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* * *
夢を見た。
あまり気持ちの良い内容じゃなかった。
うなされて起きる。ぐっしょりと寝汗がでていて、自分の荒い息使いがアレは夢だったと知らせてくれる。
けれど、確信めいた気持ちで彦三郎の部屋にむかう。
そこには誰もいない。
その先にある縁側に出ると彦三郎が胡坐をかいて座っていた。
月が綺麗な夜だった。
「よう……」
彦三郎は相変わらず子供らしからぬ笑みを浮かべている。
なんと伝えればいいのか分からなかった。
ここの家の下に多分彦三郎の遺体が埋まってることも、ただ偶然門脇の先祖がここに屋敷を建てただけだってことも知っている。
それよりも何よりも、こうやって縁側に出ているだけで彦三郎は随分力を奪われてしんどい筈だ。
「あー、やっぱりあれは兄さんの見た夢だったか」
しかも、彦三郎は俺の見てしまった夢の内容を知っている様だった。
「兄さん勘違いしてるな」
俺の表情を見て彦三郎が言う。
「この下に埋まってるであろう俺の死体はもうとっくに土に還ってるだろうし、門脇の暮らしは人間だった時より随分マシだったし、それにこれは――」
それと同時に彦三郎は手を伸ばす。
虚空で火花が散る。
初めて出会った日と同じ光景だった。
あの時は驚いてそれどころじゃなかったが、今見るといっそ美しく見える。
「これは、自分の力をそいでいるだけだ」
ここで発散された力は門脇に福をもたらさない。
浪費すればするだけ、俺の力は発揮できない。
面白そうに彦三郎は言う。
それは良かったとも、それは残念だなとも返せない。
「ラッキーなことに俺は座敷童としても力が強い方らしいから。」
力がそがれなければ、兄さんも無職なんてしてないかもしれないのにな。
彦三郎は言う。それが彼の精一杯の門脇への復讐なんだと分かった。
「あと、別に偶然門脇がここに家を持ったって訳でも無いらしいしな」
俺が何となく今の感情だけで詫びてしまっていいのかを悩んでいる時に彦三郎は付け加えた。
ここに元々あった祠は今はきちんとした神社になってるらしい。
彦三郎に言われて何となくそれがどこの事だか分かる。
りんご飴を買った秋祭りをやっていた神社がそうだろう。
祠が神社になって、村人の一人がこの場所に移り住んだ。
そういう事だと彦三郎は言った。
「妖は人間を取って食ったりはしない。
俺は神様に選ばれたんじゃないこと位もう知ってるさ」
村の人たちが彼を選んだって事だろう。その中の誰かの子孫だって彦三郎は言いたいのだ。
「だから、俺の事を食いたいのか?」
「いや。そういうんじゃないだろうな」
彦三郎は即答した。
「単に、長く閉じ込められすぎて座敷童じゃなくなってきてるってことだろう」
まあ、少なくとも兄さんが死ぬ頃まではちゃあんと座敷童でいられると思うけどな。と彦三郎は付け加えた。
「それなら、ここから出る方法を考えよう」
思ったよりすんなりと言葉が出た。
だって、あんまりじゃないか。こんなのあんまりすぎる。
「前も言っただろう。なんで兄さんはそうやって焦げの方ばかり取ろうとするんだ」
人だった時より、ずうっと楽しいよ。と彦三郎は言う。
「札を剥がせば、彦三郎は外にでれるのか?」
「無理だろうな」
彦三郎の返事を聞いて、それが札を剥がしても逃げられないという事なのか、札を剥がすことが難しいという事なのか理解できなかった。
「両方だよ兄さん」
今のままだと逃げて他へ行くだけの力は無いし、普通の状況で兄さんにあの札は取れない。
誰にでも取れてしまうのなら、そもそもお世話係を住みこませるなんて愚かなことをする訳が無い。
「じゃあ、あれだな。まずは美味いものでも食べて力をつけないとな」
後の事は、調べればいい。
この家はあの夢で見た建物よりも随分新しいものだ。
それにスーパーのおばあさんの言葉もある。
建て替えなのか改築なのかは知らないがその時に札を誰かが貼りなおしている。
であれば何かきっと方法はある筈だ。
