転んで頭を打って目を覚ましたら非処女

さかい 濱

文字の大きさ
5 / 41

ちりちり ★真木

   
医師から中に入るように声を掛けられて、室内に一歩足を踏み入れた。
そこには医師の他に看護師も一人いたが、やはりというか本人が拒否しているせいなのか家族の姿は無かった。

ルイは頭に包帯を巻かれて、点滴をしている。

横になってはおらず、ベッドを起こし背をもたれさせて座っていたが、俺の姿を認めると目を真ん丸にして背を起こした。

すぐに傍へ駆け寄りたかったけど、ルイは8年ほどの記憶が抜けている。急に大人になった俺が近付いたらパニックになるかもしれない。
入口付近から声をかけた。

「ルイ、俺、真木。……わかるか?」
「……真木、く、ん?」
「そうだよ」

俺が頷くと、不安げだったルイの顔は緩んだ。そして見開かれていた瞳も細められ、そこから涙がポロリと溢れ落ちた。

「真木君っ、真木君っ」

ルイはベッドから降りてこちらへ来ようとして看護師に止められた。俺が駆け寄って傍に行くと、座ったまま俺の腰に手を回して抱きついてきた。
そして俺の名字を嗚咽混じりに何回も呼んだ。

俺に抱きつくルイの力は強くて、ぎゅうぎゅう締め上げられて少し苦しかった。でも温かい体温が伝わってきて、ちゃんとルイが生きていることを実感して安堵した。

頭を撫でようかと思ったけど、痛々しく包帯が巻かれているから止めた。

「ルイ、頭、痛いか」


ルイは俺に抱きついたまま鼻をすすりながら首を横に振った。

「でも、すごく怖いよ。真木君」
「……うん。何が怖いか話せるか?」

丸めている背中をそっと撫でると、ルイは抱きついている腕の力を少しだけ弱めて顔を上げて俺を見つめてきた。
泣き腫らし真っ赤になった瞳で縋るように見られて、俺は胸がぎゅっと締めつけられて痛かった。
頬についた涙の跡を指で拭ってやるとルイは堰を切ったように『怖いこと』を話し始めた。

「僕、体、おっきくなってる。ヘン。声もヘン。脇もおちんちんも毛が生えてる、ちりちりの……気持ち悪い。怖い。……病院も、なんか、やだ。怖い。あと……お母さん…と、お父さんと、お祖母ちゃんも、ここに来る? 会いたくない。怖い。……真木君、怖いよ」

ルイは昔から怖がりだった。

そうでなくても目を覚ましたら病院にいて、自分の体つきが急に変わっていしまっていたら、恐怖を覚えるのは仕方の無いことだ。

しかも、こんな精神状態の時に仲の良くない家族に会わなければいけない心配もあって、混乱してる。

俺はルイの恐怖を少しでも軽くしてやりたかった。

「ルイ、体が大きくなってるのは、慣れなくて怖いよな。俺もさ、大きくなっちゃって、声も低くなって、…ヘン、だよな?」
「ううん、そんなことない。……真木君は、すごく、かっこ良くなってる」

ルイは遠慮がちにそう言ってくれた。
確かにヘンかも、みたいな返事を想定していて、俺もヘンだから気にすんな、みたいな感じで諭そうと思ってたからちょっと気まずい。
ルイ少年の美的感覚には疑問符が浮かばざるを得ないが、純粋な瞳を向けてくるルイに「んなことあるかい」とツッコミを入れることも出来ずに、不思議な空気が流れてしまった。が、気を取り直す。

「俺も毛、生えてるから。ちりちりのヤツな」
「……ほんと?」
「ああ、だから俺とお揃いなんだよ。お揃いなら怖くないだろ?」
「……お揃い」

ルイが少しだけ表情を和らげてくれたのを見て、ホッとする。

「病院も怖いよな。俺も未だに怖い。今日の夜はここに泊まるから一緒に怖がろうぜ」
「えっ、一緒に? いいの?」
「大丈夫ですよね。先生」

医師と看護師は俺たちの会話を見守っていたけど、話を向けられると大きく頷いた。

「簡易ベッドもあるし、大丈夫ですよ」

ルイは「キャー」と歓声を上げた。

大人の声で子供のように奇声を上げて喜ぶ姿はアンバランスだったけど、微笑ましくもあって俺も医師も看護師もみんな笑った。


あと、もう一つの恐怖は俺には口出しが出来ない。と言うか踏み込んでいいものか、わからない。
いくらルイが会いたくないと言ったところで、家族と関わらないでいることなんて無理だ。
入院すれば保証人だっているし、お金だってかかる。退院してからのことも家族を頼らなくてはならなくなるだろう。
だから、家族に抱える恐怖については俺は何も和らげてあげることが出来なかった。

それでもルイは俺との『お泊まり』がよほど嬉しいのか笑顔を見せてくれた。



ルイがすっかり落ち着いたのを見て医師と看護師は病室を出ていった。

暫くルイと、とりとめの無い話をしていると、看護師がやってきてもう一度、医師と話してほしいと俺に伝えてきた。
ルイを看護師に任せてさっきの診察室へ向かったのだが、そこには医師だけでなく、もう一人五十代半ばくらいの女性が椅子に座っていた。

ルイの母親。

何も聞かなくても、そうわかるほど面差しが似ている。

きっちりとしたスーツに身を包んだ、ルイの母親と思しき女性は俺を見ると席を立ち、お辞儀をし自己紹介をしてきた。

やはり女性はルイの母親だった。
どうしても抜けられない仕事があったこと、それで病院に来るのが遅れたこと、俺に世話になったことへの詫びを伝えてきた。

きっちりとした大人の対応だ。

でも、息子の症状を聞いている割りに落ち着き過ぎているように思えて、引っ掛かかりを感じてしまう。

俺はルイと10年ほどの付き合いがあるけど、ルイの口から母親のことで良い感情が語られたところ、――そもそも家族のことを語ること自体が無いに等しいが――を見たことが無かった。
そのせいで、どうしても穿った見方をしてしまう。


俺も自己紹介をして、改めて三人で話をした。

治療方針を一通り説明された後、医師から「さて、それで、どうしましょうか」と話を振られた。

俺とルイの母親両方に問いかけているようだったけど、どうする、と言われても俺は何と答えていいのかわからない。
ルイの母親の方を見ると、目が合った。
そして頭を下げられた。


ルイを、お願いします」
感想 3

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。