座敷童様と俺

渡辺 佐倉

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 あの狐の神様とは帰る前にトークアプリのIDを交換した。
 彦三郎のノートPCをよく見ているし、通販もしている。
 今時の妖怪の類は、普通にスマホを契約しているらしい。

「狐は必ずお礼が必要だから、気軽に何でも質問するなよ」

 彦三郎に注意されている為、メッセージにふわっと返信する以外はあまりしていない。
 気に入られたという訳ではないが、メッセージは良く来ている。

 段々、寒さが強くなっていく。実家がある場所よりここは大分冷え込む地域だ。


* * *

 新年会から、二週間と少し経った日だった。
 一段と冷え込んだ朝窓から外を見ると一面真っ白だった。

「雪だ……」

 子供の頃であればもう少し興奮したのかもしれないけれど、大人になってしまった今は、これ自転車乗れないんじゃないかとか、バスは時刻に動いているのか、そんな事ばかりが気になる。

「兄さん、兄さん。雪が積もってるぞ!」

 うちの子供の様な子供でない様な生き物は、子供らしく興奮気味だ。

「ああ、すごいな」

 こういう時テンションをあげられない自分が少し寂しい。

 雪だるまでも作って遊ぶかと言いそうになってやめる。
 彦三郎は庭であっても外に出られないのだ。


 今日はまだ着替えていないので服装は寝間着替わりにしているトレーナーとフリースのズボンだ。

 そのままダウンジャンパーを着て庭に出る。

 庭木にも雪が積もっていて、まるで周りに音が無くてここだけぽっかりと別の世界みたいに見える。

 雪はまだやんでおらずしんしんと降っている。

 羨ましそうに縁側から彦三郎がこちらを眺めていた。
 先ほど見た庭木に南天があったのを思い出す。

 実を二つと葉を二枚むしると、雪を集めて楕円形にする。

 縁側の窓に鍵はかかっていない。

 かじかむ手で窓を開けると床に直接雪を置く。
 お盆はどこかにあったかもしれないけれど、一旦家の中に戻るのは面倒だった。

 そこに、南天の実で目を、葉を耳にすれば雪うさぎができる。

 まともに作ったことは無かったけれど、これは中々にかわいいのではないだろうか。

 彦三郎はしゃがみ込んで雪うさぎを見る。

 それからとても嬉しそうに笑った。




 それをみて、少し心がざわつく。

 単なる雪うさぎだ。なんの変哲もないそれをみてそんなに嬉しそうにするとは思わなかったのだ。

 もう一つ作って、先ほどの雪うさぎの横に並べる。
 もう一匹、あともう一匹。

 手がかじかんで赤くなってきている。
 手袋は持っていない。

 一匹ずつ雪うさぎを並べて十いくつか作った。
 みんな同じいびつな形をした南天の目と耳のうさぎたちが、縁側とその外の庭に並ぶ。

 はあ、とかじかんだ手に吹きかけた息が白い。

 彦三郎は座り込んでうさぎを覗き込んでいる。それから、家の中に運び入れた一匹に触れて、両手でそおっと持ち上げていた。

「可愛いもんだなあ」

 静かに雪が降る中、彦三郎の声が妙に響く。

 彼だって見た目はかわいいお子様なんじゃないか。本当は雪で遊びたかった時もあるんじゃないか。

 いろんな考えが頭の中をよぎって、取り留めも無い。

「それにしても兄さん沢山作ったなあ」

 彦三郎は雪うさぎを眺めながら言う。

「別にいいじゃないか」

 言い返すと「そうだなあ。でもみんなお日様が出たら溶けちまうんだろ。ちょっとかわいそうだな」といって優し気に笑った。



 別に丁寧に作ったものじゃない。
 形も歪だし、凝ったものでもない。

 数が多いと言ってもたった十数個のうさぎだ。

 子供の頃ひたすら雪だるまを作った時の方がもっとずっと長い時間だったし、別に彦三郎ならではの何かという訳でもない。

 それなのに、嬉しそうに笑う彦三郎を見るとなんとも言えない気持ちになる。

 何か形に残るものを渡してやれば良かったのか。それとも、もう大人になって、そんな溶けてしまってかわいそうだと思うことが無くなったことを嘆けばいいのか。
 彦三郎の心が子供のままだからそんな風に思うのか、自分がすさんでしまっているからなのかも分からない。

「雪っていうのは、融けて自然にかえるはかなさが美しいんだから、いいんだよ」

 別に彦三郎の言った事に反論したかった訳でもないし、上手い事を言いたかったわけでもない。

 雪は消えてなくなってしまうからいいというのも、思いついた様なものだ。

 なのに彦三郎は少し寂しそうな、それでいて嬉しそうな顔をして「俺も雪は融けるからこそ美しいと思う」と答えた。

 それからもう一度うさぎをながめて寂しそうに「妖怪が自然にかえるっていうのはどういう状況だろうな」と言った。

 俺は、何も答えられなかった。
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