夢を見た。
あまり気持ちの良い内容じゃなかった。
うなされて起きる。ぐっしょりと寝汗がでていて、自分の荒い息使いがアレは夢だったと知らせてくれる。
けれど、確信めいた気持ちで彦三郎の部屋にむかう。
そこには誰もいない。
その先にある縁側に出ると彦三郎が胡坐をかいて座っていた。
月が綺麗な夜だった。
「よう……」
彦三郎は相変わらず子供らしからぬ笑みを浮かべている。
なんと伝えればいいのか分からなかった。
ここの家の下に多分彦三郎の遺体が埋まってることも、ただ偶然門脇の先祖がここに屋敷を建てただけだってことも知っている。
それよりも何よりも、こうやって縁側に出ているだけで彦三郎は随分力を奪われてしんどい筈だ。
「あー、やっぱりあれは兄さんの見た夢だったか」
しかも、彦三郎は俺の見てしまった夢の内容を知っている様だった。
「兄さん勘違いしてるな」
俺の表情を見て彦三郎が言う。
「この下に埋まってるであろう俺の死体はもうとっくに土に還ってるだろうし、門脇の暮らしは人間だった時より随分マシだったし、それにこれは――」
それと同時に彦三郎は手を伸ばす。
虚空で火花が散る。
初めて出会った日と同じ光景だった。
あの時は驚いてそれどころじゃなかったが、今見るといっそ美しく見える。
「これは、自分の力をそいでいるだけだ」
ここで発散された力は門脇に福をもたらさない。
浪費すればするだけ、俺の力は発揮できない。
面白そうに彦三郎は言う。
それは良かったとも、それは残念だなとも返せない。
「ラッキーなことに俺は座敷童としても力が強い方らしいから。」
力がそがれなければ、兄さんも無職なんてしてないかもしれないのにな。
彦三郎は言う。それが彼の精一杯の門脇への復讐なんだと分かった。
「あと、別に偶然門脇がここに家を持ったって訳でも無いらしいしな」
俺が何となく今の感情だけで詫びてしまっていいのかを悩んでいる時に彦三郎は付け加えた。
ここに元々あった祠は今はきちんとした神社になってるらしい。
彦三郎に言われて何となくそれがどこの事だか分かる。
りんご飴を買った秋祭りをやっていた神社がそうだろう。
祠が神社になって、村人の一人がこの場所に移り住んだ。
そういう事だと彦三郎は言った。
「妖は人間を取って食ったりはしない。
俺は神様に選ばれたんじゃないこと位もう知ってるさ」
村の人たちが彼を選んだって事だろう。その中の誰かの子孫だって彦三郎は言いたいのだ。
「だから、俺の事を食いたいのか?」
「いや。そういうんじゃないだろうな」
彦三郎は即答した。
「単に、長く閉じ込められすぎて座敷童じゃなくなってきてるってことだろう」
まあ、少なくとも兄さんが死ぬ頃まではちゃあんと座敷童でいられると思うけどな。と彦三郎は付け加えた。
「それなら、ここから出る方法を考えよう」
思ったよりすんなりと言葉が出た。
だって、あんまりじゃないか。こんなのあんまりすぎる。
「前も言っただろう。なんで兄さんはそうやって焦げの方ばかり取ろうとするんだ」
人だった時より、ずうっと楽しいよ。と彦三郎は言う。
「札を剥がせば、彦三郎は外にでれるのか?」
「無理だろうな」
彦三郎の返事を聞いて、それが札を剥がしても逃げられないという事なのか、札を剥がすことが難しいという事なのか理解できなかった。
「両方だよ兄さん」
今のままだと逃げて他へ行くだけの力は無いし、普通の状況で兄さんにあの札は取れない。
誰にでも取れてしまうのなら、そもそもお世話係を住みこませるなんて愚かなことをする訳が無い。
「じゃあ、あれだな。まずは美味いものでも食べて力をつけないとな」
後の事は、調べればいい。
この家はあの夢で見た建物よりも随分新しいものだ。
それにスーパーのおばあさんの言葉もある。
建て替えなのか改築なのかは知らないがその時に札を誰かが貼りなおしている。
であれば何かきっと方法はある筈だ。
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