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戦争編
子ドラゴンの実力と、神獣の贈り物
しおりを挟む「言うと思った! だが、ちょっと待て! お前、本気でこんなチビを使い魔にする気か? エクレール教に狙われているお前の護衛として、もっと相応しい使い魔が他にいるんじゃねぇのか?」
そう言ったアドルフに続いて、エヴァンも口を開く。
「レイモンド。僕も反対です! 一時の感情に身を任せて使い魔を決めてしまうのは、よくありません。一度契約すれば、主と使い魔のどちらかが死ぬまで、契約を破棄することができないんですよ? 分かってますよね?」
二人の指摘はもっともだ。ジルはドラゴンだが、まだ子供。戦闘能力についても不安がある。
そして、ジルとの契約後に相性が良くないことが分かっても、俺とジルのどちらかが死ぬまで、契約を破棄することができないのだ。
それから、もう一つ。問題があった。
ジルは、神獣ルフの友人の子孫。さらに、ルフにとっても孫のような存在だ。ルフや彼の友人の許可なく、勝手に使い魔にしてしまうのはまずい。
それに、まだジルの意思も聞いていない。
「話の途中にごめんね。ちょっといいかな? 聞きたいことがあるんだけど」
と、俺が新たな問題に思い至った側から、ルフが声を掛けて来た。やはり、勝手に使い魔にするのは駄目だよな。
「アドルフ。……レイモンドが、エクレール教に狙われているというのは、どういうことかな? 事情を説明してもらえるかい?」
「あぁ、そのことか。それなら――」
しかし、ルフが気にしていたのは別のことだった。アドルフは彼に、俺とエクレール教の関係性と、狙われている理由を話す。
その際、俺から境界を越える親愛についても、簡単に説明した。
「異種族を惹き付ける力、か。なるほど。レイモンドが狙われている理由は分かった。それを踏まえて、ジルを君の使い魔にする件だが……」
ルフはそこで言葉を切り、俺達から目を逸らして思案する様子を見せた。そして一度頷くと、真剣な顔で俺を見つめる。
「最終的な判断はジルに任せるが、私としては彼を使い魔にすることに賛成だ。……できれば、君の側にジルを置いてもらいたい。彼の実力については、この私が保証するよ。何故なら、私の友人である彼の先祖は――」
「ギャギャア!」
「ジル?」
言うな! と、ジルが叫んだ。彼の先祖の正体を知られたくないのか? 何故?
「……そうか。ジルが嫌なら言わないけど、お前がレイモンドの使い魔になるつもりでいるなら、せめて彼だけには、後で事情を説明しておきなさい」
「……ギャオ」
ジルは、ルフの言葉に渋々頷いた。……いろいろ訳ありのようだ。
「……神獣のお墨付きの力、か」
アドルフがニヤリと笑う。あ、嫌な予感。
「だったら、その力を俺に見せてみろ。お前がレイを護衛するのに充分な力を持っていれば、使い魔として認めてやるよ」
「……詰まるところ……戦闘狂」
「うむ、そうだろうな。結局は、アドルフがドラゴンと戦いたいだけだ」
「全く、仕方ない人ですね……」
「うるせぇな、お前ら! どっちにしろ必要なことだろうが!」
ミュース、ヴェーラ、エヴァンの呆れた様子に、アドルフが文句を言った。確かに彼の言う通り、ジルの実力を測ることは必要だが……
「アドルフ。ジルは今日、翼を怪我したばかりなんだ。俺が補助魔法で治療したが、今日一日は安静にして欲しいから――」
「ギャウ。ギャオギャオ」
「えっ? 大丈夫って、君……駄目に決まっているだろう。激しい運動はしないでくれ」
「ギャア。ギャウギャウ、ギャオ!」
「……何?」
そもそも、俺の腕の中から一歩も動かないから平気……だって? 一体どうするつもりなんだ?
そう思った次の瞬間。突然、アドルフの背後に黒い鎌のような物が現れ、それが彼に向かって振り下ろされた!
直前でそれに気付いたアドルフは、横に飛んでそれを回避。そして地面に着地した。
しかし、今度はその足元から黒い縄のような物が伸びて、アドルフを拘束する。
「アドルフ!」
その直後。黒い鎌がアドルフの胴体を切ろうとしたが、レイピアとマンゴーシュを手にしたヴェーラが一瞬で割って入り、交差させた武器で鎌を止めた。
さすがは獣王軍最速の戦士――って、感心してる場合じゃない!
