりだったけど、少しプランを変えよう。
そんなことを考えていると私の体がふわりと温かいもので包まれた。長谷川くんのコートだった。彼は自分が着ているコートを脱いで私に着せたのだ。
これじゃあいくらなんでも彼が寒い。それに長谷川くんの香りに包まれて身体が火照り、寒さは一気に吹っ飛んだ。私はすぐにそれを返そうと思ったけれど大丈夫だと拒否される。
「体熱くって。だから着てて。」
確かに彼の顔は血色が良いように見える。
「熱いって、風邪の引き初めかも。もう帰ろう。変なことに付き合わせてごめん、帰ってゆっくり休んで。」
「違う違う。熱いのは、多分真由と久々に二人っきりで話をして興奮したからだと思う。……それに、俺はもうちょっとここにいたいんだ。」
興奮するような話をしただろうかと考えていたら、ふいに長谷川くんは夜空を見上げた。つられるように私も空を見上げると、雲か厚く星どころか月も見えない夜空が見えた。
「そう言えば昔、高台に星を見に行ったことがあったよな。」
「うん。みんなで自転車で行ったんだけど、桜花ちゃんが坂道の途中でもう無理って言い出したから、桜花ちゃんと高島くん(※桜花の現在の恋人)を残して二人で頂上まで行ったんだったよね。」
「そうそう。……あん時はきれいな星空だった。」
「うん。きれいだった。」
私たちは、そこに満天の星空があるかように、暫くの間、空を見つめていた。
ああでもないこうでもないと悩むまでもなく方針はすぐに決まった。
別れ話の後の『別れられて良かったね~☆』とホッとしている亮介達の前に颯爽と登場。『よくも俺の好きな女苦しめてくれたな』と長谷川くんが二人に詰め寄る。それを私が親しげな態度で止めて亮介に私と長谷川くんの関係について疑心暗鬼にさせる。そこで私が『長谷川くんはただの友達だよ?でも私はずっと今の亮介と同じ気分だった』と告げて意趣返しの完成である。
「あたるちゃん、アンタがどれだけ格好良く出来るかで相手のダメージが違うんだからね。分かってる?」
「おう、頑張るよ。」
「頑張り過ぎて残念なところ、出さないでよ?」
「……チッ、出すわけないだろ。」
まるで高校時代のような二人のやり取りに笑みが溢れる。
「長谷川くんにもし残念なところがあるのなら、それくらいが丁度いいよ。」
格好良くて気が利いて、優しくてスマートな彼は、あまりにも理想的過ぎて畏れ多い。残念なところがあるのなら是非教えてもらいたいくらいだ。
「……真由は優しいね。」
「ふふ、今頃分かったの?」
私がおどけたように笑うと長谷川くんも楽しそうに目を細めた。桜花ちゃんは私たちのやり取りに『付き合ってらんなーい』と言って追加のドリンクを注文した。
お酒がいい感じに回ってきて、長谷川くんとも気軽な感じで話せるようになっていた。
それが嬉しくて、いつまでもこの時間が続けばいいのにと思ってしまった。
「……それでさ、アンタ、一泡吹かせた後、あの男と別れるの、続けるの?」
桜花ちゃんが少し改まったように私に聞いてきた。
どうするべきなんだろうか。
一泡吹かせたい、そう思っているのは間違いないけれど、それが亮介に改心してほしいが為の行動なのかと聞かれると違うような気もする。
「……うーん。あんなに女友達を大事にするんだったら、私が彼女でいる必要はないかな、とは思う。」
「別れるってことね?」
「桜花、結論急ぎ過ぎ。真由は明日が終わってからゆっくり考えればいいよ。」
私を気遣った発言をしてくれる長谷川くんに対して、嬉しく思う気持ちに少しだけ残念な気分が混ざってしまって、自分に呆れる。
長谷川くんは友達。
友達だから優しくしてくれる。
勘違いをしてはいけない。
私は高校の時からさんざん自分に言い聞かせてきたことをまた頭の中で繰り返した。
☆★☆★
時間と場所は直接聞かなくても予想できた。
これまでと同じように場所は○×町のファミレスMだろう。時間は、夜と言っていたので7時以降かと思われる。今までに行われた話し合いも大体はこの時間からだった。
亮介本人に直接聞くと何でそんなこと聞いてくるのかと警戒されそうだったので敢えて聞くことはしなかった。
でも、多分間違いないだろう。
そう思って7時ちょっと前から、ファミレスの入口がよく見える場所で私たちは待機していた。
その間、空白の二年を埋めるように、沢山の話をした。
二人きりはやはり緊張してしまって、話を聞く方に専念したけれど楽しく会話が出来た。
けれど一向に亮介達はやってこなかった。時計が8時を過ぎた頃、私は計画の中止を申し出たのだけれど『大丈夫』と言い、何故か楽しげな長谷川くんに押し切られてもう少し待つことになった。
今は彼女がいなくて今日も予定が無いことは確認済みだけれど、バレンタインに彼を独り占めしていることに罪悪感を覚えてしまう。
申し訳なくてチラリと横目で長谷川くんを見ると目が合って微笑まれた。
「真由、寒くない?」
正直に言うと寒い。
かなり厚着をしてきたつもりだったけれど、こんなに長い間外で待ちぼうけを食らうとは思っていなかった。2月の寒空の中、一時間もいればすっかり身体は冷えていた。コートのポケットに入っているカイロを撫でながら『少し寒い』と答えた。
中で待っていた方がいいのかもしれない。予定としてはあちら側の話し合いが終り三奈ちゃんの彼氏が帰った後に店に入って偶然を装うつもりだったけど、少しプランを変えよう。
そんなことを考えていると私の体がふわりと温かいもので包まれた。長谷川くんのコートだった。彼は自分が着ているコートを脱いで私に着せたのだ。
これじゃあいくらなんでも彼が寒い。それに長谷川くんの香りに包まれて身体が火照り、寒さは一気に吹っ飛んだ。私はすぐにそれを返そうと思ったけれど大丈夫だと拒否される。
「体熱くって。だから着てて。」
確かに彼の顔は血色が良いように見える。
「熱いって、風邪の引き初めかも。もう帰ろう。変なことに付き合わせてごめん、帰ってゆっくり休んで。」
「違う違う。熱いのは、多分真由と久々に二人っきりで話をして興奮したからだと思う。……それに、俺はもうちょっとここにいたいんだ。」
興奮するような話をしただろうかと考えていたら、ふいに長谷川くんは夜空を見上げた。つられるように私も空を見上げると、雲か厚く星どころか月も見えない夜空が見えた。
「そう言えば昔、高台に星を見に行ったことがあったよな。」
「うん。みんなで自転車で行ったんだけど、桜花ちゃんが坂道の途中でもう無理って言い出したから、桜花ちゃんと高島くん(※桜花の現在の恋人)を残して二人で頂上まで行ったんだったよね。」
「そうそう。……あん時はきれいな星空だった。」
「うん。きれいだった。」
私たちは、そこに満天の星空があるかように、暫くの間、空を見つめていた。
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