座敷童様と俺

渡辺 佐倉

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 最初に訪れた家に戻る前に、条件の提示があった。

 それだって、食費、家賃、光熱費がタダになるものの謝礼と称する金額は微々たるもので、アルバイトをした方がまだマシというレベルだった。
 これは断るしかないと頭の中では思っているのに親戚には切り出せない。

「兎に角君は、生活を整えて、彼のいう事を聞いていればいいから」

 親戚はまるで、壊れたレコーダーの様に同じことを繰り返すばかりだ。

 そもそも相手は誰なのか。
 自分の祖父は高校の時無くなっているし、いったい誰の世話が必要なのだろうか?
 それでも再び、今度は二人で先ほどの玄関の前に立っている。

「童《わらし》様、お世話係の者をお連れ致しました」

 玄関の戸を開けると男はそう言った。

「上がっていいぞ」

 先ほどと同じ、高い子供の声だった。
 けれど先ほどと違い、随分と横柄だ。

「兎に角、失礼の無いよう。それからこの後何をいても他言無用に」

 低い声で親戚の男はそう言うと、静かに室内に入っていった。
 仕方が無く、俺は後に続いた。

 先にきちんと聞けばいいのにと自分でも思うのに切り出せない。

 廊下は薄暗く、奥へ奥へと続いている。
 左右を見ると、柱の一本一本に入り口にあった箱と同じ紙が貼ってある。不思議な風習だと思う。
 重い足取りで一歩一歩親戚の後を付いていく。

 一枚のふすまの前で男の足が止まる。

 クルリと無表情で振り返るとまじめな顔をして言う。

「この中にいらっしゃるのは、人ではない。
座敷童様だ。お前にはその方のお世話を頼みたい」
「は?」

 座敷童というのは何かの暗喩なのだろうか。
 引きこもりか何かを家事代行業者の間ではそう言うのだろうか。

 それとも、もう一つのだろうか。それは本家の男がふすまを開けた瞬間、現実のものとなったのを感じた。

 その部屋はいたるところに、札が貼られていた。天井にもびっしり、柱にもびっしりとおびただしい量の札が貼られている。
 それはテレビで見る呪いのなんとかの様でかなり不気味だ。

 黒で書かれた文字は俺は全く判読できない。かろうじて朱色で書かれた部分が文様なのだと分かる程度だ。

 この異様な部屋にいるというのに本家の人間だというこの男はニコニコとゴマをするような笑顔を浮かべている。はっきり言って普通じゃない。

 けれど何よりも異様だったのはそんな部屋の中心でごろりと横になって漫画雑誌に目を通している子供の姿だった。

 その子供は、髪の毛はぼさぼさなものの、服は妙にセンスの良さそうなTシャツと短パンだった。

「お連れしました」

 何故ここで、子供のお世話なのかと疑問に思ったが、次の瞬間、子供の口調にそれも吹き飛ぶ。


「よう、お疲れさん」

 片手をあげておざなりに子どもが言う。
 それを当たり前の様に見て頭を下げる本家の人間に正直ぎょっとしてしまう。

「で、そいつが新しい俺の世話係ってやつか?」

 子供がちらりとこちらを見る。目が合った瞳は子供のそれとはどこか違う気がした。

「はい。是非こき使ってやってくださいませ」

 まるで昭和のノリだ。それを子供に対してやっているのだ。

「こちらが座敷童様だ。
さあ、きちんとご挨拶を!」

 語気を強めて本家の男に言われ思わず息を詰める。
 強く言われるのは少し苦手だ。

 それよりも何よりも“座敷童”というのはやはり何かの暗喩なのだろうか。
 そんな思考も睨まれると止まってしまう。

「……門脇晴泰です。
よろしくお願いします。」
「おう」

 偉そうな返事が室内に響いた。
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