「ジル! もういい、止めてくれ!」
「ギャウ?」
「あぁ、充分だ。君の実力はよく分かった。そうだろう? アドルフ」
「……やっぱり、今の黒い鎌も縄も、そいつの能力か?」
「おそらくは。……俺もあまり理解できていないが、ジルが何らかの能力を発揮したことは確かだ」
「……分かった、認める。お前の実力を疑って悪かった。謝るよ」
すると、アドルフを拘束していた縄と、ヴェーラが止めた鎌が霧散した。ジルは満足そうに鼻を鳴らす。
いち早く動いたヴェーラに続いて、武器を構えていた獣人達がざわざわと話し合う中。ミュースが呟いた。
「……今の、影?」
「うん。正解だよ、鼠のお嬢さん。……ジルは、影を自在に操る能力を持っている」
ルフの言葉に納得した。先程は地面から急に黒い物が出たように見えたが、今思い出してみると、最初の黒い鎌と、アドルフを拘束した黒い縄は彼の影から。最後にヴェーラが止めた鎌は、俺の影から出ていたな。
「凄いな、ジル! ブレスだけじゃなくて、そんな力を持っていたのか。頼もしいな」
「ギャオギャオ!」
そう言って、少し硬い頭を撫でる。ジルは、もっと褒めろ、と言いながら頭を押し付けてきた。可愛い。
「……初見殺し、だな。思わぬ場所から攻撃されると、敵は混乱する。その隙に拘束して再び攻撃すれば、大抵の奴はそこで死ぬだろう。俺は切られてもすぐには死なない自信があるが、今回はヴェーラのおかげで無傷だった。……その能力、鍛え上げたら今以上に厄介になるぜ。良い物持ってるじゃねぇか、ジル」
「ギャ、ギャウ……?」
アドルフも、今までとは打って変わり、ジルを高く評価していた。一度認めると随分素直になるな、こいつ。ジルも困惑する程の手の平返しだ。
「俺はこいつを、レイの使い魔にすることに賛成する。ヴェーラ達はどうだ?」
「僕は、契約する側とされる側がお互いに納得するなら、それで良いと思います。彼ならレイモンドの護衛として不足は無いと思いますし、賛成です」
「……確かに、実力は申し分無い。だが、そのドラゴンの子供はクラフトにブレスを放ち、そのせいでレイモンドが谷底に落ちた。これに関してはどう思う?」
「私も……団長と、同じことが気になる……」
アドルフとエヴァンが賛成、ヴェーラとミュースが反対寄りか。それなら、俺の意見も伝えておこう。
「それについては、ジルは悪くない。俺が谷に落ちたのは、この子を助けようとした俺自身の責任だ。それに、ジルがブレスを使ったのは、クラフトの鉤爪と、自分に攻撃してきたハーピーの鉤爪が重なって見えてしまい、怯えたからだ。子供が自分の身を守ろうとした結果、あんなことになってしまっただけだよ。俺はこの子を恨むつもりは無い」
「ギャア、ギャウゥ……」
「この通り、ジルも反省しているし」
「ふむ、そうか。お前が許しているなら、それでいいが……クラフトはどうだ? 自分が攻撃されたことについては」
はっとした。……そうだな。確かに俺が納得していても、クラフトがどう思っているのか……
「キュイキュイ。キューイ、キュイ」
「クラフトは気にしていないようです。今のレイモンドの説明で、納得したと言っています」
「……ありがとう、クラフト」
「ギャウ。……ギャウギャウ」
「キュイ」
礼を言う俺に続いて、ジルがクラフトに謝罪する。クラフトがそれを受け入れたことで、ヴェーラとミュースも納得し、ジルを使い魔にすることに賛成してくれた。
「それでは……改めて聞くぞ、ジル。君は俺の、使い魔になってくれるか?」
「ギャウ!」
ジルが力強く頷いてくれたので、さっそく契約を……したかったのだが。
「皆に言い忘れていたんだが、俺には今、杖が無い。川に流された時に落としてしまったらしい」
「ええっ!」
「馬鹿だな、お前! 亜空間ポーチに入れておけば良かったじゃねぇか!」
「返す言葉も無い……」
自分でも馬鹿だと思っている。次は絶対にポーチの中に入れよう。
「そういう訳だから……ジル。君との正式な契約は、俺が新しい杖を手に入れた後で――」
「ならば、私が君に新しい杖をあげよう」
「え?」
そう言ったルフが突然、本来の姿に戻る。俺達が驚いて見上げていると、彼は嘴で自分の羽根を一本抜いた。
その大きな羽根が輝き、見る見るうちに縮んでいく。……やがて、それが俺のもとにゆっくりと落ちて来た。
落ちて来たそれを、両手で受け止める。――真っ白な杖だった。
失ってしまった俺の杖よりも、少し長い。持ち手が灰色で、羽根の模様が描かれている。それ以外は雪のように真っ白だ。
「それは、ジルを助けるために身を投げ出し、後に怪我の治療までしてくれたレイモンドへのお礼だよ。最後に羽根から杖を生み出したのは何百年も前のことで、久々だったけど……上手くいって良かった」
「そっ、それほど貴重な物を、私に?」
「先に言っておくと、返品は不可。その杖はレイモンドしか使えないからね」
再び人型になったルフが、そんなことを言って笑った。先手を打たれた……! これでは分不相応だからと、遠慮することができない!
「これは……! 非常に強い魔力を感じますよ!」
「綺麗……!」
「良かったな、レイモンド! 魔法師ではない私でも、それがとても良い杖であることは分かる」
「レイ。貰える物は貰っておけ。大事にしろよ」
「言われなくても、分かってる。……ありがとうございます、ルフ様」
「どういたしまして」
杖を貰った俺以上に喜んでいるヴェーラ達と、何故か上機嫌な神獣様はさて置き。
さっそく、使い魔契約を行うとしよう。
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